ハリマオ・ヒタム(黒虎)神麟 緊急会議
裏会議
幾度となく密会が重ねられ、
それぞれの野望と栄光へと歩みを進めていく。
その行く先に待つものは――
果たして栄華か、それとも破滅か。
都心は人の海に覆われていた。
黒と白の旗がはためき、祈りと嘆きの声が渦巻き、無数のカメラの閃光が空を切る。
政治家、実業家、社会の重鎮たちが整列し、棺を守るように歩いていた。
――棺の中には大富豪 劉森、別名 グナワン が眠っている。
だが、公の場で涙を流す者の中に、密かに薄笑いを浮かべる者もいた。
彼が築き上げた帝国は、多くの犠牲の上に成り立っている。
土地を奪い、民を追いやった男の死は――ある者にとっては祝福であり、決して喪失ではなかった。
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葬儀の数時間後。
厚い鋼鉄の扉が重々しく開き、地下深くの会議室に明かりが落ちる。
煌めくシャンデリアの下、九人の評議員が円卓を囲み、
その先端には 首領 マイケル・ワン が立ち、鋭い眼差しを向けていた。
マイケル・ワン
「今日我々が集まったのは、劉森の死について話し合うためだ。
彼は単なる仲間ではない。私と共に“黒い虎”をゼロから築き上げた同志だ。
――この死の裏にいる者、決して許さぬ。」
重苦しい沈黙が落ちた。
フェリックス・ウォン(38歳/資金洗浄・国際金融の専門家)
「首領、目を逸らすべきではありません。動いたのはダササカかもしれない。
彼らには十分な動機がある。我々への怨恨は、未だ消えていないはずです。」
黄徳勝(ファン・デション/52歳/宣伝・メディア工作の専門家)
「軽々しく外部を疑うのは早計だ、ウォン君。
噂はあまりに濃い。ジョナサン――首領の養子が、組織の根幹を否定したことを忘れたか?
本当に関わっていないと断言できるのか?」
梁国偉(リャン・グオウェイ/57歳/軍事作戦・兵器物流の専門家)
「憶測では何も救えん。敵は外か、あるいは内部か。
ただ一つ確かなのは、情報が漏れているということだ。
劉森は容易に狙える男ではない。道を開いた者がいる。」
趙雲啓(ジャオ・ユンチー/68歳/政治工作・裏外交の専門家)
「理屈はどうであれ、我々は“顔”を失ってはならぬ。
実業家、政治家、そしてメディアが、我らの隙を狙っている。
少しでも揺らげば、“黒い虎”は脆弱に見えるだろう。」
銭立仁(チェン・リーレン/49歳/諜報・精鋭部隊の専門家)
「真実など二の次だ。重要なのは我々自身の命。
次の標的は我々だ。
提案する――各評議員は護衛を倍増せよ。行動は必ず、この円卓に確認を取ってからにすべきだ。」
互いに視線を交わす評議員たち。
頷く者もいれば、黙したまま心中を隠す者もいた。
マイケルが片手を挙げ、会話を断ち切る。
マイケル・ワン
「……もうよい。」
彼はゆっくりと歩み出し、評議員一人ひとりを睨めつけるように見渡した。
「今ここで決める。特別調査班を編成する。
指揮を執るのは――」
沈黙。全員の視線が一点に集まる。
「警察庁 三つ星将軍、ハンディカ・プルタマ。
外部の人間だが、私には忠実であり、いずれの派閥にも属さぬ男だ。」
評議員の顔に緊張が走る。
その選択に不快感を覚える者もいたが、誰一人として口を開けなかった。
マイケル・ワン(声を張り上げて)
「真実が明らかになるまで、誰一人死んではならぬ。
動きを制限し、警護を強化せよ。
――もう一人でも命を落とせば、“黒い虎”そのものが瓦解する。
会議は終わりだ。」
* * *
その夜、都心の高級ホテル。
輝くシャンデリア、磨き上げられた大理石の床、そして深紅のカーペットが、ひとつの邂逅を照らしていた。
十九歳の青年が静かに歩みを進める。
名は ジョナサン・ワン。
若さと共に、すでに暗黒街の頂に立つ野心を抱いた男。
その傍らには、仮面を外した影のような存在――沈黙の護衛、バタラカラ。
二人が足を踏み入れたのは、豪奢な個室の晩餐室。
長い大理石のテーブルには高級な料理と古酒が並び、すでに二人の男が待ち受けていた。
「……ようこそ、ジョナサン殿。」
「我らのもとへようこそ、次代の後継者よ。」
低く響く声の主は、ダササカの柱の一人、ナキア・マハトマ。
その背後には無言の護衛が控えている。
ナキアは鋭い視線をジョナサンに向け、口元に薄い笑みを浮かべた。
「まさか宿敵の子が、単身で敵の心臓部に踏み込むとは……。勇気というより、もはや蛮勇か。」
ゆっくりと席を立ち、握手を求めるナキア。
護衛は頭を垂れたが、バタラカラは動かない。冷徹な石像のように。
その無礼を、ナキアの目が鋭く射抜く。
「……その護衛はどこから連れてきた? 立ち居振る舞いからして、下層の人間と見えるが。」
ジョナサンは肩を揺らし、軽く笑った。
「ははは……気にすることはない。肝心なのは、彼が余計な邪魔をしないことだ。」
ナキアの声が低く、そして重く響く。
「もし貴様の提案があまりに魅力的でなければ……その護衛、今ここで跪かせていたところだ。」
だが、ジョナサンは一切怯まず、むしろ挑発するように口角を上げる。
「ほう……? それすら俺はしないだろう。――それよりも、会うべきはお前の主ではないのか? それなのに俺を迎えたのは、ただの部下か。」
空気が凍りつく。
ジョナサンは椅子に深く身を預け、冷たく吐き捨てるように言葉を結んだ。
「……まあいい。肝心なのは別の話だろう?」