13.ノエルの初公務に向けて
ノエルの着任式のようなお祭りはゴブリンキングとオークキングを誕生させる事件が起きた以外は無事に終わった。
それが大きな事件だったのだが。
夜が明けた。まだ昨日の熱が村には残っているよう感じる。
オークとゴブリンたちは夜のうちにそれぞれの集落に帰っていった。
「タロウ殿、昨日のようなことは困ってしまうが、何卒、ノエル様のことをお支え願う」
ノエルやジョルジュにも挨拶をした後にブライとサラにも声をかけ、クリスは朝一に馬車に乗って王都へ帰還した。
村人たちは明るい顔でそれぞれの仕事を始めている。
男たちのほとんどは鉱山の開発、そうでないものは農業に従事している。オークたちも鉱山の開発の手伝いをしているものもいて山の麓は人間とオークが入り混じっている。ゴブリンたちは様々な道具の開発や修理、あとは森の近くに罠を張って狩りをして村や集落の食糧の確保をしている。
そして、世が明けたということはノエルの初めては公務が始まることになる。
しかし、ノエルに天から与えられた巨大な手の魔法はどう使うか王都からも指示がなく本人も迷っているはずだ。
さて、どうなるか。
ノエルは簡易的な服装で一階の食堂へ下りてきた。
髪の艶よ髪色もよく綺麗にまとまっているので王女の雰囲気は残っているのものの知らないと村人に見えないこともない。
今朝はノエルとジョルジュと俺の三人で朝食の後に今後のことを話し合うことになっていた。
「私から提案がございます」
ノエルが話し合いの口火を切った。こういうのはジョルジュが切り出すものかと思っていたから驚いた。ジョルジュも驚いていた。
「昨日の皆さんからの話を聞いて、私に出来ることを昨夜考えてました。ここに来るまでは不安で小さくなっていしまっていました。しかしタロウ様と出会ってから魔獣の退治や種族の進化を見て元気をもらいました。それに手を見ることができるタロウ様から助言ももらえば、使い方も見えてくると思うよりになりました」
ノエルの目の下に隈があるのは寝不足で村のことを考えて自分のできることを探していたせいだったか。
「正直に申しますと私に思い付くことは大人の方々が思い付くことばかりだと思うのですが……私の大きな手でできることは鉱山の開発か水の確保のお手伝いではないかと考えました」
なるほど、いいのではないだろうか。この前のノエルの話からは恐らく王女たちが与えられる魔法は現代では文明が発達して使われている科学技術とかの代わりになるものなどが多い印象を受けた。
ノエルの手はショベルやクレーンの代わりになりそうだ。イメージとしては良い線を行っていると俺は思っている。
しかも、ノエル自身が武術を覚えたら戦闘にも使えそうな可能性もある。
「いいと思います。一昨日の夜に巨大な手を見せていただいた時の使い方ならどちらも可能かと」
俺はそう伝えた。鉱山の開発と水源の確保、どちらをするか。王都のことを考えたら鉱山の開発を進めた方が良さそうだが、水を村に確保するのは村にとっては大きな発展への一歩になりそうだ。
「私は水をこの村まで持ってきたいと思います」
ノエルは王都のことよりもこの村のことを考えているようだ。
「私は水を確保することはこの村にとってとても大きなことだと思いました。毎日、キッタール山から無限に落ちる滝からの水で出来た湖まで村の女の人や子供が水汲みに行って村の水を確保をしていると聞きました。それでは負担も大きいですし、十分な水がこの村で確保できるとは思えません。それに水汲みの時間を減らせば他のことに取り組めて村の発展に繋がると思いました」
それはその通りだ。負担が減れば他のことに使える時間が増える。村の農作物も育ちやすくなるだろう。生活に豊かになりそうなこの案には乗りたい。
「俺からも提案があります。湖からこちらへ水を引くといっても貯めておくだけだと水は停滞して淀んでしまいます。そう考えると水を引くだけではなく湖から流れているへ返すような流れを作るのがいいと思います。それとオークやゴブリンにも相談しないといけませんが、彼らの集落も村の一部と考えて堀を作りましょう。水路や堀を作った時に出る土は積み上げて防壁にする。そうすれば野生の獣からの農作物の被害も減らせるかもしれません」
「それはいい考えですね。ジョルジュはどう思います?」
「私は魔力があるとはいえクリスと同じで後天的に授けられたものでノエル様の手を見ることができません。手を使うノエル様とそれを見ることができるタロウ殿がそう考えるのなら試してみるのがよいでしょう。ただ……」
「ただ、どうしましたか?」
言い淀むジョルジュにノエルが聞く。
「村から湖までは結構な距離があります。村とオークとゴブリンの集落の距離もあり、水を引いた後に堀まで作るとどれくらいの時間がかかることか……以前も水路を引くことや壁を作ることも考えたのですが人手も時間も足りずに諦めた過去がありまして」
「そうだったのですね。でも、それは私やタロウ様がいなかった時のことです。確かにやってみたら無理かもしれません。それでも取り組んでみないと分かりません。まずは水汲みの村人たちと湖まで一緒に行きましょう」
ノエルは湖まで行くことを想定して簡易的な服装だったようだ。出会った時の馬車で縮こまっていた姿からわずか二日で大きく成長していた。




