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バタラカッラ 最後の血統  作者: カンボロ


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ラザレスの塔


第88セクター南部の森林地帯にある基地だ」とビマが低い声で言った。彼の視線は目前のホログラフ地図に張り付いたままだ。


「ここがラザレス区域だ。廃墟の中心にある研究施設。内部には危険な液体がある。パンデラ…人類を滅ぼしかねない生物兵器となり得る“パンドラ・セラム”だ。俺たちの任務は、その拡散を止めること。あの塔からセラムが放出されれば、理想の世界なんて永遠に作れない。」


「理想の世界…? それに、生物兵器ってどういう意味だ。情報は本当なのか、ビマ?」


ビマは眉をひそめた。 「現地の密偵からの信号だ。奴らは“人類浄化計画”と呼んでいた。他に意味があるとは思えない。」


彼は胸の奥の炎を押し込むように、深く息を吸い込んだ。


「それは事実か? それとも推測か?」と俺は問う。空気が一瞬で冷え込む。 「憶測を基準に動くわけにはいかない。まずパンドラの危険性を確かめるべきだ。もし本当に致死性の毒なら破壊する…ただし被害を最小限に抑える方法で。」


ビマの目が細く鋭くなる。 「つまり、俺の報告を疑うのか?」


「そうじゃない。」俺は静かに答えた。「一度の判断ミスは取り返しがつかない。情報は正確でなくてはならない。俺たちの役目は均衡を守ることであって、虐殺をすることではない。」


ビマは薄く笑った。嘲りを混ぜたような笑みだ。 「お前は甘すぎる、ユダ。理想主義が過ぎる。何を訊く必要がある? 任務は任務だ。バタラ・グルがすべき事を決める。命令を疑うのは侮辱だ。それがユディシュティラの口からなら尚更だ。…バタラ・グルはお前を選ぶのが早すぎたのかもな。サデワにすら及ばない、と俺は思う。」


その言葉は胸に鋭く突き刺さる。しかし揺らいではいけない。これは試練だ。


「ビマ。」俺は心臓の鼓動を押し沈めながら言う。「怒りはわかる。でも聞け。ダルマとは勝ち負けじゃない。正しい方法で行うことだ。」


静寂が流れた後、俺は立ち上がり、仲間たちを見渡す。


「意見が違っても覚えておけ。俺はバタラ・グルに選ばれ、この任務を率いる責任がある。従えない者は…寺に帰れ。」


ビマは一度体を強張らせ、そしてゆっくりと力を抜いた。薄い笑みが浮かぶ。 「わかった。従うよ。すまなかった、兄者。」


疑念のざわめきはまだ胸の奥に残っていたが、飲み込んだ。試練はここからだ。


俺たちは森を駆け抜け、木々の隙間を抜け、やがて散在する廃墟のような建物群へと入った。前方には巨大な塔がそびえ、その頂で青い光が鼓動のように明滅している。


突然、本能が叫んだ。 神経が一斉に張り詰める。


俺は手を上げ、拳を握る。


「止まれ。」


離れていても、マスクのリンクコムを通じて声は四人のパンダワに届く。


「どうした、兄者?」ビマが問う。


「振動だ…エネルギーの圧だ。すぐ近くで、何かが待っている。」


言葉の代わりに、サデワが小刀を取り出し、前方へ投げ放つ。


飛んだ刃は——

ドガァンッ!!


目に見えない線の五メートル手前で爆ぜ、熱風と煙が押し寄せる。直後、周囲の警報が一斉に唸りを上げた。


俺たちは防御陣形を取る。


しかし煙の向こうから現れたのは予想外の存在だった。


白い線で身体を彩った山岳部族の男たちが現れた。屈強な体、揺るがない眼光。槍やパラン、木弓を構え、まるで古い神話が蘇ったようだ。


最も大柄な男が前に出て叫ぶ。


「パンドラを守れ! こいつらを通すな!」


そのまま一斉に襲いかかってきた。


森は戦場と化す。俺たちは素早く動き、敵を無力化していく。しかし矢の雨が止まない。


一本の矢がビマの肩を貫いた。 ビマは眉ひとつ動かさず引き抜き、弓兵の列へ突っ込んでいく。


「倒してもいいが、殺すな! 人間に犠牲を出すな!」俺は叫んだ。


混戦の中、地面はビマの踏撃で震え、アルジュナの矢は敵の脚だけを射抜き、ナクラとサデワは影のように切り込む。


俺の心に疑問が刺さる。


——この人たちは、何を守ろうとしている?


ビマの声が甦る。 「研究施設…パンドラ・セラム…生物兵器…理想の世界…」


そしてあの言葉。 「任務は任務だ。疑うのは侮辱だ。」


スケツ寺で教わった教えとは違う。

ダルマは“盲従”ではない。


塔の青光が木々の間で脈動する。


何かが合わない。


——この任務の本当の意味は?


「兄者、時間がない!」アルジュナが叫ぶ。


矢が飛ぶ——

ドガァァン!!


結界が爆ぜた。


「全ての攻撃に反応している…早く止めるぞ。」


俺たちは岩陰に退き、次の手を組む。


「アルジュナ、ラーガスークマだ。結界の中心を探れ。ナクラ、サデワ、位置が分かり次第破壊しろ。」


アルジュナが座り、意識を外へ放つ。


俺は盾となり前に立つ。


だがその時、敵陣に異変が起きた。


大人の男たちの間に——

小さな子供たちと、震える体で武器を握る女たちが並んでいた。


族長の怒号が響く。 「俺たちは人類最後の砦だ! 通すな!」


子供たちが叫ぶ。 「怖くない! 私たちも守る! 最後の盾だ!」


その叫びが胸の奥を揺らす。


勇気ではない。


あり得ない光景だ。


現実なら、子供を戦わせるはずがない。


——これは試練の世界。

——意図的に仕組まれた道徳の罠。


だが、その答えはまだ見えなかった。



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