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バタラカッラ 最後の血統  作者: カンボロ


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家族

アビのアンジェルへの想いは、静かに、そして繊細に育っていった。

それは、誰にも気づかれずにゆっくりと這う木の根のように広がっていく。


アンジェルが微笑むたびに、アビの胸の奥に温かさが流れ込み、まるで心を照らす光に触れたかのように、安心感に包まれるのだった。

アンジェルの柔らかく、いつも気遣いに満ちた声は、まるで心を落ち着かせる優しい旋律のようだった。


だが、その奥には自分でも説明できない感情が潜んでいた。

それは静かに忍び込みながらも、胸を締めつけ、呼吸さえも苦しくさせる。

時が経つにつれて、その想いには避けられない嫉妬も混じり始めた。


アレックス──明るく、いつもエネルギーにあふれたその存在は、どうしてもアンジェルに近いように見えた。

二人が楽しそうに笑い合う姿を見たり、自然に言葉を交わすのを聞いたり、アンジェルがアレックスの隣で幸せそうに笑うたびに、アビの心には鋭い痛みが走った。

それは突然訪れ、どうすることもできず、相反する感情の中に閉じ込められてしまうのだった。


ある夕暮れ、アンジェルがアレックスとふざけ合いながら橋の下で笑っていたとき、アビはただ黙って座り込み、二人を見つめていた。

その視線はどこか虚ろで、心ここにあらずのようだった。

ふと足元に転がっていた空き缶を蹴ってしまい──「カラン」と乾いた音が響く。


その音に気づいたアンジェルが振り返った。

「アビお兄ちゃん、大丈夫?」

柔らかく、心配そうな声がアビの耳に届いた。


その瞬間、アビはまるで夢から覚めたように我に返る。

ただ小さくうなずき、ぎこちない笑みを浮かべるだけで精一杯だった。

「うん、大丈夫」と言っているつもりでも、その笑顔には心が伴っていなかった。


アビは知っていた。

この想いは間違っている、と。

隠そうとすればするほど、胸の内で大きくなっていく──制御できない想い。


翌日。

アレックスはまたしても溢れるほどの元気で家に帰ってきた。

瞳を輝かせ、何か突飛なアイデアを思いついた時のあの顔で。


「俺たちをひとつにするものが必要だ」

そう言いながら、彼は胸を張る。


アンジェルとアビは顔を見合わせ、またアレックスが突拍子もないことを言い出したとばかりに首をかしげた。


「タトゥーだ」

アレックスは真剣な顔で言った。


「タトゥー? 本気なの、アレックス兄ちゃん?」

アンジェルは驚いて、そして少し笑った。


アレックスは悪戯っぽく笑い、地面に棒で図を描き始める。

「三つのAだ。アレックス、アビ、アンジェル。三つのAが角で重なり合って、星みたいな形になる」


アビはその簡単なスケッチをじっと見つめた。

ただの文字に見えて、もっと深い意味を感じてしまう。

それは絆の象徴──血ではなく、共に歩んだ時間と愛情によって結ばれた家族の証だった。


アンジェルはまだ笑っていたが、その笑顔には温かさがあった。

「やっぱり変わってるよ、アレックス兄ちゃん」

そう言いながらも、どこか安心したような眼差しを向ける。


アビは小さくうなずくしかなかった。胸の奥には言葉にできない感情が渦巻いていた。


「これはただのタトゥーじゃない。永遠の印だ」

アレックスの声は力強く、まっすぐで、揺るぎなかった。

「ただのシンボルじゃない。これは約束だ。俺たちはどんなことがあっても一緒にいる。もし離れ離れになっても、必ず互いを探し出す。俺たちは家族だから」


その言葉は、アビの胸に深く響いた。

世界のすべてがその瞬間、アレックスの言葉を中心に回っているように感じた。

血ではなく、もっと強い絆で結ばれた家族。

それこそが、何よりも大切なものだった。


その日、三人は右手の甲に小さなタトゥーを入れた。

重なり合う三つの「A」。

それは単純な模様でありながら、深遠な意味を持っていた。


世界がどれほど厳しく、残酷であったとしても、三人は互いを持っていた。

それは何よりの証であり、誰にも奪えない絆だった。


──たとえ世界が彼らを引き裂こうとしても、

三人は「家族」であることを忘れはしない。



_____


三人で歩み始めてから、もう一年が過ぎていた。

生活は相変わらず狭く、厳しいままだった。

それでも努力のおかげで、ほんの小さな光を手にすることができた。

――市場の片隅、魚の匂いと商人たちの声が絶え間なく響く場所で。


エンジェルはいつも一番に起きる。

まだ太陽も昇らぬうちから、冷たい水に触れ、魚の匂いに慣れた手で商人を手伝う。

売れ残った魚を持ち帰り、夕方には小さな火で焼く。

煙が細く立ちのぼり、それが三人のささやかな宴となる。


アビマニュは、声に不自由があるにもかかわらず、次第に市場で信頼を得ていた。

余計なことは言わず、ただ笑い、ただ働く。

荷物を運び、掃き、見張りをする。

そうして、少しずつ、小さな報酬を受け取るようになった。


だが、アレックスは違った。

彼はだんだんと遠ざかっていった。

不良たちの輪に入り、喧嘩や小さな盗みで金を稼ぐ。

夜遅く帰り、傷だらけの顔で言うのはいつも同じ。

「もう食べたから。」

エンジェルは俯き、アビマニュはその背中を見つめる。

距離は確かに、広がっていった。


ある夕暮れ、アビマニュは一人の老人を見つけた。

市場の隅で、空の器を前に、うなだれて座っている。

ぼろぼろの服、痩せた肩、かすかな目の光。


アビマニュの胸は動かされた。

小さな硬貨を、あるいは自分たちの分の食べ物を、老人に差し出すこともあった。


不思議なことに――与えた翌日は、必ず仕事が見つかり、金も得やすくなった。

まるで、見えない何かに導かれているように。


やがて彼は問いかける。

手を動かし、必死に伝える。

「……あなたは、一体、誰ですか?」


老人はただ、薄く笑った。

「これは私のことではない。お前自身のことだ。

お前は選ばれし子だ――大きな運命を背負う者だ。」


アビマニュの心はざわめいた。

「どういう意味ですか?」

その手は震え、早く動いた。


老人は答えず、ただ手を差し伸べた。

握手を求めるように。


戸惑いながらも、アビマニュはその手を取った。


次の瞬間――暗闇。

意識は落ち、眠りに落ちる。


目を開けたとき、そこは老人が座っていたはずの場所だった。

だが、もう彼の姿はない。

まるで、最初から存在していなかったかのように。


アビマニュは長い間、黙って座り込んでいた。

「夢……だったのか。」


だが、その手に残る冷たさだけは――あまりにも現実的だった。




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