結界の崩壊
ビマはついに迷いなく動いた。
膨大なプラーナを解放し、その身体を鋼のような硬質の光で包み込む。
手にしたガダが一度振り下ろされ、部族の男の胸を打ち抜いた。
男は口から鮮血を吐き、地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
森の土が赤く染まる。
攻撃は途切れることなく続いた。
ビマは身体を回転させ、ガダを止めることなく振り回し、アルジュナに近づく者すべてを叩き飛ばす。
全力の一撃に晒された身体は宙を舞い、立ち上がる者はいない。
そこに慈悲の余地はなかった。
「ビマ、やめろ! 殺すな!」
俺は叫んだ。
彼は振り向かない。
「今回は違う、兄者」
冷え切った声だった。
「奴らは止まらない。時間がない。」
一歩踏み出すたび、大地が震えた。
鉈は折れ、槍は手から弾き飛ばされ、悲鳴は次第に消え、重苦しい沈黙へと変わっていく。
さっきまで叫んでいた子どもたちは凍りついたように立ち尽くし、見開いた目で、決して見るはずのなかった光景を見つめていた。
俺は立ち尽くした。
越えてはならない一線が、今、踏み越えられた。
そして、どう引き戻せばいいのか、俺には分からなかった。
巨岩の陰で、アルジュナが長く息を吐いた。
身体がわずかに揺れ、意識が完全に戻る。
「中心を見つけた」
彼は早口で言った。
「そして……たぶん、コードも分かった。ナクラ、サデワ、解読してくれ。
カラ、マタ、ダヤ、ヤタ、カナ、ザマ……」
ナクラとサデワは即座に動いた。
腕に装着された装置が起動し、データのシンボルが点灯し、互いに連結されていく。
アルジュナは立ち上がり、二人の前に出て、その動きを守る位置に立った。
「守って、兄者」
リンクコム越しにサデワの声が響く。
「このコードは単なる言葉じゃない。結界のプラーナ流動パターンだ。
一つでもリズムを間違えたら、システムは俺たちを敵と認識する。」
ナクラは倒れた木の陰に膝をついた。
手首の装置が暗くなり、やがて薄い円環状のプラーナ光が回転し始める。
「この結界は遠隔では解除できない」
彼は素早く言った。
「内部リクエストだと誤認させるには、十分近づく必要がある。」
「どれくらいだ?」
アルジュナが尋ねる。
ナクラは目に見えない光の幕を見据えた。
「触れずに……限界まで、だ。」
サデワは装置のインジケーターに目を落とす。
データ針が不安定に揺れていた。
「もし、俺の解読が間違っていたら——」
「——爆発で、俺の身体は消し飛ぶ」
ナクラは淡々とそう言い、手首を指さした。
誰も言葉を発さなかった。
空気が張り詰める。
突然、結界の内側から一本の槍が飛び出した。
攻撃が再開された。
ナクラは横に跳び、槍がさっき立っていた場所の地面に突き刺さる。
「サデワ!」
ナクラが叫ぶ。
「別のポイントを探せ! 今すぐ結界を落とせ!
奴らは内側から攻撃できるのに、こっちの攻撃は全部遮断されてる!」
「分かってる、今探してる!」
サデワは即座に返し、指をインターフェース上で走らせた。
時間が引き伸ばされる。
サデワが一つの地点で動きを止める。
最後の入力を叩き込んだ。
装置から一直線の赤い光が放たれ、空間を貫いた。
その一瞬——
サデワの呼吸が止まる。
もし失敗すれば、
俺は叫ぶ間もなく消える。
だが、光が変化した。
赤が薄れ、青へ。
そして——白。
目に見えない結界が震えた。
風に撫でられた水面のように波打ち、
そして……消えた。
「コード、通った!」
サデワが叫ぶ。
「中に入れる!」
「前進!」
アルジュナが命じる。
ためらいなく、四人のパンダワは一斉に塔へと走り出した。
誰一人、振り返らない。
誰一人。
ビマも含めて。
俺は取り残された。
彼らは同じ方向へと突き進み、
俺を血の温もりが残る地面と、
もう先延ばしにできない問いだけを残していった。
森は再び静まり返る。
不自然なほどの静寂。
周囲には倒れた身体が横たわり、
その中に、まだ息のある子どもや女たちがいた。
半意識のまま、身体を震わせ、浅い呼吸を繰り返している。
俺は一人の少年の前に膝をついた。
小さな手が、身体には重すぎる槍を握りしめていた。
「なぜ……」
声が震える。
「なぜ、命を賭ける?」
少年はゆっくりと目を開いた。
恐怖はあった。
だが、それ以上に強い意志が宿っていた。
「……僕たちが、ここに立たなければ」
かすれた声で言う。
「この先、立てる人は誰もいなくなる。」
背後の女が続けた。
嗄れた声だったが、揺らぎはない。
「パンドラは、最後の希望です。
あのセラムは、アシュラのプラーナ拡散を抑えます。
人が、人でなくなるのを止めるためのものです。」
胸が締めつけられた。
「アシュラ……?」
俺は呆然と呟いた。
「人類最大の敵じゃないのか?」
「そうです」
女は短く答えた。
「だからこそ、塔が壊れれば……
明日生まれる子どもたちに、未来はありません。」
俺は、開かれた塔を見た。
迷いなく走り去った兄弟たちのいる方向を。
任務は進行している。
結界は消えた。
だが、この地では、
もっと脆いものが、先に壊れていた。
少年が咳き込み、血を吐く。
一瞬だけ目を開き……それきり動かなくなった。
俺はそっと、その瞼を閉じた。
「……すまない」
「もう遅いわ」
女が小さく言った。
俺は膝をついたまま、手の震えを抑えられなかった。
遠くで、ラザレスの塔が口を開けている。
兄弟たちが、振り返ることなく走った場所。
任務は続いている。
結界は消えた。
だが、この地で支払われた代償を、
俺は見てしまった。
俺はうつむき、重く息を吐く。
——バタラ・グル。
これは、俺への試練なのか。
勝つか負けるかの話じゃない。
命令に従うか、背くかでもない。
これは、
正しさを選ぶ試練だ。
たとえ、独りになるとしても。
ダルマとして学んだすべてが、胸の奥で叫んでいる。
そして今、ユディシュティラとして——
俺は、流れに従うのをやめる。
今回は、
俺は、自分が何をすべきか分かっている。




