20.水路工事開始
リリが加わった翌日からいよいよノエルの初めての本格的な公務となる水路の工事が始まった。
水汲みの村人たちと共に湖に向かう。
俺とノエル、リリに加えて今回はジョルジュも同行した。ノエルの魔法を見たことがないので確認しておきたいということらしい。
ブライも同行したがったが、まだ傷が癒えていないためサラとジョルジュ婦人に看病をお願いして残してきた。
工事が始まるので、ゲンサン率いるオークたちにも同行してもらった。元々の鉱山は行く集団とは違い、新しく集落に来たオークたちに来てもらっている。
湖に向かう子供たちはノエルがまた一緒に来ていることには嬉しそうだが、オークの集団も一緒だとどこか緊張しているようだ。
湖に到着すると早速、ノエルの魔法で土を掘り出していく。
いきなり水路を湖とは繋がずに少し離れたところから掘って行き、全ての水路が繋がり川へ引き戻すところまで来たら開通するような段取りだ。
湖への獣道は残しておく必要があるため、少し離れた荒地を整備しつつ掘り進めていく。湖から村へ水路を作る際に出た土は村人たちが誤って水路へ落ちないように土塁にして積んでいく予定だ。
ノエルが魔法を使うのを興味津々に皆が見守る。
危ないので全員に少し離れてもらう。
恐らく土を掘り上げていくことはこの村の人たちは初めて見る光景だろう。しかも手を見ることができないので土が抉られて空中に浮くところだけを見るのだ、驚かないはわけがない。
ノエルは俺と初めて会った日に教えたように手で土を掘る動作を行う。あの日は初めてだったからぎこちない動作だったが、ノエルは今は自分なりに練習していたのか迷いなく巨大な手を操っている。魔獣との戦闘でも使いこなせるようになっていたし経験値は上がっているのだろう。
土は掘られ、ノエルは予定通り獣道側へ掻き出した。
ノエルが掘った場所をオークたちが穴を掘った場所を固めたり、土塁を造ったりして水路として整えていく計画だ。
「これほどのものとは……これなら村へ水を引くこともできそうです」
ジョルジュはノエルの力に感動して声が震えていた。
村人たちは水を汲むと村へ帰っていった。ジョルジュもまだ仕事はあるようでノエルの力を確認すると村人たちと同行した。リリも工事を見て何か考えたことがあって、今日はできることがないから、と言って戻っていった。
陽が南の空高く昇った頃に休憩になった。昼休みということらしい。
簡単な昼食を全員で取るが、力仕事をするオークたちにはもっと精の出る食事を取らせてあげたい。
そのためにもノエルの力になって村を発展させよう。
「村へ引く水路、村を囲う堀、村から川へ返す水路、それぞれ一週間くらいかかりそうでしたが三日で基礎だけは作れそうですね」
ノエルは思ったより早く工事が進みそうな感覚があるらしい。確かに初日はノエルの掘削は順調に進んだ。
逆にゲンサンたちオークの整備の方が大変そうだった。
「それにしてもこの世界も週や月の考え方があるのですね」
「もちろんですよ、無いと行事をしたりする時にも大変ですもの。ちゃんと五つの力に沿って決められていますよ」
「一週間は七日あるのに五つの力だとだんだんズレて行ってしまうので大変ですね。私の世界にもそういうのがあるのですが覚えるのが大変でしたよ」
ノエルが不思議そうな顔で俺を見た。
「一週間は五日ですよ。それが五週ありまして、それが一つの月になります。一月は二十五日でそれが十二回繰り返すと一年になるのです。タロウ様の世界は違うのですか?」
新しい情報が出てきたぞ。そうするとノエルは十五歳といいつつ元の世界だともっと幼いし、俺はこの世界ではもっとおじさんになるのか。黙っておきたいが説明しないわけにはいかない。
「十二月で一年なのは一緒だけど一週間は七日ある。しかもそれがどこで区切るかその月によって違うから説明が難しいんだが一月はだいたい三十日って覚えてくれればいいです」
「では、私はその世界ではもっと幼いのですね」
ノエルは計算が早かった。俺の年齢に触れないのは優しさか。
この世界は火、水、木、風、土の要素を大事にしていてこの組み合わせで週や月を構成しているとのことだ。五つの元素を組み合わせると二十五の組み合わせができてそれを毎月繰り返す。分かりやすいし、覚えやすい。
元の世界の違いは日と月、それと金が無いということだ。金は五元素ではなく貴重品の扱いのようだ。それと俺の目に映る太陽や月はこの世界では太陽や月ではないのかもしれないし、空にある神秘的なものということで研究している人もいないのかもしれない。
季節もきっちり四分割されていると合わせて教わった。
一月から三月が春、そこから三ヶ月ごとに夏、秋、冬と続いていく。四月から六月が夏と呼ぶのには慣れが必要そうだ。
そして今は二月だった。一月に王都で行われた新年の行事を終えてノエル達は王都を出発したとのことだ。
夏になると水の消費も増えるので、それまでに工事が終わるなら村はとても助かるだろうとジョルジュが言っていた。
とにかく新しい情報として月日の数え方を知ることができてのは良かった。
「少しでも早く水路を完成させましょう」
俺がそう言うとノエルは頷き、顔にやる気が満ちたようだった。




