最初の七人のバタラ
八方の風が証人となった。
人の世が憎しみに焼かれ、大王たちが王座と領土のために互いを斬り合ったとき、
七つの純粋なる魂が立ち上がった。
彼らは臆病者ではなかった。
彼らは最高の武人、勇敢なる将軍であった。
だが彼らは見抜いた──真の敵は人ではなく、天より堕ちし影、
黒き翼と角を持つ堕天の者、アスラ であると。
王の命令に背いた彼らは、鉄の牢に閉じ込められた。
だが鎖は魂を縛ることなく、その心はなお澄み渡り、揺るがなかった。
ある夜、天地が戦火に裂かれる中、
サン・ヒャン・ウィセサ──宇宙そのものの顕現──が彼らの夢に現れた。
魂は肉体を離れ、光となって天を翔け、
大神々の座す霊峰 マハメル へと導かれた。
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そこに七つの魂は集い、天の星々に包まれた。
サン・ヒャン・ウィセサの声が轟き渡る。
「七つの純粋なる魂よ。
人の世は欲に盲い、アスラは闇の種を蒔いた。
だが汝らは膝を屈さず、不義の戦を拒んだ。
ゆえに汝らこそ、宇宙に選ばれし者なり。」
一人ひとりの魂は、チャンドラディムカの火口へと投げ入れられた。
白き炎は肉を焼かず、ただ欲と恐れを浄化した。
そして彼らが立ち上がったとき、もはや人ではなく、
大いなる光を纏いし存在──バタラとなっていた。
天空には聖なる鳥が旋回し、大地は彼らを受け入れた。
「この日より汝らはバタラ。
人の守護者、アスラに抗う盾である。」
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やがて一人ひとりに名が与えられた。
その中で、最も揺るがぬ心を持つ者に向かって、
サン・ヒャン・ウィセサは告げた。
「汝、アビマニュよ──
汝はバタラを率いる者、バタラ・ワリとなる。」
すると黄金の光が天を裂き、
巨大なる ガルーダ が翼を広げて舞い降り、
その肩に降り立った。
「このガルーダは汝の友、汝の伴侶、そして武器である。
必要とあらば、天より授かりし神器へと姿を変え、
この地を護るであろう。」
そしてサン・ヒャン・ウィセサの声が雷の如く響いた。
「汝ら七人は、光となり闇を砕け。
使命はただ一つ──アスラを討ち、人を救え。」
その夜より、世界に七つの新たな光が生まれた。
それが、始まりの 七人のバタラ であった。
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アビマニュが見ているものは夢ではなかった。
それはバタラ・ワリによって示された歴史の幻影であった。
彼の魂は限りなき空間を漂い、まるで自らその場に立っているかのように過去を目撃していた。
暗き空がゆっくりと裂け、アシュラが封じられた後の出来事が現れる。
大地を引き裂いた大戦は終わりを告げた。
炎は鎮まり、叫び声は消え、人々は再び生活を築き直す。
かつてチャンドラディムカの大釜で鍛えられた七人のバタラは、もはや剣を振るう者ではなく、導く者となった。
彼らは新たに立つ王たちに律法を授け、均衡を説き、賢明なる道を示した。
アビマニュは、再び甦る王国の姿を見た。
田畑に稲を植える民、宮殿の庭で駆け回る子供たち、ガムランが鳴り響き、平和の息吹が大地を包む。
だが、時は決して歩みを止めることはなかった。
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幻影が移ろう。
アビマニュはバタラたちが人々の中に紛れて生きる姿を目にする。
彼らはその正体を隠し、妻を娶り、子を成した。
一時の幸福を得るも、その結末は常に同じであった。
妻は老い、子は死に、ただ彼らだけが生き続ける。
一人、また一人と映し出されるバタラの面差し。
そこには子孫への誇りと同時に、尽きぬ孤独が宿っていた。
――不死とは、決して傷無き祝福ではなかったのだ。
彼らの血から生まれた子孫はダルマスータと呼ばれた。
若きその者たちは尋常ならざるプラナの感応を示し、人を超える力を持っていた。
しかし次の幻影は、彼らが老い、そして人として死んでいく姿を映した。
「バタラの血… ダルマスータ…」
アビマニュは震える瞳で呟き、長きに封じられた系譜を見届けた。
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幻影が再び移ろう。
文人たちが筆を執り、学僧たちが巻物を記す。
こうして生まれたのが、バタラの書――その秘められし真実を記した記録であった。
だが、光景はたちまち陰を帯びる。
バタラたちが集い、重苦しい顔を寄せ合う。
彼らの胸を占めていたのは、新たなる大戦の影。
もしダルマスータの秘密が広まれば、子孫同士が力を求めて殺し合うのは必定であった。
バタラ・ワリの声が虚空に響く。
「継ぐべき歴史を… 我らは消した。人が人自身から滅びぬように。」
アビマニュは見た。
バタラの書が人里離れた丘に葬られる様を。
霧に覆われ、深き森に囲まれ、大地そのものが守り手となる丘。
その時より、バタラたちは人界から姿を隠し、ただ自然とプラナと共に生きる道を選んだ。
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幻影はなお続く。
世代は重なり、人々は真実を知らぬままに生きた。
バタラの名は歌や詩に語られるのみ、ただの神話と化した。
現実であったことを忘れ、人はそれを虚構と呼ぶようになった。
だがアビマニュは、今その目で見ている。
これは伝説ではない。
彼自身こそ、埋もれし歴史の継承者であった。
バタラ・ワリは彼を振り返り、その声は重くも希望に満ちていた。
「見たか、我が子よ… これが我らの傷であり、遺産である。
隠された歴史、だが決して絶えぬもの。
そして今、そのすべてが… お前の内に流れている。」
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そして幻影は再び揺らめいた。
大地の彼方から、一つの影が現れる。
――遠き異国よりの使者が来たり、バタラの秘められた真実を再び解き放とうとしていた。




