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小さな恋の物語  作者: やまちゃぁん


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5/5

第5話:クリスマス・イブと、勇気の一歩

 雪はまだ小さく舞い続けていた。

 夜の街灯に照らされ、白い世界が淡く光る。


 結衣は家の窓から外を眺めて、そっと息をつく。

 心臓の奥がざわざわして、まるで雪の粒が胸の中で跳ねているかのようだった。


 明日はクリスマス・イブ。

 毎年、家族とケーキを食べるくらいで終わる日だけれど、今年は少し違う。


 ——悠斗と、初めて二人で過ごすかもしれない。


 思うだけで、胸の奥がきゅっと締め付けられる。

 バカ話をして笑い合ういつもの関係とは、確実に違う緊張が混じっている。


 結衣は布団の中で、スマホを手に取り、思わずメッセージを打とうか迷った。


『明日、雪、見に行く?』


 送信ボタンの上で指が止まる。

 返事が来たらどうしよう、照れすぎて何も言えなくなったら……。

 胸が張り裂けそうになる。


 結局、勇気を出せずに布団を握りしめるだけだった。



 翌朝。外は前日の夜からの雪で、学校の屋根や道路は一面の銀世界。

 結衣は厚手のコートにマフラーをぐるぐる巻き、通学路を歩く。

 手袋の中の指先も、少し震えている。


 教室に入ると、悠斗が窓際の席に座っているのが見えた。

 昨日までのぎこちない距離感は、今朝も続いている。


 視線が合う。

 お互い一瞬、何を言うべきかわからず、顔をそらす。

 でもその沈黙さえ、胸を高鳴らせる。


 放課後まで、二人の会話は少なめだった。

 しかし心の中では、互いのことばかり考えている。



 放課後。校門を出ると、雪はまだ舞っていた。

 結衣は通学路を歩きながら、ふと立ち止まる。


 その時、悠斗が背後から声をかけた。


「結衣、待って」


 振り返ると、悠斗が少し照れたように立っている。

 雪の白さに包まれた悠斗は、普段より少し大人びて見えた。


「……悠斗」


 二人の距離は、自然と近くなる。

 手袋をした手を少しだけ差し出し、悠斗が言った。


「雪、見に行こう。写真も撮ろう」


 結衣は少し驚く。けれど、嬉しさが胸を満たす。


「う、うん……行こう」


 二人で歩き出すと、雪の上に足跡が二つ並ぶ。

 心臓の音が止まらず、互いに意識せざるを得ない距離。


 笑い声も、言葉も、自然と出てくる。

 雪の冷たさを忘れるくらい、胸の奥が熱くなる。


 悠斗は途中で立ち止まり、結衣を見た。


「……あの時のこと、覚えてる?」


「うん……あの時、ありがとう」


 悠斗は微かに頷き、目を逸らす。

 結衣の手をそっと握る。


「……結衣、俺……その……」


 言葉が途切れる。雪の音だけが、二人の間を包む。

 結衣も同じ気持ちで、顔を赤くしてうつむいた。


「……私も……」


 互いに言葉を交わさなくても、胸の奥で感じていることがある。

 それは、ただの友達以上の感情だ。


 悠斗は小さく息を吸い込み、勇気を振り絞る。


「結衣……好きだ。ずっと、ずっと」


 結衣は一瞬、雪の粒のように固まる。

 そして、ゆっくりと顔を上げ、笑顔を見せた。


「私も……悠斗のこと、気になってた」


 その瞬間、雪が二人の周りでふわりと舞い、まるで祝福しているかのように降り注ぐ。

 手と手がしっかりと重なり、心臓の音が止まらないまま、二人は歩き出す。


 笑いながら、互いの距離を確かめ合い、自然な会話が戻る。

 でも、二人の心には確かに、変わらない想いが宿っていた。


 ——友達以上、恋人未満の距離から、ついに一歩踏み出した二人。


 雪の街を歩くたび、胸の音は止まらず、

 小さな恋の物語は、静かに、でも確かに動き出したのだった。

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