二重の暗黒渦
ジュン・アブデネゴロは椅子にもたれかかり、余裕の笑みを浮かべていた。
薄い口髭がわずかに動き、グラスを口に運んでから、まるで時間そのものが自分の所有物であるかのように、ゆっくりとテーブルへ置いた。
その横には、エンジェルが直立していた。冷たい表情のまま、ただ時折その瞳だけが部屋を鋭く走査する。
静寂を破ったのはジョナサン・ワンだった。
「率直に言いましょう、ジュン殿。私は今、質の高い闘士を見つけるのに苦労しています。
一人が必ず死ぬという規則のせいで、自ら志願する者はあまりにも早く死に絶える。
重罪人のリストも既に枯渇しつつある。さらに、法執行機関を利用して仕掛けた罠でさえ、常に強者を得られるとは限らない。
――『生死の闘技場』にはもっと別のものが必要です。観客たちが高額を払い続けるための、“それ以上”が。」
ジュンは眉をわずかに上げ、驚く様子もなく答えた。
「…そして君は耳にしたわけだな? ダササカが、その“解決策”を持っていると。」
ジョナサンは表情を崩さず、わずかに目を細め、唇に薄い笑みを浮かべた。
「ファントム・アイス――その名だけで十分です。聞くところによれば、その物質はただの人間を闘う機械に変えるらしい。強靭に、俊敏に、獰猛に。私の求めるものにぴったりだ。」
ジュンは低く笑った。その声は重く静かで、かすかな威圧を含んでいた。
「耳がいいな、ジョナサン。そうだ、ファントム・アイスは我らの計画だ。安物の“薬”ではない。これは…進化だ。
お前の闘技場で本来死ぬはずの人間たちが――怪物となり、観客を狂喜させることになる。」
ジョナサンは机を指先で叩き、目を爛々と輝かせた。
「つまり――君には私が必要だ。この闘技場こそ、お前の産物を流通させる最高の舞台。君は市場を求め、私は血を欲する観客のために“供給”を求めている。」
ジュンは身を乗り出し、その口元に冷たい笑みを刻んだ。
「我らは同じ商人だ、ジョナサン。君は見世物を得る、私は市場を得る。双方が満足する取引だ。だが…この取引の代価は、金だけでは済まぬだろう?」
ジョナサンは微動だにせず、真っ直ぐにその眼を返した。
「もちろんです。世界はあまりにも速く変わりすぎている。誰にも未来は読めない。だが――この会談は、我らがそれぞれ描く長期的な戦略の“第一歩”にすぎません。…そうでしょう、ジュン殿?」
一瞬の沈黙。ジュンは目を細め、そして小さく笑った。それは愉快ではなく、ただこの場に潜む二頭の捕食者が互いの牙を測り合っていることを理解している笑いだった。
やがて彼は低く答えた。
「いいだろう。これで私には市場が、君には血の宴が手に入る。」
二人は長く視線を交わした。決して揺るがぬことを、互いに確認するかのように。
やがて、計算高い笑みが両者の唇に同時に浮かぶ。
冷たい声が、ガラスの部屋に響いた。
この国の闇を渦巻かせる二つの源が、今まさに一つの契約を結んだ。
――それは、やがて運命の歯車を狂わせる契約であった。
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インドネシア・パレンバン市警察署。
取調室は狭く、息苦しい。壁の塗装は剥がれ、天井から吊るされた裸電球が揺れながら、弱々しい光を放っていた。
その下で、一人の少年が手錠で机に繋がれたまま座っている。顔は青ざめ、腫れ上がった目は殴打の痕を物語っていた。呼吸は荒く、怒りに震えている。
机の向こう側には、中年の公安警察官。鋭い眼差しで少年を睨みつけ、指に挟んだタバコの火をゆらめかせた。
「薬はどこで手に入れた?正直に言え。そうすれば刑は軽くなる。」
少年は睨み返し、声を荒げた。
「クソッ!お前らが仕組んだんだろ!」
警官は低く笑った。その笑い声は狭い部屋を震わせ、不気味に響いた。
「フフフ…強情なやつだな。一ヶ月前、高校で生徒一人が暴走し、数十人を叩き倒した事件があった。なぜあんな力が?ドラッグか…それともお前の父から受け継いだ“戦士の血”か?」
少年は沈黙し、肩を震わせた。警官は机を叩きつける。
「そして今は、お前のカバンから“証拠品”が見つかった。記者に知られればどうなる?世間は当然こう言うだろう――“ドラッグ中毒だ”とな。証拠は揃っている。残された希望はただ一つ…父親の決断だ。」
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別室。
一人の男が椅子に座り、震える手でモニターを見つめていた。そこには拷問のように取り調べを受ける息子の姿。男の目は絶望に濡れ、声も出ない。
ドアが開き、制服姿の警察幹部が現れる。後ろには黒いスーツを着た二人の男。幹部は分厚いファイルを机に置き、中身を広げた。写真、そして白い粉の入った袋。
「証拠は明白だ。息子は麻薬所持で起訴される。最低でも懲役十五年。記者に漏れれば、人生は終わりだ。」
男は叫んだ。
「息子は無実だ!罠だ!全部嘘だ!」
幹部は冷たい笑みを浮かべ、スーツの男に合図した。男の一人が契約書を差し出す。表紙にはこう記されていた――
《死闘闘技場・闘士契約》
幹部は囁くように言った。
「我々なら事件をもみ消せる。記者にも情報は渡らない。だが条件がある。」
彼は書類を指で叩いた。
「これに署名しろ。闘士として闘技場に出ろ。」
男の呼吸が止まる。視線はモニターへ――泣きじゃくる息子の姿が映っていた。
「これが…狙いか…」
幹部は口角を歪め、さらに畳みかけた。
「我々はお前の息子を調べた。学校での暴力事件――常人離れした力。そして我々は知っているぞ。なあ…ウィタマ氏?」
男の目が鋭く光った。
幹部は冷酷に笑った。
「いや、こう呼ぶべきか――オイビソノ。かつて忽然と姿を消した軍の諜報員。お前の血は特別だ…ダルマスータの血だ。」
その名が放たれた瞬間、空気は凍りついた。オイビソノの拳は震え、怒りで血管が浮き上がる。
「もちろん、今すぐ我々を殺し、息子を救うこともできるだろう。だが、世間はどう見る?メディアは何を報じる?すべてを失うだけだ。」
契約書が押し出される。
「選べ。裁判と絶望か…闘技場と栄光か。お前の“血”を証明してみせろ。」
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長い沈黙。時計の針が刻む一秒ごとに、心臓を抉るようだった。
やがて、オイビソノは震える手でペンを取る。黒いインクが彼の名を紙に刻むたび、魂が裂けるような痛みが走った。
幹部は満足そうに頷いた。
「ようこそ。今日からお前は闘技場の所有物だ。」
天井の蛍光灯が一瞬、ジリと音を立てて揺れた。オイビソノは顔を伏せ、涙が契約書を濡らした。
同じ頃、取調室で息子は絶叫した。手錠がガチャガチャと音を立て、彼の声は崩れ落ちる世界そのもののように響いた。




