元やくざの“シノギ”
鬨の声が止むと、今度は一斉に、乾いた破裂音が鳴り響いた。
ドォン! ドン! ドン!
4万の石田方は、一斉に鉄砲を撃ちかけてきたのだ。鉛玉の雨が、伏見城の城壁に降り注ぎ、土煙と石片を巻き上げる。兵士たちは櫓や塀の陰に身を隠し、恐怖に震えている。
「くそっ、やりやがったな!」
銀次は、かつての抗争で銃弾の音を聞き慣れていたが、この物量にはさすがに肝を冷やした。しかし、怯むことはない。
「おい、おめえら!頭を上げんな! 耳を澄ませ!」
銀次は、身を潜めた兵士たちに大声で叫んだ。
「何言ってんだ、銀次! 頭上げたら蜂の巣だぜ!」
兵士たちが、いっせいに銀次を罵った。しかし、銀次は構わない。
「いいから聞け! 奴ら、撃ちっぱなしじゃねえ! 必ず間ができる!」
銀次は、かつての抗争で、相手の銃弾をかわすために身につけた、鉄砲の弾切れのタイミングを見極める術を、兵士たちに伝えた。
「よーし、いいか! 一斉に撃ち終わった! 今だ!」
銀次の合図とともに、兵士たちは一斉に顔を上げ、鉄砲を構える。
「撃てぇ!」
銀次の号令とともに、城内の鉄砲隊が一斉に火を吹いた。その狙いは、西軍の鉄砲隊。
石田方の鉄砲隊は、まさか、反撃を受けるとは思っていなかったのだろう。慌てて身を隠そうとするが、時すでに遅し。何人かの兵士が、鉛玉をくらって倒れた。
「くくく……まさか、こんなところで、やくざのシノギが役に立つとはな」
銀次は、不敵な笑みを浮かべた。かつてのやくざの抗争で、何度も使った、相手の隙をつく戦術。それが、今、戦国の世で、4万の大軍を相手に通用したのだ。
しかし、石田方も、ただでは終わらない。
「撃て! 撃ちまくれ!」
石田方の武将が、怒号を飛ばす。再び、鉛玉の雨が、城壁に降り注いだ。
「ちっ、今度は、やけくそだ。どうする、銀次!」
兵士たちが、銀次に助けを求めた。銀次は、冷静に、石田方の動きを見据える。
(そうだ。石田方は、ただ撃ちまくるだけだ。それなら……)
銀次は、あることに気づいた。そして、兵士たちに、ある指示を出した。
「おい、お前ら! この作戦で行くぞ!」
銀次の指示を聞いた兵士たちは、驚きと戸惑いを隠せない。しかし、銀次の眼光に、ただならぬ覚悟を感じ取り、従うことを決意した。
「よーし! 今だ!」
銀次の合図とともに、兵士たちは、あるものを持って、城壁に現れた。それは、濡れた毛布。兵士たちは、濡れた毛布で城壁を覆い、鉛玉の雨を防いだのだ。
「馬鹿な……」
石田方の武将は、銀次の作戦に、呆気に取られた。
「くくく……甘いぜ。お前ら、やくざのシノギをなめんなよ」
銀次は、不敵な笑みを浮かべた。
こうして、銀次の奇想天外な作戦によって、伏見城は、西軍の猛攻をしのぎ切ったのであった。




