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バタラカッラ 最後の血統  作者: カンボロ


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測れぬ力

ビマは一歩前へ踏み出し、仮面の男の動きを静かに見据えた。

腕を上げ、拳銃を真っ直ぐに構える。

呼吸がゆっくりと整えられていく――それは心を鎮め、力を一点に集中させる特別な呼吸法だった。


プラーナが流れ込む。

掌から指先へ。

やがて拳銃全体を包み込み、重く、生きているかのような感覚を生む。


「……どれほど皮膚が硬いのか、試してみるか」

ビマは小さく呟いた。


その時、仮面の男は一人の警官を叩き倒していた。

身体が地面に叩きつけられる。


次の瞬間――

銃声が夜気を切り裂いた。


ドンッ!


弾丸は一切の迷いなく、まっすぐに飛び、標的の頭部を貫いた。


ドサッ!!


仮面の男の身体が、重く桟橋の床に叩きつけられる。


「ビンゴ……」

ビマが短く呟いた。


直後、通信機からラトナの声が響く。

「ターゲット倒れました! 警官の一人が防御を突破しました!」


数秒後、ファルハンの低く制御された声が続く。

「よし。全チーム、負傷した隊員を確保し、治療拠点へ即時搬送しろ。」


「了解!」

「了解!」

「了解!」


各部隊長の声が一斉に返る。


ラトナは倒れたその身体を見つめ、胸を上下させた。

――これで全ターゲットは排除された。

――尋問できる者は、もう誰もいない。

そう心の中で呟いた。


だが――

広がる血溜まりの中で、

その“目”が、開いた。


ゆっくりと。

異様なほど、ゆっくりと。


指が動く。

仮面の男の身体が震え、床に手をついた。


そして――

立ち上がった。


場は一瞬で騒然となる。


「退却しろ!」

誰かの叫びが響く。


動ける警官たちは、顔色を失い、引きずるようにして後退した。


仮面の男は、ふらつきながらも立っていた。

頭をわずかに傾け、血を流しながら――それでも止まらない。


その混乱の中心で――

ビマだけは、動かなかった。


彼は真っ直ぐに立ち続けていた。

視線は逸らさない。

表情は静かだが、その眼差しは鋭く研ぎ澄まされている。


彼は見ていた。

死から再び立ち上がった、

“恐怖”そのものを。


ビマは再び引き金を引いた。


ドン!

しかし今度は、弾丸は火花を散らして弾かれ、

まるで純粋な鋼鉄の板にぶつかったかのように跳ね返った。


仮面の人物の身体を、重く冷たいオーラが包み込む。

鉄のプラーナが流れ、全身を隙間なく覆っていた。


ビマは歯を食いしばり、再び銃を構える。


ドン!ドン!ドン!

最後の一発が撃ち尽くされ、弾倉は空になった。


「……チッ。

大地のプラーナを纏った弾丸ですら、貫けないのか……」

ビマは唾を飲み込む。

「こいつは……とてつもなく強い。」


その時、空中から一機のドローンが接近し、

カメラを作動させて一部始終を記録していた。


そこは、二つの巨大な力が向かい合う、緊張の場と化していた。


ビマは素早く腰のポケットに手を伸ばし、小さなナイフを取り出す。

一瞬の動きで、それを投げ放った。


ガンッ!


ナイフはドローンの機体に突き刺さり、

映像は途切れ、火花を散らしながら地面へと墜落した。


(俺には、あいつを倒すほどの力はないかもしれない。

だが……少なくとも、どれほどの力を持ち、

どんな能力を備えているのかは、見極められる)


砕けた仮面の奥から、

その人物の瞳が強く輝く。

冷たく、鋭く――

まるでビマに与えられるべき“業”を測っているかのようだった。


「……お前は、一体何者なんだ?」


ビマの問いに、返事はなかった。


仮面の人物は、ただ静かに立ち尽くしている。


静寂が場を支配する。

聞こえるのは、夜風の音と、

避難しながら痛みに呻く警官たちのかすかな声だけ。


ビマは構えを取った。

両手を素早く動かし、正確無比ないんを次々と結んでいく。

そして右足を地面に叩きつけた――一度、二度、三度。


大地が震える。


地表から“それ”が姿を現した。

まるで大地の奥底から無理やり引きずり出されるかのように、一本の武器の軸が地面を突き破る。

石と鉄の繊維が絡み合い、膨張し、硬化し、やがて完全な形を成す。


――自然と金属が融合した、巨大なガダ。


ビマはその柄を掴み、肩に担いだ。


仮面の男が動く。


同じ技――だが、動作ははるかに簡潔だった。

彼はただ一度、地面を踏みしめただけ。


轟音もなく、抵抗もない。

大地から現れたのは、石と鉄で構成された一本の剣。

構造は同じ――しかし、より密で、より静かで、そしてより致命的だった。


ビマは息を呑む。


(くそ……)

(技も、力も……俺より遥かに上だ)


(それでも、俺を殺そうとはしない)

(もしその気があれば、俺はとっくに追い詰められている)

(なのに……なぜ、ただ立っている?)


