銃撃戦
夜風がそっと吹き抜け、海辺特有の塩気と古びた桟橋の腐った木の臭いが混ざり合っていた。ここは大きな秘密にふさわしい場所だった — 人里離れ、静かで、日常の喧騒から遠く隔絶されている。だがその夜、港の静寂は、ゆっくりと進入するトラックのエンジン音と、その後を追う二台の黒いSUVの音に打ち破られた。
ジャック大尉は、額の生え際が少し白髪になった骨太な男で、先頭のSUVの助手席に座っていた。目つきは鋭く、戦場の前線に身を置き続けてきた兵士特有の警戒心で港の隅々まで探り込んでいた。胸の奥には、《ハリマウ・ヒタム》の大物からこれほど大きな取引の指揮を任された誇りが秘められていた。
「ここで止まれ」
ジャックは無線でトラックの運転手に命令した。声は厳しく、反論の余地を与えなかった。
大きな箱型トラックが桟橋にゆっくりと停車した。ジャックはSUVから降り、敏速な動きで九人の部下が後を追った。三人は戦略的な位置に配置され、三人はトラック内に残り(運転手一人、箱の中に二人)、残りは周囲をチェックして不審な点がないか確認した。黒いジャケットの下には銃器が隠されていた。
「異常なし」
部下の一人が報告した。
ジャックは頷き、それまで持ち続けていたタバコに火をつけた。薄い煙の向こう側、彼の顔には「恐怖」という言葉を知らないような表情が浮かんでいた。
やがて、船のエンジン音が静寂を破った。中型の漁船がゆっくりと桟橋に近づいてきた。遠くから見れば普通の漁船のように見えたが、ジャックはそうではないことを知っていた。古びた船体の裏には、違法物資密輸用に特別に設計された隠し倉庫があったのだ。
「買い手が来た」
ジャックはタバコを地面に捨てて踏みつけ、つぶやいた。
船からは、黒い髪を整然とまとめた背の高い男が降りてきた。シンガポールから来た買い手のリーダー、レナードだ。後には四人の男が続き、それぞれが現金を入れた大きなバッグを持っていた。レナードは漁師特有のだらけた服装を着ていたが、後頭部の白髪が整然とまとめられているのとはギャップがあり — 自信に満ちた佇まいと鋭い目つきから、彼が見た目通りの存在ではないことがわかった。
桟橋の中央には簡単な木製のテーブルが置かれ、両者を隔てていた。ジャックと部下の後ろに停車している大きなトラックの中には、数億ルピア相当の銃器が詰められていた。ジャックは時折周囲を見回し、脅威の兆候がないか確認していた。
「ジャック大尉」
レナードは独特の訛りで呼びかけ、形式的な笑みを浮かべて手を差し出した — 真心よりも儀式に近いものだった。
「レナード」
ジャックは短く応え、その手を強く握った。「時間は多くない」
「持ってきたものを見せろ」
レナードが声を上げると、大きなトランクを開けた。桟橋のライトが反射し、整然と積まれた米ドル紙幣が誘惑的な輝きを放っていた。
「品物は全部そろっている。いつものように確認しろ」
ジャックは自信に満ちた口調で言った。
ジャックは部下に合図を送った。男はトラックの後部ドアに向かい、キーを差し込むと軋む音とともにドアが開いた。内部には、鉄の鎖で縛られた木製の箱が整然と並んでいた。
レナードの部下の一人がトラックに近づき、小型のスキャナーで箱をチェックし、約束どおりの品物か確認した。レナードは部下に一箱開けるよう指示し、しばらくして箱が開けられると、近づいて注意深く確認した。軽機関銃を手に取り、機構をチェックする — 鋭い目が細かな傷も見落とさず、品物を見つめていた。やがて、彼は小さく笑みを浮かべた。
「いいね。非常にいいね」
頷きながら言った。
レナードは部下に現金のバッグを渡すよう合図した。ジャックは二人の部下にバッグを検知器で確認するよう命令し、数分で現金が本物で追跡装置のないことが確認された。
――――――
ファルハンは暗い桟橋の方角を見つめていた。遠くから、トラックのライトと人影のシルエットが見えた。
「標的確認。もうすぐ品物の移動が始まる」
狙撃手の声が無線から聞こえてきた。
ファルハンは深く息を吸い、手にした無線をしっかり握った。今から何が起こっても、後戻りの余地はないことを知っていた。
「全部隊、準備せよ。作戦開始は、三……二……一……」
____
ファルハンは腕を高く掲げた。
その顔は張り詰め、息を詰めている。
「三……」
「二……」
「一……」
「突入――!!」
最初の爆発が埠頭の床を揺るがした。
スタングレネードが炸裂し、耳をつんざく轟音とともに白い閃光が視界を奪う。衝撃音が波のように広がり、夜の静寂を引き裂いた。
続いて最初の銃声が響く。
静寂は、一瞬で地獄へと変わった。
ジャックとレナードは慌てて振り向いた。
