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バタラカッラ 最後の血統  作者: カンボロ


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切り札

その夜、アリーナは静寂に包まれていた。

観客の歓声もなく、太鼓の響きもない。あるのは、中央の鉄輪を照らす薄暗いライトだけ。試合は週に一度しか開催されない。そして今夜は、ただ重々しい空虚さが漂っているだけだった。

ジョナサン・ワンは観客席に一人座り、体はリラックスしているが、その目は静かなアリーナを鋭く見つめている。彼にとって、そのリングは単なる賭博場ではなく、自らが築き上げる未来の舞台だった。

ゆっくりとした足音が静けさを破る。通路の奥から、一人の人影が現れた。ジョナサン・ワンに密かに肩入れする、深凛会の幹部の一人。

ゼン・セン。

ジョナサンは少し振り返り、静かに微笑んだ。

「お招きに応じ、ありがとうございます、ゼン・セン様。」

ゼン・センは視線を下げ、ジョナサンの後ろの列の席に腰を下ろした。彼の声は深く、力強い。

「構わん。君の誘いを受けた。黒虎は…長らく大きな変革を必要としていたからな。」

ほどなくして、さらに二つの人影が続いた。深凛会の他の幹部…

ランディ・ザオと、チャン・ウェイ。

彼らは威厳に満ちた足取りで現れ、多くを語らず、ゼン・センの隣に並んで座った。

ジョナサンは立ち上がり、一人一人に視線を向けた。落ち着いていて、冷静。まるで、口にする前に一語一語を慎重に選んだかのようだ。

「これまでのご支援、感謝いたします」と彼は静かに言った。「ついに私はこの暴龍団の内部に足を踏み入れることができました。しかし、ご存知のように、私の計画に賛同せず、公然と反対している幹部が数名います。」

彼は一瞬言葉を止め、三人の顔を見渡した…

「彼らを排除しても、ご異論はありませんか?」彼の声は平坦なままだが、揺るぎない意志が込められていた。「今ならまだ間に合う。諸君の立場を明かさずに、あらゆる手段を尽くして、彼らを説得してほしい。私は犠牲者を出したくない。それは我々にとって損失だからです。だが、もし状況がそれを強いるならば…この大義のためなら、たとえ神であろうと排除してみせる。」


____


ジョナサン・ワンは観客席に腰を下ろしていた。

その身の周りを、無言の護衛たちが取り囲んでいる。

闘技場は今宵も喧噪に満ち、定例の試合が幕を開けようとしていた。


だが、ジョナサンにとって群衆の熱狂はただの雑音に過ぎない。

彼が求めるのは勝利の陶酔ではない。

今宵の目的は一つ――“切り札”を選び出すこと。

ただの闘士ではなく、長きにわたり組み上げてきた巨大なパズルを完成させる最後の欠片を。


強烈なライトが降り注ぐ円形の鉄の檻。

その中心に、二つの影が対峙する。


骸骨の仮面を纏った男――オイビソノ。

“白き髑髏”の異名で呼ばれるその姿が、再び闘技場に現れる。


そして、今宵の対戦相手は――暗黒街を震撼させた元殺し屋、カルナ。

その名は裏社会で伝説となり、抗争の初期には幾多の命を金と引き換えに葬ってきた。

今夜、彼は嘲笑を浮かべ、こう宣言した。

「鉄の拳を誇る王者を、この手で叩き落としてやる」と。


「今宵の戦いは――人の限界を越える!」

司会者の声が闇を裂き、群衆の興奮に火をつけた。


観客は絶叫し、足を踏み鳴らし、闘技場全体が獣の咆哮のごとく震える。


ジョナサンは静かに背筋を伸ばしたまま動かない。

しかし、氷のように冷たいその瞳の奥で、異質な熱が渦巻いていた。

それは昂ぶり、緊張、そして抗いようのない陶酔――

彼自身、滅多に味わうことのない感覚だった。


視線はただ一人に注がれる。

白き髑髏の仮面を纏い、光の円環の中に立つ男。


――もしかすると。

この男こそが、自らのパズルを完成させる“最後の一片”なのかもしれない。


_____


ベルが鳴った瞬間、カルナは地を蹴り、低く滑るようにオイビソノの下段を狙った。


オイビソノは跳躍したが、その上を行く速さでカルナが襲いかかる。大蛙のごとく跳ね上がり、顎に炸裂する一撃。轟音が響き、観衆が沸く。カルナは軽やかに柵に着地し、再び弾むように跳び、二度目の拳を振り下ろす。


今度はオイビソノが身をかわした。拳は空を切る。だがカルナは止まらない。跳び、舞い、四方から襲い掛かる。まるで舞台を独占する亡霊のように。


だが次第にオイビソノの瞳は動きを捉え始める。呼吸を整え、隙を狙う。やがてカルナの呼吸が荒くなり、動きが鈍る。床を強く踏み締め、構えを取った。


拳が握られ、地を叩く。

ドガァァン!!


爆ぜるような衝撃音。

カルナの身体は静止したまま――しかし衝撃はオイビソノの胸を直撃した。


肉が焦げ、血が仮面の隙間から滴り落ちる。焦げ臭が広がり、観衆が一瞬息を呑む。


カルナの口元に冷酷な笑み。

「――阿術アジアン・グントル=ブミ」

誇示するように声を張る。

「距離と拍子を合わせれば、魂が肉体を離れ、雷と同じ力で打ち砕く。目には見えず、防ぐ術もない!」


オイビソノは膝をつき、身体を震わせながらも崩れ落ちない。ゆっくりと、しかし確かに立ち上がる。


カルナは目を見開く。

「馬鹿な…! 我がグントル=ブミを耐える人間など――!」


再び構えを取り、拳を握る。魂が抜け出し、再度の雷撃を放たんとする――。


だが、今度はオイビソノの瞳が白く輝いた。

拳に雷光が集い、左空を薙ぐように振り抜かれる。


ドガァァァァン!!!


雷鳴が轟き、全場が震える。観衆が一斉に黙り込む。


遠くの柵際にカルナが叩き付けられる。右腕が焦げ、息を荒げながら呻いた。

「ど…どうして見える…!」震える声。膝が揺れる。


オイビソノは跳躍し、拳を再び握る。

標的はカルナの顔。


ズガァァァァァン!!!


二度目の雷撃。轟音が天井を裂き、カルナの頭部を焼き砕いた。焦げた肉片と煙が立ち昇り、巨体は動かなくなった。


観衆は一瞬沈黙し――次の瞬間、爆発するような熱狂。

叫び、歓声、足踏みが渦を巻く。


観覧席にて、ジョナサン・ワンは立ち上がる。

瞳は仮面の戦士から離れない。震える呼吸は恐怖ではなく、熱に似た執着。


焦げた胸の傷がみるみる塞がっていくのを目撃し、呟く。

「……まさか……不滅の術――ラワ・ロンテックの継承者か?」


目が輝き、口元に冷笑が浮かぶ。

「見事だ。なんという美しき戦いの芸術……。間違いない――」


握り締めた拳に欲望の光を宿し、言い放つ。

「この白き髑髏こそ――私の切り札だ!」


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