岐道
「……ありがとう、ジューダ。ここへ来ることを選んでくれて。」
その声はバタラグルから放たれた。重く、深く、しかし柔らかく、まるで魂の奥底に直接響き渡るようだった。
一語一語、一息一息が、言葉以上の意味を宿し、胸の奥に刻み込まれていく。
「ここで我らはずっとお前を待っていた。大いなる宿命がすでにお前の道に定められている。
過去が苦難に満ちていたことは知っている……だがそれこそが、スリャガチ(陽来復)――
“百人に一人”のダルマスータに与えられた道なのだ。」
それが、私が初めてその言葉を耳にした瞬間だった。
――スリャガチ。
胸の奥で大きな疑問が渦巻き、心を締めつける。
スリャガチとは……何なのか?
まるで私の思考を読んだかのように、バタラグルは語り継いだ。
「ダルマスータの中には、特別な者がわずかに存在する。
彼らは“百人に一人”と呼ばれ、生まれながらにして膨大なプラナを抱えている。
彼らにとってプラナとは単なる生命の息吹ではない。
絶え間なく流れる大海のような力が、生まれた瞬間から体内を巡っているのだ。
その理解、吸収、そして鍛錬は、他のダルマスータよりもはるかに速い。
凡人には十年二十年を要する修練も、彼らにとっては数ヶ月にすぎぬ。
だが……大いなる恩寵には必ず呪いが伴う。
彼らの多くは暗い過去を背負い、決して癒えぬ傷を抱えている。
幼き頃、いや赤子の頃でさえ、その力は制御を失い、爆発のように溢れ出す。
そしてその暴走が最初に奪うのは――最も近しい者たちの命だ。
親であり、兄弟であり、最初の友でさえも。
それは天から授かった天稟であると同時に、悲嘆をもたらす災厄でもある。
人を畏怖させ、同時に呪われし運命として刻み込まれる力なのだ。」
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パンドゥはすでにお前に語ったかもしれぬ……
「お前はダルマスータ――バタラの血を継ぐ者。そして私は……私はバタラ・グル。お前の高祖父だ。」
我らは七人、神々に選ばれし人間。
不死を授かり、このヌサンタラを護る者となった。
かつて、人類最大の敵――アスラが目覚めし時、我らは最前線に立ったのだ。
その瞬間、部屋全体が揺れた。
大地の轟きが四方から押し寄せ、現実は霞み、燃え盛る大地へと変わる。
炎と塵、そして血が視界を覆い尽くす。
そこに現れたのは――
バタラユダ(大戦)。
千年前に繰り広げられた壮絶なる戦の光景であった。
……
戦が終わったのち、アスラは姿を消した。
長き時の間、人の世に現れることはなかった。
だが、その勝利は大きな喪失を残した。
我らを選び導いた存在――サン・ヒャン・ウィセサは、忽然と姿を消し、二度と現れなかったのだ。
七柱のバタラのうち、四柱は婚姻し血を残した。
残る三柱は孤独を選び、血脈を断った。
そして、四柱の子孫こそが――ダルマスータと呼ばれる者たちである。
……
幾百年が過ぎ去った。
子らは生まれ、育ち、やがて死に、我ら不死の者だけが残された。
虚無は心を蝕み、やがて我らは選んだ――沈黙の道を。
ヌサンタラを影から護り、
そして授けられた力によって、小さき世界を編み出した。
それが――バタラ次元である。
……
子孫たちは人として生きるままに任せられた。
だが、歴史は決して眠り続けることはなかった。
稀なる存在――スリャガチ(陽来復)。
「百のうちの一」と呼ばれるダルマスータの出現が、再び我らの物語の扉を開き始めたのだ。
その時より以前、我らは一冊の書を残していた。
そこには、世界の秘奥とバタラの真実が記されている。
我らはそれを、人の手が決して届かぬ地に封じた。
だが――運命は必ず道を見つけ出す。
遠き国からの使者が、ついにその書を見出した。
そして一人のスリャガチと出会い、
忘れられた真実は再び世に顕れたのだ。
その者は、バタラ・インドラの血を引く者。
その名は――キリャタマ。
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キリヤタマ。
彼こそが、ソウケツ寺院が築かれた理由である。
かつて、バタラたちの秘められた真実が初めて明かされた時、
遠き国――後に「日の出の国」と呼ばれる地からの使者たちがやって来て、この地に留まることを選んだ。
彼らはバタラの遺産を守り、キリヤタマと共に立ち、
世界の均衡を守るという崇高な使命を受け継ぐことを誓った。
やがて、より多くのダルマスータたちが見出された。
彼らは共に修練を積み、己の内に流れるバタラの血の力を掘り起こした。
ただ一つの目的を掲げ――人間界を破滅から守るという祖先の遺志を継ぐこと。
しかし、歴史は常に真っ直ぐではない。
キリヤタマは次第に変わっていった。
その野心は膨れ上がり、受け継がれた使命の限界を超えた。
もはや彼は「守護者」であることに満足せず、
力を求め、無敵を望み、ダルマスータの上に立ち、全人類を支配しようとした。
その歩みは非難され、その声は拒まれた。
仲間たちは彼を、祖先の血を裏切り、
「平和をもたらす者」というダルマスータ本来の在り方を忘れた背信者だと糾弾した。
追い詰められたキリヤタマは、ソウケツを去った。
だが彼は一人ではなかった。
数人のバタラ・インドラの血を引くダルマスータが彼に従ったのだ。
彼らは「インドラの血こそ最強であり、自分たちだけが人類を導く資格を持つ」と信じていた。
その瞬間から――最初の亀裂が生まれた。
そしてその亀裂こそが、後にダルマスータの道を分かつ運命となるのだった。




