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バタラカッラ 最後の血統  作者: カンボロ


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戦略開始

このエピソードの舞台となる時間は、劉森リウ・センの死と、緊急の神林評議会(シェンリン評議会)の会議の後である。(序章―第0章から第8章の出来事の後)

天井から吊るされた淡き黄金の灯火が、漆黒の大理石で覆われた円卓を仄かに照らしていた。

壁面には勢力圏を描いた地図が掛けられ、無数のデジタルスクリーンには武器・資金・麻薬が国境を越えて流れる様が無慈悲に映し出されている。

その夜、十柱の「ピラル」は全員が席につき、空気は張り詰め、ただならぬ気配が漂っていた。


静寂を破ったのは、ダササカの最高指導者――ジュン・アブデネゴロである。

その声音は低く、だが大地を揺るがすほどの威を帯びていた。


「……ついに、あの若者の策が動き出したか。

一人の神麟評議会の死――それが合図なのか?」


静寂が室内を覆う。

やがて一人の柱が口を開いた。

その声は枯れていながらも、歴戦の将のみが持つ威厳を放っていた。


ビマセナ――。

その声は重々しく、だが決して揺らぐことのない確信に満ちていた。



「はい、主席。噂はすべて真実です。

ジョナサン・ワン――彼は父を打倒するためのクーデターを準備しています。

神麟の一人の死は、ただの序章にすぎません。

そして何より……彼は我らに取り引きを持ちかけてきました。」


ビマセナの眼差しが鋭く光る。

「奴はこう約束したのです。我らに協力を仰ぐ代わりに、黒虎幇の領地の一部を差し出すと。

つまり――内部からは黒虎の力を削ぎ落とし、外部には我らを引き込む。

二つの決定的な一手を同時に放ったのです。

無謀に見えて、その実……天才的な策。」


ジュンは背凭れに身を委ね、やがて静かに笑った。

その笑みは、長き歳月待ちわびた好機がようやく訪れたと告げる老獅子の嗤いであった。


「ついに……この手で取り戻せるのだ。我らが分かち合わされてきた覇権を……」


彼は円卓を囲む柱たちに視線を巡らせた。

「さて、諸君……この申し出、甘美すぎるほどに甘美だ。だが――小僧を信じるに足るか?」


リアン・ウィジャヤが腕を組み、迷いなく答える。

「若くして天賦の才を持つ者。あどけなさの裏に潜むは、同世代の誰よりも冷徹なる残忍。

かつて何度か取引を交わしましたが――奴は聡明で、公平。

あの男がクーデターを口にしたならば、すでに百の手を打ち、千の計を巡らせていると見るべきです。」


ジュンは再び笑いを漏らした。その響きは愉悦か、それとも慎重なる警戒か。


だが、別の声が場を制した。静かでありながら、深き憂慮を帯びた声。

「しかし……これにより、我らを庇護してきた上層の均衡を揺るがすことになりませんか?

