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バタラカッラ 最後の血統  作者: カンボロ


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継承者

八年の歳月が流れた。

アビマニュがバタラ・ワリの次元へ足を踏み入れてから、時の流れはもはや常識では測れぬものとなった。

苦痛と傷、果てしない修行に満ちた八年――その歳月は彼を、かつては夢にすぎなかった存在へと鍛え上げた。


静寂の山腹、夕陽に染まる赤金の空の下、二つの影が対峙していた。


アビマニュの息は荒く、両の掌は震え、蒼金色の雷光がなおも弾ける。

暴れるプラナを制御し、鋭い眼差しは燃えるように地平を射抜いていた。


その前に倒れるのはバタラ・ワリ。

師の肉体は焼け焦げ、皮膚は爛れ、肉片は散り落ち――まるで死神に抱かれたかのようであった。

人であれば即座に命を失うであろう傷。


だが、大地に触れたその瞬間、常識を越えた現象が起きる。


割れた皮膚はゆるやかに塞がり、剥がれた肉は引き寄せられるように戻り、焦げた肉体は瑞々しさを取り戻す。

白煙が薄く立ち上り、三分も経たぬうちにバタラ・ワリは立ち上がる――まるで死が彼を拒んだかのように。


重く神秘に満ちた声が響く。

「ラワ・ロンテッの呪法…魂を大地に縛る術。肉体が大地に触れる限り、死は決して支配できぬ。

これこそバタラに選ばれし者へ授けられる、不滅の秘奥義。」


アビマニュは沈黙した。

荒い息の中、力が漲る身体でありながら、その心は揺れていた。

師を三度打ち倒した――それは彼の内なる封印がすべて解かれた証。

これまで閉ざされていたプラナは、今や大海のごとく奔流し、解き放たれていた。


バタラ・ワリは再び直立し、鋭い眼差しに誇りを宿して告げる。

「アビマニュよ…汝は長き道を歩んだ。初めて来たその時から、私は悟っていた――汝こそ我が祈りの答えだと。

今や封印は完全に解かれ、諸々の呪法を極め、荒ぶる力を己のものとした。

もはや汝はただの器ではない。これを以て、我が役目は果たされた。」



夜。小さな篝火が燃え、師弟の顔を赤く照らす。


バタラ・ワリは手を掲げ、アビマニュの胸を指す――まるで宿命を心臓に刻み込むように。

「今この時をもって、バタラの遺産を汝に託す。

不滅の呪法――ラワ・ロンテッ。

この地、このヌサンタラを守る宿命を背負う者よ。

汝はもはやアビマニュにあらず。守護者、バタラの継承者である。」


夜風が葉を揺らし、大地が微かに震え、天は裂けて聖なる火を映した。

自然そのものが、この決断を聞き届けたかのように。


バタラ・ワリがその使命をアビマニュに託そうと口にしたとき、アビマニュの目から静かに涙がこぼれ落ちた。


彼は小さく首を振り、胸を締めつけるような重みで言葉を失った。


しかし、バタラ・ワリはただ微笑んだ。温かさと共に、深い謎を含んだ笑みだった。

「よいのだ、我が子よ……ならば、共に来なさい。お前に見せねばならぬものがある。」


彼の力強い手が、アビマニュの肩にそっと触れる。


瞬間——ウゥゥゥン……!

二人の宿る「スークマ(霊魂)」が肉体から解き放たれた。

二つの光となり、夜の霧を突き抜け、炎のそばに残された身体を置き去りにして、空へと舞い上がる。


アビマニュは自分の魂が高みへ引き上げられていくのを感じた。谷を越え、山を越え、星々を越え——光の大海を渡っていく。

その先を導くのはバタラ・ワリ。師は彼を連れ、時と歴史が幾重にも折り重なる異なる次元へと進んでいた。


「見よ、アビマニュ……」

虚空に響く声は、宇宙の根源から鳴り渡るようだった。

「我もまた、元はただの人間であったのだ。」


すると目前に、ひとつの過去の光景が広がった。


――――


そこには若き日のバタラ・ワリ。

まだ「バタラ」と呼ばれる前の、血気盛んな青年の姿があった。


鍛え抜かれた体、燃える瞳。王国の広場で無数の兵を相手に、ただ一人で立ち向かい、疾風のごとき動きで敵を薙ぎ倒していく。歓声が響き渡り、老臣たちはその力に感嘆し頷いた。


やがて彼は鎧を身に纏い、十八歳にして将軍となる。軍勢を率いて戦場に立ち、王国の旗を背に、大地を揺るがす声で命を下す。その剣の一振りは稲妻のごとく、敵軍を震え上がらせた。


バタラ・ワリの声が重なる。

「これがかつての我だ……アビマニュという名を持つ若者。バタラ・ワリとなる前の、我の本名よ。」


――――


スークマの世界にて、アビマニュは息を呑んだ。

そして、声が——己の声が——口から溢れ出た。


「アビマニュ……? おれの声が……戻っている……?」


バタラ・ワリは振り返り、穏やかに微笑む。

「このスークマの次元では、人は最良の状態にある。傷も、弱さも消える。だからここでは声も正常に戻るのだ。」


アビマニュは眉を寄せる。温もりの中に、説明できぬ苦さを感じた。

バタラ・ワリはさらに言葉を重ねる。

「そうだ……我の名もまたアビマニュ。ゆえに初めてお前の名を聞いたとき、心から驚いた。

そしてお前の過去の断片を見たとき、悟ったのだ……お前こそ、我が血脈の最後の継承者。

数百代の間、ダルマスータの兆しは現れなかった。だが、お前が生まれた時、その力は再び姿を現した。」


アビマニュは震える声で問う。

「おれが……最後の血脈……? でも、なぜ……なぜおれなんだ、祖父上?」


バタラ・ワリは再び微笑む。その笑みは、幾千年の秘密を包み込んでいた。


――――


場面が変わる。

空が裂け、王国の栄華が映し出される。

稲穂は黄金に輝き、ガムランが鳴り響き、人々は笑顔に満ちていた。


だが突然——闇の天を裂き、紫に輝く流星が墜ちる。

その光は空を引き裂き、世界に傷を刻む。


バタラ・ワリは手を掲げ、その紫の輝きの源を示した。


――――


そこに現れたのは、翼を持つ黒き天魔。

額には湾曲した角、瞳は炎のごとく燃え、邪悪そのものの気配が大地を蝕む。


「これこそが人類の宿敵……」

バタラ・ワリの声は怒りに震え、地を揺るがす。

「アシュラだ。」


アビマニュの体が震える。恐怖ではなく、既視感による戦慄。

「おれは……あいつを見たことがある……夢の中で……!

黒翼の魔……そして大戦……バタラたちが立ち向かう姿を。あれが……“バタラ・ユーダ”と呼ばれる戦い……!」


バタラ・ワリはゆっくりと頷いた。

「その通りだ。我らバタラとアシュラ軍との古の戦。お前の夢はただの幻ではない。あれは時を超えて響く、戦の残響なのだ。」


紫の星が落ちてから、王国は崩壊し、同胞の国々は互いに疑心を抱き、血を流し合った。大地は赤に染まった。


――――


七人の戦士が、ヌサンタラ各地から選ばれたかのように現れる。


彼らの夢に現れたのは、一人の巨躯の存在。

黄金に輝く衣を纏い、顔は智慧と威厳に満ちていた。


その名は——サン・ヒャン・ウィセサ。

宇宙そのものの化身。


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