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進化にまつわる事件

ノエルが村からの意見を集約した後に俺は余計なことをしてしまった。


幹部たちの集まりで気になったことがあったので、考えも無しに聞いてしまった。

「オークやゴブリンたちは名前はないのですか?」

「オラたちは名前はないですよ。みなそうです」

ハイ・ゴブリンが答えくれた。

「でも、名前があった方がやり取りをしていく中で便利だと思うのですよね。ハイ・ゴブリンさんとかあなたとかキミとか呼ぶよりお互い分かりやすいと思いますよ」

「そんなものなんですかねぇ。オラたちは仲間同士でも名前はないからよくわからんです。それに名前なんてもったいなくて……」

「例えば君の名前はグリーンとかどうだろう」


「あっ」

ノエルが声をあげる。ハイ・ゴブリンも声をあげてそれに重なったように聞こえた。

ジョルジュとクリスも驚きの表情でこちらを見る。


ハイ・ゴブリンの身体が光はじめた。

俺は何かよくないことをやってしまったらしい。


光が収まった。

特にハイ・ゴブリンに何かダメージを与えたわけではないみたいで安心した。

それにしても顔が少し端正になり身体つきもよくなったように見える。


「タロウ様、やってしまいましたね」

ノエルに言われた。やはり何かやってしまったらしい。

「彼は……グリーンと名付けられましたか……グリーンはハイ・ゴブリンからゴブリンキングに進化してしまいました」

「進化? 名前を付けただけで?」

「もちろん名前を付けただけでは進化はしません。それに名付けられる側も拒否ができますから。一定以上の魔力を持った者、ここでは私とタロウ様だけですが、その者が名前を付ける。そして受ける側が信頼関係を結ぶとハイに進化してきる種族はキングに進化するのです」

「ここに来るまでの馬車で説明したが、この世界には様々な種族がいる。人間やドワーフ、ホビット、それに人魚は自分たちで名前を付けたり名乗る文化があるからこういう進化はない。逆にゴブリンやオーク、リザードにサハギンなどはハイからキングに進化することが確認されている。その先のロードになることも文献に記されているが現在確認はされていない。あとは獣人やエルフはまた違う形での成長をするようだが詳しいことは分かっていないのだ」

クリスが補足してくる。確かにここまで馬車の中で種族の説明は受けていた。だが、信頼関係も条件の中にあるのにこんなに簡単に進化してしまうなのか。先ほど出会ったばかりだ。信頼関係が構築されていたとは思えない。

「名付けによって魔力で進化を促すことは禁止されているわけではありません。そもそも魔法を使えるものが少なく、しかも進化をさせるほどの魔力がある者など限られていますから。ただ、ここ最近ではキングになった種族は確認されていませんので国だけでなく世界で話題になってしまうかもしれません……」

ノエルが心配そうな顔をする。

「でも、そんなのここの村だけで黙っていたら大丈夫じゃないですか?」

心配になるには何か理由がありそうだが一応聞いておく。

「それがそうも行かないのです。進化などの魔力を使う出来事が世界で起こると、それを行うことができる魔力を持つものは感知できるのです。王女たちは王都の魔法使いはもちろん、隣国や魔王軍の魔人にも届いたと思った方がいいでしょう。あとはゴブリンが進化したことでゴブリンたの中にも感知したものがいるといっていいでしょう」

「そんな……大変なことをしてしまったのですね……」

「ただ、人間や魔人で魔力を持つ者も今まで他種族の進化になど興味がなく誰もやってきませんでした。古い書籍に記されているだけで知識としては知る者はいても実行した者がおらず、実行を試みる者もいなかったので法で禁ずるどころか書物に記されているどこか他人事のものでした」

「でも、ゴブリンが進化したことで何か起こるかもしれないのですね」

「それはあるかもしれません。ただ、今は心配しても仕方ないでしょう。何か起こった時に一緒に考えましょう」

ノエルは俺よりもしっかりしている。

「オラ、名前が貰えるのも嬉しかったし、タロウさんが火を付ける魔法を使っているのを見て尊敬してしまっただよ」

グリーンがそう言う。これだけで信頼になったというならいい加減な取り決めのように思ってしまう。

「せっかく力を貰ったから、今まで以上に群れをまとめて村のために頑張るよ」

「分かりました、グリーンさん。あなたはこの世界で恐らく唯一のゴブリンキングになりました。その力を私たちに貸してください。共に村を発展させていきましょう」

ノエルとグリーンが握手を交わす。王女が就任した初日に人間の王女とゴブリンの長が握手する光景をみることになるとは考えてもいなかった。


そうするとハイ・オークが俺に頭を下げてきた。

「タロウさん、我にも名を付けて貰えないだろうか? ゴブリンだけが進化してしまうのはどうしても対抗心が抑えられず、何とかお願いできないだろうか」

「いや、でもこれは事故みたいなもので……」

名前を付けるくらいならしてもいいのだが、この何年も起きていなかった進化が一日で二回も起こるのは世界が大きく変わりそうで怖い。それにノエル達の目も気になるから返事に窮する。

「オークも村のために働きます。だから何卒お願いしたい」

ハイ・オークがさらに深く頭を下げる。

「ノエル様、どうしたら」

「村のためということで私からもお願いします」

村を発展させるためにはノエルは肝も据わっているようだ。ジョルジュとクリスはもう知らないという感じだ。

「分かりました」

誰にも言えないがゴブリンは肌の色が緑でそのまま安易に名付けてしまったのだ。名前なんてそんなに思い付くものではない。肌色だとピンクとかになってしまうし、ハイ・オークにピンクはないだろう。オークたちは土木技術に優れていて職人気質なところがあると聞いた。

「源さん……」

職人と言えばというような名前が口から出てしまった。

ハイ・オークの身体も光始めて、光が収まるとグリーンの時と同じように顔が整い身体付きがよくなっていた。

「ゲンサン、いい名前をありがとうございます」

源に付けた"さん"まで名前に入ってしまったらしい。

こうしてハイ・オークはゲンサンと名乗りオークキングに進化した。


それにしても事故から始まった進化とは言え、夜に二度も進化の通知が届いた側は迷惑だっただろうなと思う。

俺は心の中で謝っておいた。

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