我らも彼らも、同じ“影の庇護者”の傘下にある。無用の戦火を呼び込む恐れが……」


だがビマセナは即座に応じた。

「その懸念もすでに折り込み済み。ジョナサンは確約しております。

――警察将校の上層に、沈黙を買うための金をばら撒くと。

彼が求めるものはただ一つ、権力移行の瞬間……その沈黙のみ。」


ジュンの目に怪しげな光が宿った。

「……小僧め。領地を差し出してでも玉座を欲すか。

――それはあまりに愚か、あるいは……計り知れぬ策謀か。」


その時、東域を治める女柱――ヨヴァリエ・エウォンデが、紫煙を吐きながら言葉を継いだ。

「あるいは逆に、首領……奴は我らがまだ知らぬ“更なる盤上”を描いているのでしょう。

だが、それは今考えるべきことではない。重要なのは――奴が覇を握るその瞬間、我らが如何に己の地位を固めるか。

あるいは……頂に立つや否や、刃を突き立てるか。」


円卓に、冷たい笑みが次々と浮かぶ。

幾人かは頷き、幾人かは薄ら笑い、夜気はより濃き陰謀の色を帯びた。


ジュンはゆるりと立ち上がり、その双眸は鋼のごとき決意に輝いた。

「ならば、迷う必要はない。

今この時より、全軍を整えよ。版図を調べ上げ、与えられた領域を掌握せよ。

刈り取れるものは一つ残らず刈り取るのだ。」


その声は、雷鳴の如く柱たちの胸を打った。


「――ダササカにとっての大日、ついに到来したのだ!」


_____


午前10時45分。

「セクター85」の昼は、照りつける太陽だけでなく、突如として走った動乱によって燃え上がっていた。


どこからともなく数十人が、PTセガラ・タマ物流倉庫の前に集まった。

そこが実は犯罪組織「黒虎」の隠された拠点であることを知る者は少ない。


色とりどりの横断幕が一斉に掲げられる。

「民衆は搾取に抗う!」

「武装犯罪の恐怖を止めろ!」

「我々はお前たちの正体を知っている!」


二階の部屋で、セクター85を支配する恐れられた男――ジャック・リー隊長は、昼食をとっていた。


しかし、その時間は突然終わりを告げた。

部下の一人が血の気の引いた顔で駆け込んできたのだ。


「隊長! どこから現れたのか、デモ隊が……正面に!」


ジャック・リーは苛立ちを隠せず、眉をひそめる。

「デモ隊だと? どういうことだ? ここは官庁じゃない。すぐに追い払え!」


だが言葉を言い終える前に、ガラスの砕ける甲高い音が響いた。

一階の窓が石によって粉々に砕けたのだ。


ジャック・リーは慌ててバルコニーへ出た。

目にした光景に息をのむ。群衆は怒っているどころか、獰猛な気配をまとい、数は刻一刻と膨れ上がっていた。


突然、催涙煙幕弾が投げ込まれ、正面玄関は白い煙に覆われる。


「我々は恐れない! 我々は戦う!」

拡声器から叫びが響き渡った。


群衆の中から覆面の男たちが現れる。

その動きは速く、規律だった。モロトフ火炎瓶、鉄の棍棒、即席の武器を手にしている。


数分と経たず、正面扉は破壊され、警備員は押し戻された。

これはただのデモではない――民衆を装った軍事的襲撃であった。


窮地に追い込まれたジャック・リーは、すぐに警察へ電話をかけた。

「こちらは攻撃を受けている! 武装集団だ――!」


「了解。すぐに向かう。」

電話口の声は冷静だった。


だが、警察署内。受話器を置いた高官はゆっくりと呟いた。

「もう始まった……我々は関与するな。静まってから現場へ行けばいい。」


倉庫内では、忠実な部下たちが必死に応戦していた。

しかし敵は民衆に紛れ込み、組織的に動く。

「やつらは……どこにでもいる……」と呟いた兵の首筋を、背後からの一撃が沈黙させた。


ジャック・リーは裏の廊下から逃走を図る。

だがその先に、一人の屈強な男が立ちはだかっていた。


「ジャック・リー殿……あなたはこの建物であまりにも長く安逸を貪った。」

冷ややかな声と共に銃口が膝に向けられる。


「今こそ民衆がこの地を奪い返す時だ。」


ドン! ドン!

二発の銃声が鳴り響き、ジャック・リーの膝を撃ち抜いた。


彼は倒れ込み、苦痛の叫びを上げるも、直後に口を塞がれ、そのまま引きずられていった。

監視カメラは既に無力化されていた。記録は残らない。痕跡も残らない。


午後6時。ニュースが一斉に報じた。


・「物流倉庫が群衆に焼き討ち、犯罪組織の拠点か!」――全国の速報。「セクター85は犯罪の温床か? 民衆の逆襲!」

――見出しが躍る。


警察は声明を発表した。

「これは単なる誤解だ。状況はすでに沈静化している。死者はいない。ただし、5名が行方不明とされている。」


事件は一時的に国中を揺るがしたが、表向きはすぐに収束した。

あくまで「群衆の衝突」として処理され、多発する反組織デモの一つに過ぎないとされた。


だが――関わった者たちは知っていた。

均衡は崩れ、和平の裏約束は破られた。


領土争奪戦は、すでに始まっていた。


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