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バタラカッラ 最後の血統  作者: カンボロ


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22/66

あの子は、成し遂げた

夜空が裂けた。

星の光ではなく、大地を幾度も打ち砕く稲妻の閃光によって。

その轟音は、人間と七人のバタラ、そしてアスラと闇の軍勢との最大の戦いの始まりを告げていた。


山々は震え、海は裂け、森は燃え尽きた。

火炎、嵐、大地を吹き飛ばす爆発が入り乱れ、世界を揺るがす。


天の獣たち――バタラたちを護る霊の化身である鳥たちが空を舞う。

ガルダ、巨大な烏、孔雀、群れなす鳩。

彼らは聖なる叫びをあげて急降下し、主と一体となり、プラーナの武器――剣、槍、矢、槌――へと姿を変え、再び獣の姿に戻り、戦いを続けた。


人間と闇の化物の悲鳴が入り乱れ、大地を赤く染める血の川が流れる。

アスラ――黒鉄の如き身体に無数の角を持ち、瞳は灼熱の炎。

その一振りで人の軍勢は吹き飛び、咆哮一つで大地は裂け、天空は震えた。


だが、七人のバタラは立ち続けた。

傷だらけの身でありながら、彼らは一糸乱れぬ調和で力を合わせる。


アスラが追い詰められたその時――

六人のバタラが大地に掌を当て、大地のプラーナを流し込む。

すると大地から光り輝く巨鎖が湧き上がり、角の先から足元までアスラの全身を縛り上げた。


アスラは咆哮し、もがき叫ぶ。

「我は決して滅びぬ! 貴様らに我を殺すことなどできぬ! 我は人間を一人残らず喰らい、この世を破滅に沈めてやる!!」


轟音の中、一歩前へ進み出たのはバタラ・ワリであった。

その身体は血に塗れ、無数の傷口はなおも口を開いていたが、プラーナの癒しによりゆるやかに閉じてゆく。

一歩ごとの足音が大地に響き渡り、まるで地そのものが彼を支えているかのようだった。


アスラの双眸を真っ向から見据え、彼は震える手を掲げた。

「人を滅ぼさんとするその所業は、均衡を汚し、生命の聖なる理を踏みにじった。

サン・ヒャン・ウィセサの御力をもって、我らは汝を人の届かぬ異界へと封ずる!」


バタラ・ワリの掌がアスラの額に触れた瞬間――

聖なるプラーナが奔流となって流れ込み、光が闇を呑み尽くす。

アスラの肉体は石化し、ひび割れは頭から胸、そして全身へと広がり、ついには巨山の姿を成した。

その山はさらに六人の鎖に縛られ、逃れられぬ牢獄と化す。


だが魂が消え去るその刹那、アスラは最後の咆哮をあげた。

「聞け! バタラども! 我は再び甦る! 千年、万年、いかほどの時が流れようとも! その日が訪れた時――誰一人、生き残ることは叶わぬ!」


その声は世界に轟き、やがて石に閉ざされ、虚無の異界へと呑み込まれた。


静寂。

残されたのは、荒い息をつくバタラたちの音だけ。

互いに体を支え合いながら立つ彼らは知っていた。

この戦いは終わりではなく、いずれ訪れる闇の再来への誓約にすぎぬことを――。



アビマニュははっと目を見開いた。

息は荒く、冷たい汗が額を伝う。気がつけば彼はまだ洞窟の奥、修行の座法のまま座っていた。両の掌の間には、一粒の小石が静かに挟まれている。


だが、彼が今見たものはただの夢ではなかった。――それは古の記憶。バタラの血に刻まれた大戦の残響だった。

洞窟の壁は震え、遠い戦の轟きがいまだ残っているかのように響いた。胸を押さえると、奔流のようなプラーナが体内を駆け抜けていた。今までにない、荒ぶる力の胎動。


「また…あの幻影か…」

胸の内でそう呟き、重い呼吸を吐き出す。だが先ほどまでとは違い、今のそれは彼を脅かすものではなかった。――それは呼び声、より強くあれと告げる声だった。


アビマニュは一度瞼を閉じ、静かに立ち上がった。洞窟の外へ歩み出る。そこには朝靄に包まれた山の気配。

思い返されるのは――二年に及ぶ修行の記憶。


――石と山を通して、大地を知る旅。


バタラ・ワリは初日から彼に課した。

「毎日、山頂まで登り、一つの小石を持ち帰れ。」


理由は告げられなかった。なぜ一粒なのか。なぜ山頂の石なのか。彼は幾度も心中で問うたが、師の命には逆らわなかった。こうして小石は彼の修行の日々を語る無言の証となった。


初めの頃、山頂に辿り着くには一昼夜を要した。足は血にまみれ、呼吸は途切れ途切れ。だが彼は必ず小石を握りしめて戻ってきた。


日が巡るごとに、積み重なる小石の山。彼はそれを修行場の大岩の前に積み上げていった。――かつて師が「亜時庵ワトゥグヌン(岩山秘術)」をもって砕いたあの岩の隣に。


やがてアビマニュは悟る。小石はただの石ではない。ひとつひとつに大地の鼓動が宿り、それはやがて彼の血潮と響き合うものだった。


一年が過ぎたある朝、師はこう言った。

「今日からは石をただ積むだけではない。その石を握りしめ、大岩に打ちつけよ。」


それ以来、小石は試練の具となった。夜の瞑想を終えると、彼は石を全力で岩へ叩きつけた。石は砕け散り、粉塵となって地に落ちる。だがそれと共に、己の弱さも一片ずつ剥がれ落ちていくようだった。


数え切れぬ夜と朝。洞窟の前には千を超える小石の残骸が積もった。彼の掌は傷だらけでありながら、鍛え上げられた岩のように硬くなった。



八百日目。

彼は再び山頂に立っていた。もはや登頂は数時間で済む。山は恐怖の相手ではなく、友であり師となっていた。


その日、彼が拾った小石は今までと違った。小さくとも、手にずしりと重みを感じる。彼はそれを大切に握り、山を下った。


そして、あの大岩の前に立つ。隣には二年前、師の拳によって砕かれた岩の残骸。残されたもう一つの巨岩は、今も威容を誇ってそびえていた。


アビマニュは目を閉じ、掌の小石を強く握る。

その時――聞こえた。耳ではなく、魂で。


大地の詩。岩に眠るプラーナの調べ。



「我が魂よ

天地とひとつに

結び合え

崩れぬ山の如く

石は命ぞ」



アビマニュの全身が震えた。血脈は沸き立ち、地のプラーナが噴火のごとく湧き上がる。

彼は拳を握りしめ、その力を大岩へと解き放った。


「ドオオオオオォォォンッ!!!」


大地が震え、轟音と共に巨岩は粉々に砕け散った。破片は宙を舞い、砂煙が空を覆う。


荒い息を吐きながら、アビマニュは目を見開いた。

――岩は、本当に砕けた。

自分の拳で。


その瞬間、遠くで瞑想していたバタラ・ワリが目を開いた。口元にわずかな笑みを浮かべ、心の中で呟く。


「……あの子は、成し遂げた。」



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