記憶が脳裏をよぎる。

何人かの警官は、一切の躊躇なく殺された。

だが、別の者たちは――命を奪われることなく、ただ倒されただけだった。


(……選んでいる)


ビマは深く息を吸い込む。

ユディスティラが来るまでに、この敵の力と戦法を見極めなければならない。


一瞬の静寂の後――

ガダが唸りを上げて振り抜かれた。


空気が悲鳴を上げる。

その一振り一振りが、周囲の地面と金属を引き裂くほどの衝撃波を生み出す。


しかし仮面の男は、軽く身を低くするだけだった。

ビマの渾身の攻撃は、彼にとっては取るに足らないものに過ぎない。


容易く、かわされる。


突如――

鋼の閃光が、一直線にビマの心臓へと迫る。


刃が皮膚を貫く寸前、

ビマは胸部を大地のプラーナで覆った。


キィン――!


火花が空中に散る。


だが、安堵する間もなく――

鋭い蹴りが、ビマの頭部を捉えた。


ドガッ!


ビマの身体は宙を舞い、叩きつけられる。

ガダは手から離れ、重い音を立てて地面に転がった。


身体を震わせながら、彼は地面に横たわる。

口元から、鮮血が静かに流れ落ちた。


存在の気配が走った。


ビマは薄く口元を歪めた。


次の瞬間、

目の前の空間が折り畳まれるように歪み――

ユディシュティラが、ビマの正面に姿を現した。


「ようやく来たな、兄さん」


ビマの声には、安堵と苦味が混じっていた。


ユディシュティラは静かに立ち、

仮面の男から視線を逸らさない。

まるで周囲の世界が消え去ったかのように。


「ビマ……」

低く、しかし重い声で言った。

「五人のパンダワの中で、最も強いのはお前だ。

それでも……彼の前では無力だ」


ビマは兄の背後で一瞬黙り込んだ。

「……あいつは、桁違いに強い。兄さん」


ユディシュティラは振り返らない。

「ここでは勝てない。今はな」


仮面の男の瞳が、再び光を帯びた。

冷たく、無機質な輝き――

新たな敵と対峙するたび、相手を測り、裁くかのような光。


だが、男は動かない。


剣を地面に突き立て、

手放したまま、戦いを続ける価値すらないと言わんばかりに。


「ビマ、撤退する」

ユディシュティラの声は断固としていた。


「でも、兄さん――!」

ビマが反論する。


「異議は認めない」

ユディシュティラは言い切った。

「今回は失敗だ」


ビマは拳を握り締めた。

地面を強く踏み鳴らすと、

彼の武器はゆっくりと大地に呑み込まれ、

まるで自然へと還るかのように消えていく。


ビマは歩み寄り、

ユディシュティラの肩に手を置いた。


ユディシュティラが手印を結ぶ。


次の瞬間――

二人の姿は掻き消えた。



静寂が埠頭を包み込む。


二人のパンダワが去った直後、

仮面の男の剣もまた地面へと沈み、跡形もなく消えた。


男は振り返る。


武器と金で満載されたトラックへと、

静かな足取りで向かっていく。


その視線が周囲をなぞる。

倒れ伏した死体――

武器商人たちの亡骸。


男はトラックの荷台を開け、

大きな木箱を一つ引きずり出した。

そして、死体を一体ずつ持ち上げ、

その中へと放り込んでいく。


すべての死体と金を、

残された武器と共にトラックへ積み込む。


やがて木箱の中から、

一本のバズーカを取り出した。

男はそれを肩に担ぐ。


照準は、唯一の脱出口――

道を塞ぐ警察の戦術車両へ。


遠くから警告の声が飛ぶ。


「全ユニット、戦術車両から離れろ!

安全距離を確保しろ!」


遅すぎた。


――ヒュオオオッ


ドォォン!!


火海が炸裂した。

警察車両が吹き飛び、

熱波が周囲を薙ぎ払う。


炎と瓦礫が夜空を埋め尽くす。


その業火の中、

仮面の男は武器トラックに乗り込み、エンジンをかけた。


燃え上がるバリケードを突き破り、

トラックは闇の中へと走り去っていく。


生き残った警官たちは、

ただ立ち尽くすことしかできなかった。


それは――

彼らが生まれて初めて目にした、

理解することも、対峙することもできない

純粋な“恐怖”だった。

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