二つの運命の交差
その夜、月も星も姿を見せなかった。
アビマニュの世界は闇に覆われ、わずかな光すら失われていた。
彼はふらつきながら歩き、息も絶え絶えだった。
背には冷たくなったアレックスの亡骸を布で縛りつけ、片手には惨劇の現場で見つけた古びたスコップを握っていた。
乾いた血が服を汚し、夜の寒さが骨身に染みる。
アレックスの指先からはまだ血が滴り落ち、手の甲には「3A」と刻まれた刺青がくっきりと残っていた。三人の絆を示す印――今や冷たく沈黙するだけだった。
やがて小雨が降り始め、胸を切り裂くような痛みをさらに深めていく。
長い道のりの果て、彼は森の外れにたどり着いた。
そこでアビマニュは暗闇の中、震える手で硬い大地を掘り始めた。血に塗れた指は根に裂かれ、泥にまみれながらも止まることはなかった。
一掬いの土が持ち上がるたびに、涙が落ち、地面を濡らしていく。
やがて穴は十分に深くなった。
彼はアレックスの体を丁寧に横たえた。まるで眠っているかのように――永遠の眠りへと。
「ごめん……止められなかった……」
声にならぬその言葉は心の奥底に響き渡るだけだった。
彼の嗚咽は音を持たず、ただ体の震えとして吐き出される。
土をかけ戻し、ゆっくりと穴を閉じていく。
その下には、友であり兄であった者が静かに飲み込まれていった。
アビマニュは力尽きて墓の横に身を投げ出した。
「死ぬべきは俺だった……」
そう胸の内で呟き、再び訪れた喪失の重さに押し潰される。
世界は彼に、ほんのわずかな幸福すら許さないのだ。
彼は刺青を見つめ、三人の絆を思い出す。
その繋がりは、同じ運命を背負ったからこそ生まれたものだった――だが、その結末はあまりに悲惨だった。
「エンジェル……どこにいるんだ? まだ生きているのか? それとも……もう……」
胸の奥で呟くたびに、怒り、絶望、憎しみが心を引き裂き、混じり合っていく。
「ふざけた“宿命”なんて……誰が背負いたいものか!」
内なる罵声を吐き捨てたその瞬間――視界に影が現れた。
それは、あの乞食の姿だった。
顔は目の前に迫り、まるで幽鬼のようにアビマニュを見下ろしている。
アビマニュは驚愕し、すぐさま飛び起きた。
身体は力なく震え、虚ろな眼差しのまま暗い森を見つめる。
風が吹き、雨脚は強まり、枝はきしむ音を立てる。
そして――木々の間、淡い月明かりの下に、乞食の姿が再び浮かび上がった。
その目は、アビマニュの魂そのものを射抜くかのようだった。
「また……あの乞食か……! くそ……今度こそ問いただしてやる!」
心で叫び、彼は一歩を踏み出す。だがその影は瞬時に消えた。
残されたのは、雨の音だけ。
アビマニュは目をこすり、幻覚ではないと確かめる。
そして再び――今度は木の陰に――乞食の影が立っていた。
無言のまま、まるで人形のように動かず、彼を見つめている。
アビマニュは駆け出した。
だが近づいた瞬間、影はまた消え、残ったのは木々の黒い影だけだった。
息は荒く、恐怖と苛立ち、そして好奇心が体を震わせる。
一歩ごとに、影は現れては消える。
遠くに、枝の向こうに、小径の先に――まるで彼を誘うかのように。
その姿は幻影のように現れては消え、彼を森の奥深くへと導いていく。
「くそっ……! 声さえ出せたなら、ありったけの罵りをぶつけてやるのに!」
心で罵倒を吐きながらも、足を止めることはできなかった。
森は濃い霧に包まれ、木々は道を閉ざすように立ち並ぶ。
夜鳥の鳴き声と、遠くから響く犬の遠吠えだけが耳に残る。
追えば追うほど、道は失われていく。
方角は分からず、帰り道も消え、闇が彼を呑み込んでいく。
冷や汗が滴り落ちる。だがアビマニュは足を止めない。
この幻影の奥には――答えがあると感じていた。
夢で見たもの、告げられた「宿命」。それを解く鍵が。
森は静寂に沈み、心臓の鼓動だけが太鼓のように響いた。
息を切らしながら立ち止まり、彼は初めて悟る。
――この影を追えば、真実に辿り着けるかもしれない。
だが同時に――二度と戻れないかもしれない。
疲労は頂点に達していた。
アビマニュはその影を追いかけ、休むことなく走り続けた――ついにその体は湿った地面に倒れ、息は荒く、意識は薄れていった。
暗闇が彼を飲み込み、彼は眠りに落ちた。
…
目を開けると、太陽の光が茂った木々の間から差し込んでいた。
彼は見知らぬ森の中で横たわっており、樹木は巨大な柱のようにそびえ立ち、静寂が胸を押しつぶすようだった。
アビマニュはしばらくそのまま横たわっていた。
「もしこれが本当に俺の最後の場所なら…ここで死んでしまおうか」と、心の中でつぶやいた。
しかし突然、翼の羽ばたきの音が静寂を破った。
大きな鳥が頭上を飛び、近くの木の枝に止まった。
その鋭い視線は、アビマニュの目と絡み合った。
「…またかよ?鳥か…」と、眉をひそめて考えた。
アビマニュが立ち上がり歩き出すと、鳥は飛び移り、より遠い枝に止まったが、常にこちらを振り返っていた。
まるで言っているかのようだ――「ついて来い。お前の道はここにある。」
彼は一歩一歩、鳥に従って進んだ。やがて、密集した木々の間に隙間が現れた。
その森の奥――一つの建物がそびえ立っていた。
それは普通の家ではなく、古い寺院だった。建築は高くそびえ、門には彫刻が施され、壁は苔に覆われていたが、威厳あるオーラを放ち、忘れ去られた礼拝の場のようだった。
アビマニュの胸は高鳴った。彼は歩調を早めた。
「何があろうと…誰がいようと――いいさ、俺は来た。」
近づくと、寺院の扉がギィと音を立てて開いた。
中から、年の頃五十ほどの男性が現れた。筋肉質な体つきで、長い髪が肩に垂れ、眼光は鋭く、まるで魂を貫く剣のようだった。
落ち着いた声でありながら威厳に満ちたその男は言った。
「七重の結界を破った者か…小子よ。」