部下たちとともに四散し、鋼鉄のコンテナの山へ飛び込む。弾丸が金属を叩き、火花が散る。激しさを増す銃弾の雨から逃れるため、必死に遮蔽物を探した。
埠頭を覆っていた薄い霧は、戦術車両のライトによって切り裂かれる。催涙ガスが発射され、濃い煙が一帯を飲み込んだ。
各所でスタングレネードが投げ込まれ、爆発音、叫び声、弾丸の唸りが空気を支配する。
――埠頭の反対側。
ブリモブの突入チームが戦術フォーメーションを保ち、一気に制圧に出る。銃口は暗闇の隅々へと正確に向けられていた。
ブラックタイガーの武装兵たちは反撃を試みるが、完全装備の精鋭部隊の速度、規律、精度の前に対応しきれない。
「レナード! 左だ、急げ!」
ジャックは自動拳銃を握りしめ、叫んだ。
突撃銃を手にしたレナードは、銃弾で穴だらけになったコンテナの陰に飛び込む。顎を強く噛みしめる。
「これはお前たちの仕業か!?」と怒鳴った。
ジャックは睨み返す。
「俺が正気を失ったとでも? 俺たちには約束があった! 取引前に、ボスは当局と交渉するはずだったんだ。だがこれは……全面攻撃だ!」
彼は携帯電話を取り出し、連絡先にかける。
――圏外。
銃弾はさらに近づく。
彼らの隠れているコンテナは、次々と撃ち抜かれていく。
「クソ……」
レナードは唸り、銃声の方向へ手榴弾を投げた。
小さな爆発が起き、数名の警官が身を伏せる。
「連中、前から俺たちを監視してたんだ……」
レナードは低く呟く。
「どこから漏れた……?」
―――
「一人も逃がすな! 撃て、制圧しろ!」
指揮車両から、ファルハン司令官の怒号が飛ぶ。
スナイパーチームが動き出す。
逃走を図った武装兵三名が次々と倒れた――脚を撃ち抜かれ、命は奪わずに無力化される。
すべての動きがロックされ、記録され、管理されていく。
忍び寄ろうとした漁船は、エンジンを撃ち抜かれ、その場で停止した。
だが一人だけ、小型スピードボートに飛び乗り、海へ逃げる。
「追撃用スピードボート、目標を追え!」
ファルハンが命じた。
警察のスピードボートが夜の波を切り裂く。
短い追走の末、銃弾がエンジンを捉え、海上で炎が上がった。
ジャックとレナードは、コンテナの狭い通路を駆け抜ける。
「右のコンテナ! 潜伏の可能性あり!」
「スモークグレネード! 投げろ!」
白煙が噴き出し、視界を塞ぐ。
ジャックは小さく悪態をつき、煙を手で払う。
「レナード! 裏から行け、早く!」
「待て、ジャック! まだ――」
バン! バン!
弾丸がコンテナを貫通する。
レナードは反射的に身を屈めた。
「クソッ!!」
ジャックはジャケットの中から火炎瓶を取り出す。
「歓迎してやる。」
導火線に火をつけ、投げた。
ゴオッ――!
炎が立ち上がり、ブリモブ隊は数歩後退を余儀なくされる。
「第2班、隊形を詰めろ! 抵抗がある!」
ファルハンが叫んだ、その瞬間――
ドォォォン!!
凄まじい爆発が埠頭の一角を揺るがした。
コンテナが吹き飛び、鋼鉄の破片が舞い、炎が夜空を舐める。埠頭全体が激しく震えた。
ファルハンは反射的に身を伏せる。
目を見開いた。
「……何だ、今のは?」
それは手榴弾ではない。
火炎瓶でもない。
――大きすぎる。
単なる陽動にしては、あまりにも過剰な爆弾だった。
彼を凍りつかせたのは、爆発そのものではない。
そのタイミングだった。
標的の大半は、すでに制圧されている。
敵は包囲されている。
この爆発は――戦術的な利点がない。
「なぜ……埠頭を爆破する?」
ファルハンは低く呟いた。
「味方も巻き込むぞ……」
追い詰められた者の行動ではない。
これは――何かを隠すための行為だ。
「全隊、警戒! 爆発は想定外だ!」
「釣られるな! 周囲を確保しろ!」
混乱の中、ジャックは負傷したレナードを支え、隠された予備のスピードボートへ向かう。
「もう少しだ……耐えろ、レナード!」
古いクレーンの上から、ブリモブのスナイパーが再び照準を合わせる。
「ターゲット移動中……射撃準備。」
ドン!
ドン!
ジャックとレナードは同時に倒れた。
濡れた木製デッキに、二人の身体が叩きつけられる。
「主要ターゲット二名、無力化完了」
スナイパーが報告した。
ファルハンは深く息を吐く。
「医療班を用意しろ。生かしておけ……まだ答えが必要だ。」
―――
「全ターゲット制圧! 全ターゲット制圧!」
無線からオペレーターの声が響く。
だが、ファルハンは安堵しなかった。
煙がゆっくりと薄れる中、
埠頭の端に――仮面の男が立っていた。
背が高く、微動だにしない。
黒い服は夜と溶け合っている。
撃たない。
逃げない。
ただ……見つめている。
ファルハンは目を細めた。
「……お前は、何者だ?」




