革命
会議室には静寂が満ちていた。
響くのは壁時計の音だけ。
円卓には十二の椅子が並び、そこに座るのは――
十人の神鱗評議員、首領マイケル・ワン、そして ジョナサン・ワン。
ジョナサンが黒虎に加わってから三か月。
その間、彼の行いについて数多の不満が評議員たちから寄せられていた。
組織の秩序を乱し、掟を汚し、さらには“敵”と手を結んでいる、と。
マイケルは黒檀の机を指で叩き、鋭い眼光をジョナサンに突き刺した。
その声は雷鳴のごとく、場の緊張を切り裂く。
「ジョナサン! この耳に絶えず届く噂――本当にお前は敵と通じているのか!」
全員の視線が一斉にジョナサンへと注がれる。
だが彼はただ薄く、嘲るように笑った。
「敵、ですか?」と静かに返す。
「――つまり、ダササカの首領、ジュン・アブデネゴロのことをおっしゃっているのでしょう?」
椅子に深く背を預け、彼は悠然と続ける。
「もしそうなら、誤解です。私は彼を“敵”とは呼ばない。我々はただの取引相手。
互いに利益を得るための売買に過ぎません。
ジュン・アブデネゴロ、そしてダササカは――敵などではない。私にとっては、むしろ“同盟者”であり、ビジネスのパートナーなのです。」
その言葉は鋭い刃のように場に突き立ち、評議員たちの胸に火を灯す。
創設四天の一人、沈黙を破ったのは 劉森 だった。
彼は身を乗り出し、冷徹な眼差しを放ちながら低い声で告げる。
「まさか我らを愚かだと思っているのではあるまいな、小僧?」
その声音には明確な威圧が込められていた。
「貴様の動きを我らが黙って見過ごすとでも?……貴様は反乱の芽だ!」
張りつめた空気を切り裂くように、別の声が響く。
黄徳生 が机を叩き、怒声を放った。
「それだけではない! 貴様は土着民を使い、奴らに影響力すら与えている!
その決断こそが、この組織の威信を汚したのだ!」
鋭い視線が一斉に突き刺さる。
だが、ジョナサンは眉一つ動かさない。
余裕を漂わせ、口元に薄い笑みを浮かべた。
「ご指摘の通りです、尊きシェンリン評議の皆様。」
声は静かだが、明確な力を帯びていた。
「諸君の言葉は理に適っている。
だが――もし我らが刷新を望み、心を開くのならば、
これらはすべて戦略的な一手となる。
破壊ではなく、繁栄のための道だ。
ダササカであろうと、土着の民であろうと――
もはや憎悪の対象ではない。
あの悲劇は遠い過去のもの。
今や彼らは我らに利益をもたらす存在なのだ。」
沈黙が落ちる。
その時、別の評議員がゆっくりと口を開いた。
ランディ・ジャオ。
彼の声音は落ち着き、だが確固たる信念を帯びていた。
「世界の移ろいは速い。
変化を拒む者は、やがて滅び、時代に呑まれるだけだ。」
彼は力強く続ける。
「私はジョナサンの歩みに全面的に賛同する。
だが一つだけ、組織の誇りを守らねばならぬ。
――ナイブ(副官)や隊長の席に、土着民を置くことは断じて許されぬ。」
鄭浩宇がついに口を開いた。
その声音は静かでありながら、渦巻く騒ぎを切り裂いた。
「偏見や憎しみが我らを蝕む前に……私はまず、ジョナサンの考えと計画を直接聞きたい。その上で判断すればよい。価値があるか否かをな。」
だが言葉が終わる前に、他の数名の評議員が声を荒らげ、互いに意見をぶつけ合った。
「黙れ、貴様ら!!」
突如、マイケル・ワンが怒号を放つ。
その響きは壁を揺らし、場の空気を凍りつかせた。
「お前たちは尊き者ではないのか!? 威厳を忘れるな!」
一瞬にして静寂が訪れた。残るのは荒い呼吸だけ。
マイケルの視線が鋭くジョナサンを射抜く。
「さあ……計画を語れ。細部まで。偽りなく。」
ジョナサンはゆっくりと立ち上がった。
冷ややかな眼差しで円卓を見渡し、ひとりひとりの顔を捉える。
そして深く頭を垂れ、額が机に触れるほどに身を折った。
「……無礼をお許しください。」
再び腰を下ろし、その声が重々しく広間を満たした。
「ダササカには、闘技場に適した製品がある。
短期的には、彼らの品を用いることが大いに利益となるだろう。
その間に我らは独自の薬を研究し、いずれは自らの手で造り出すのだ。
そして、ダササカの首領について――信じようと信じまいと、私も皆と同じく彼を憎んでいる。
だが憎悪は災厄を呼ぶ。今は憎しみに囚われるよりも、彼を利用し、力を蓄えるべきだ。
次に、土着の者たち。確かに彼らは重要な役職に就いている。
だが一人として、我らより上の位に立った者はいない。
祖の教えは……完全には穢されていない。」
言葉を切り、彼は低く、しかし確かな響きで続けた。
「そして私は……ここで何者でもない。
ただ、この組織のために出来ることを尽くしているだけだ。
望むものなど何もない――父の目に、僅かでも役立つ存在として映ること以外は。
……違いますか、マイケル殿?」
答えを待つことなく、ジョナサンは立ち上がった。
その歩みは揺るぎなく、背を向けたまま会議室を去っていく。
評議の結論など、父の言葉など、もはやどうでもよい。
彼が知っているのはただひとつ――その時が、刻一刻と近づいているということ。
――革命。




