バタラワリ (神代代理 )
旅路はまだ序章にすぎない。
深まる闇に、秘められた真実が眠る。
「バタラカラ」最新章、ついに解禁。
さあ――次の運命の扉を開くのは、あなた。
ナキア・マハトマは椅子に腰を下ろした。
その瞳の奥には、まだ若き男への苛立ちの火がくすぶっている。
だが同時に理解していた――目の前に立つこの青年は、もはや「ただ者」ではない。
今ここで軽率に動けば、すべてが崩れかねない。
大理石の机に指を軽く打ちつける。
静かな音は、まるで脅迫のリズムのように響いた。
「まずは料理を召し上がれ。我らが首領は…残念ながら直接お目にかかることはできない。どうかお許しを、ジョナサン殿。」
声色は僅かに柔らいだ。
ジョナサンは無言で卓上を見渡す。
豪奢な料理が並ぶその光景を、舞台装置に過ぎないとでも言うかのように。
若き顔に宿る落ち着きは、年齢では説明できぬ威圧感を纏っていた。
バタラカラは一言も発さず立ち続ける。
しかしその視線は、ナキアの護衛を鋭く射抜いて離さない。
わずかに漂う殺気が、空気を震わせる。
「……よかろう。」
ナキアの声は低く、だがはっきりとした響きを持つ。
「我らが首領からも聞いている。お前は興味深い提案を持ってきたと。ならば、この場で明かしてみよ。」
ジョナサンは薄く笑う。
「――この世界では、機会を待つ者は、機会を創る者に踏み潰される。」
ナキアはワインを掲げ、口元に影を浮かべる。
「ならば直截に問おう。お前の狙いは何だ、ジョナサン・ワン?」
ジョナサンはゆったりと身を預け、指を組む。
その微笑みは嘲弄から確信へと変わっていた。
「――未来を提示するために来た。」
そして低く告げる。
「噂は真実だ。俺は父を打ち倒し、〈黒虎〉を奪う。」
ナキアは大きく笑みを広げる。
「大胆不敵だな。だが面白い。若さゆえの野望は嫌いではない。だが…我ら〈ダササカ〉と何の関わりがある?」
ジョナサンの瞳は冷静に光る。
「支配が完全に俺のものとなるまで…好きに領地を奪え。ただし、全てではない。俺は計算した。衝突を最小限に抑え、確実に手にできる区画がある。」
「ふん…保証は? 罠ではないと?」
ナキアは嘲るように笑う。
ジョナサンは静かに答える。
「リュウ・センの死を、すでに耳にしているはずだ。次は三人の評議員。そして――最後には、我らが共通の宿敵であり、俺の父その人が待っている。」
____
バタラカラは、ナキアの護衛を鋭い眼差しで見据えた。
胸の奥で、抑えきれぬ鼓動が高鳴る。
――間違いない。この気配、この存在。
六人のうちの一人だ。必ず自らの手で滅ぼすべき宿敵。
彼らは師の命を奪った者たち。
神々の力を宿す者――「バタラワリ」の代表者。
バタラカラの眼光は、ただ一つの決意を宿していた。
その時が来れば、この男もまた血の帳に沈めるのだ、と。
* * *
「1年前――」
その日――バタラワリの次元に、不吉な兆しが訪れた。
いつものように、巨岩の上で瞑想していたバタラワリは、
ふいに目を開けた。
大いなる震動を感じ取ったのだ。
それはすなわち、彼が張り巡らせた七重の幽玄なる結界を、
誰か、あるいは何かが突破した証であった。
「…これが我が終わりなのか、
おお、サン・ヒャン・ウィセサよ。」
そう心中で呟きつつ、彼は古の真言を唱える。
すると、天空を裂いて一羽の迦楼羅が舞い降り、
その肩に止まった。
それこそが、バタラワリに従う天翔ける霊鳥であった。
彼が岩より降り立つと、眼前に六つの影が現れる。
その中の一人からは、圧倒的なるプラーナが放たれていた。
「ついに見つけたぞ、老翁よ!」
その男は大気を震わせる声で叫んだ。
「今日はお前の霊鳥を奪い、
さらに残されたバタラの力までも頂く!」
バタラワリはその気配に心を震わせた。
――間違いない。
この力、この気配…バタラインドラの血を引く者だ。
「そうか…そなたはバタラインドラの末裔であったか。」
男は口元に笑みを浮かべた。
「然り、老翁よ。
我こそがバタラインドラの子孫、すでに“バタラの力”を受け継ぎし者。
我が名は桐夜珠!
新血の教団《真血》の創始者にして、真の後継者なり!」
「だが…貴様もまた、その力を他の者へと授けたようだな?」
バタラワリは深く息を吐き、静かに答えた。
「そうだ。人の世に、汝のように“神血を裏切る者”が現れることは知っていた。
ゆえに我は、七柱のバタラを再びひとつに結びつけ得る者に、
その力を託したのだ。」
「ふん、愚かなり!
七柱を統べるのはこの我こそだ!」
キリヤタマは嘲笑し、眼差しだけで五人の従者に合図を送った。
瞬間、五つの影が一斉にバタラワリへと襲いかかる――。