18.傷薬
魔獣討伐をした後、水路と堀の工事を進めることをグリーンとゲンサンにノエルから伝え、解体した魔獣の肉は必要な分をそれぞれオークとゴブリンで分けて残りは人間の村へ届けてもらう。他の素材はオークが管理することになった。
村へ戻ると先行して戻っていたブライは自室へ運ばれていた。思ったより傷が深かったらしい。
ジョルジュに連れられて俺とノエルとサラはブライの部屋へ向かう。
「なんてことはないっスよ。こんなの一日寝てたら治るので、明日からの工事は立ち会うっス」
口ではそう言うがブライの顔は苦しそうだった。
戦闘中は全員必死だったのでブライの傷のことまで気を回せなかった。
ジョルジュが手当をする時に見た限りでは内臓は無事だが傷は深いらしい。
「無理をしてはいけません。しっかり傷が癒えるまでは休むように。これは王女としての命令です」
ノエルが言った。心配しているのだ。
「今夜は何も考えずにゆっくり休んでください」
ブライの部屋から出た後、サラには調査の片付けをお願いをして、俺とノエルとジョルジュでブライのことを相談する。
「本当のところはブライの傷はどうなのですか?」
ノエルが問う。
「傷は深いですが、内臓は無事ですし命に関わることはないでしょう。しかし、この村には傷薬も少なく治るまでに時間はかかるかもしれません」
この世界の医療は大きく三系統に分かれていることを教えてもらった。
まず、医者と呼ばれる職業がある。ただ、これは戦闘や事故で負傷した人を助ける外科的な役割だ。
次に薬師。薬草や魔法の素材などを調合して薬を作る職業だ。塗り薬や飲み薬を作る。病気などの身体の中から治す時に頼られることが多い。
最後は魔法使い。治癒魔法だ。使用者の魔力量によるが死亡する以外は怪我だろうと病気だろうと治してしまう。当然、そんな力を持つものはこの世界に限られているので、この国では王都にしかいない。
「この村には治癒魔法使いどころか、医者も薬師もいません。この村どころか森の南の村にもいません。この村は王都から定期的に来る使者に王女が赴任する地ということで最低限の薬は分け与えられ運んできてもらえますが、それだけです。あとはエルフの森のエルフ様にお供え物と交換で薬を作って分けてもらう手段もありますが、ここら辺ので獲れる作物では簡易的なものしか分けてもらえないのです」
ジョルジュの言葉にノエルが返す。
「それなら魔獣から獲れる素材はどうですか?」
「魔獣の素材……それなら確かに珍しいですし、文献にもエルフに喜ばれると記述があります。今までこの付近では魔獣の出現もありませんでしたし頭の中から抜けておりました」
「それでは早速、明日、オークの村で魔獣の素材を受け取りエルフの森へ行こうと思います」
ノエルはそう言った。工事開始は遅れそうだが、まずはブライに元気になってもらいたいというだ。
翌朝、俺とノエルはオークの集落に寄って魔獣の素材を受け取りエルフの森へ向かった。
距離があるための馬車を引いていた馬を借り二人で向かうことになった。実は大学の頃に乗馬の経験もあるので簡単な馬の操作くらいはできる。剣道といい乗馬といい、現実世界では役に立たない場面が多そうなものも、こちらの世界では役に立てることができて少し嬉しい。
ジョルジュやゲンサンの話によると南の村と繋ぐ道の中心部にお供えをする祭壇があるとのことだった。
「私は南から森を抜けて村へ来ましたが道中はずっと馬車の中だったので森のことはよく分からず祭壇があることも知りませんでした」
「そんなこと言ったら俺なんて森で目を覚ましたのに何も森のこと知りませんよ」
そんな話をしているうちに森の中心部の祭壇に到着した。
祭壇は分かりやすく、他よりもかなり大きな樹齢も長そうな樹に備えられていた。
ノエルは持って来た魔獣の素材を祭壇に供えた。
「エルフ様、魔獣の血と牙、それと皮を持って参りました。今、私たちは傷薬を必要としています。どうか分けてください。お願いします」
「最近はここら辺にも魔獣が出るようになったのだな。お前たちの活躍は見ておったぞ。それに以前の魔獣の血も貰っておるし傷薬くらいすぐに用意する。私は姿を見せるわけにはいかないので使いの者をやるので少し待っておれ」
エルフの声だけが聞こえた。そういえばクリスが以前オークに魔獣の血を供えておくように言っていたのを思い出した。いつか薬を分けてもらうことを想定していたのだろう。
ここの祭壇はキッタール村やオーク、ゴブリンのは集落だけでなく南の村からも薬を求めて人々がお供えに来るとのことだ。
エルフは人々の元に姿を見せることなく、数日後に改めて祭壇に行くと薬が置かれているそれを持ち帰るのが基本らしい。宛名も書いてあるから他の人の薬を持ち帰ることもなく、故意に盗むものには罰が当たると信じられているからそういう不届者もいないみたいだ。
俺もノエルも今日のところは供えて戻る予定だったから待たされるのは考えていなかった。
少し待つと白髪の長髪の少女が森の中から傷薬を持って現れた。
「彼女はリリ、人間の娘だ。森に捨てられていたところを育てた。薬の調合の基礎は教え込んである。そなたは王女なのだろう。リリに職業の儀式を施し薬師にしてやって欲しい。そして、村の薬師として使ってやってくれないか。そなたは魔獣の退治をできる強さもあり、信頼ができそうだ」
「私は王女なので職業の儀を行うことはできます。しかし……私ひとりで決めることは……」
「それでも村に連れ帰って、今まで供えに来ていた男とでも相談してくれ。どうしても難しそうならリリはここに連れ戻してくれ」
職業の儀式が何か分からないが、エルフからノエルに頼みごとをされているのは分かった。
「それにそなたは村を発展させたいのだろう。薬師が村にいて損になることはないはずだ。もし職業に儀式に成功したら次に供え物をする時にでも報告してくれたらそれで良い。薬師が居てもまだまだリリはひよっこじゃ。高度な薬は作れないからのう」
「分かりました。薬師が村にいてくれるのは心強いです。リリさんを連れて行かせていただきます」
「そうか、頼んじゃぞ」
傷薬を取りに来たはずの俺たちはノエルと同じ歳くらいの少女を連れて村に戻ることになった。




