第二章 プラーナとアジアン
ある朝、まだ露が葉先から滴り落ちる頃、バタラ・ワリはアビマニュを連れて森の奥へと入っていった。
湿った土の香りと澄んだ空気が混ざり合い、鳥たちのさえずりが新しい一日の訪れを告げていた。
「周りをよく見てごらん、坊や。」
バタラは茂みを指さし、葉を数枚摘み取ると、指先で揉みつぶし、その緑の汁を肌に塗りつけた。
「これは擦り傷に効く。人が薬を作るよりずっと前から、自然はすでに治癒を与えてくれていたのだ。」
アビマニュは静かにうなずき、その目は好奇心に輝いていた。彼はバタラの一つ一つの動きを見逃すまいと、真剣に観察していた。
昼になると、二人はさらに森の奥へと進んだ。
バタラは簡素な弓を構え、低く囁いた。
「狩りもまた生きる術の一つだ。だが忘れるな、欲張ってはならぬ。」
その眼差しは厳しくも優しい。
「食べられる分だけを狩るのだ。必要以上に命を奪えば、自然は必ず怒りを示す。」
やがて、遠くに一頭の鹿が現れた。
バタラは静かに息を整え、矢を放つ。
鹿は一瞬のうちに倒れ、長い悲鳴もあげなかった。
バタラはその傍らに膝をつき、静かに頭を垂れる。
「感謝を忘れるな。これからその命は、お前の命の一部になるのだから。」
アビマニュも同じように頭を下げた。言葉はなくとも、胸の奥に深い震えを感じていた。
帰り道、バタラは静かに続けた。
「やがて断食を学ぶ時が来るだろう。食を断つことは、ただの飢えではない。魂を鍛える修行なのだ。ある特定の日に腹を空にすることで、内臓は強くなり、プラーナの流れも増す。」
アビマニュはただうなずき、異を唱えることはなかった。
バタラの言葉はすべて真実のように響き、美しかった。
――その日から、大きな学びが始まろうとしていた。
⸻
バタラ・ワリは山の麓の大岩の上に座り込み、静かに言った。
「座りなさい、坊や。今日は……人生の秘密を少し教えよう。」
アビマニュは素直に従い、老人の前に正座した。
バタラは深く息を吸い、そして語り始めた。
「プラーナ……その言葉を聞いたことがあるか? この地上には、果てしない力が絶え間なく流れている。それがプラーナだ。川の流れでもあり、静かな岩でもあり、我らを包む空気でもある。」
ちょうどその時、山風が頬を撫でた。
バタラは微笑み、遠くを見つめた。
「感じるか? この風もまた、自然に巡るプラーナだ。だが覚えておけ……穏やかな風は、時に暴風となり、大地をも滅ぼす。」
アビマニュは目を輝かせ、ゆっくりとうなずいた。
「プラーナとは、大地の鼓動そのものだ。そして我らの身体は、その力とつながるために与えられた器である。プラーナを通じて、人は嵐を呼び、雨を降らせ、稲妻すら落とすことができる。」
そう言いながらバタラは一度目を伏せ、そして再び真っ直ぐにアビマニュを見据えた。
「だが……その前に厚い壁がある。多くの人間、たとえダルマスータでさえ、その壁を少ししか破れぬ。ほんの一滴しか触れられぬのだ。本当は、その内には大海のごとき力が流れているというのに。」
彼は拳を握りしめ、それを胸に当てた。
「その壁を打ち破れる者こそ、真にプラーナを支配する者となる。だがその道は、苦しみと試練に満ちている。……さあ、坊や。お前はその覚悟があるか?」
アビマニュはしばらく黙っていた。
風が頬をなで、木々のざわめきが耳に響く。
やがて、彼はゆっくりと顔を上げ、バタラ・ワリの目を真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、恐れよりも強い光が宿っていた。
両の手を胸に当て、握りしめた拳を前へと突き出す。
――まるで「自分は進む」と告げるように。
次に、彼は指で空に円を描き、そこに小さく点を打つ仕草をした。
それは「たとえ希望が小さくても、必ずそこへ辿り着く」という意志の現れだった。
さらに、彼は両腕を広げ、力強く抱きしめるように胸に戻した。
それは「妹を守る」「仲間を守る」――その誓いを示す仕草。
最後に、彼は拳を高く掲げ、震えるほどの力で大地を叩いた。
言葉は出ない。
だが、その仕草のすべてが雄弁に語っていた。
――自分は決して逃げない。
――この道を選ぶ。
――たとえ死ぬとしても。
バタラ・ワリはじっとその動きを見つめ、やがて大きくうなずいた。
「……よく言ったな、坊や。「お前の覚悟を尊重するぞ、坊や。決して揺らぐな!」
バタラ・ワリは低くも力強い声で言った。
「昨日お前が見た《アジアン・ワトゥグヌン(岩山秘術)》――巨大な岩を粉砕する術。あれは、プラーナを操る技のほんの一端にすぎぬ。」
彼はしばし空を仰ぎ、そして真剣な眼差しでアビマニュを見つめた。
「まずはプラーナを理解することだ。それがすべての始まりとなる。」
老人の口元にゆっくりと笑みが広がり、厳しい眼差しの奥に誇らしさが宿る。
「いいだろう。ならば私も全てを懸けて、お前を鍛えよう。」
「これがお前の最初の修行だ。今夜から夜明けまで、ここに座り、瞑想せよ……!」




