4 世界三大魔(1)
(……ここに来たのも久しぶりだなあ)
あれから約1か月後。夏休みも終盤を迎えているころ、私は再び市街地を探し始めていた。
――トリラ・ケイライ。
私は1か月前に起きた戦いを思い出す。
往来魔に強い敵意を抱いていた彼女に急に決闘を申し込まれ、ギリギリのところで勝ったのだった。
気持ちの整理はつけてきたはずだが、やっぱり少し考え込んでしまう。
森を彷徨っている途中だった。
(――珍しいな……)
2つの人影があった。私はさらに近づいて確認する。
どちらも同級生ぐらいの子供だった。
(行って助けた方がいいかな……)
もしかしたら、2人は迷子なのかもしれないから。
〈……いのり、『迷ったら進む』〉
ああ、そうだった。そんなルールを決めたんだった。
私は2人の子供たちのもとへ降りていき、目の前で着地した。
そこにいたのは、上空で見て思ったのと同じ2人の子供。
1人は黒色の紳士服を着ている男の子。もう1人は悪魔の羽を印象付ける付け襟をまとった女の子だった。
「こんにちは~。まさかそっちから来てくれるなんて思ってもみなかったよ!」
女の子の方が挨拶をしてくれたので、私も軽く会釈をする。
彼女の付け襟の中心にある黒い珠は、暗闇に引き込まれそうなほど黒々しかった。
〈……いのり、気を付けて〉
教師がいきなり脳内に話しかける。
〈少なくても、――男の子の方は警戒しているから〉
教師の忠告を確かめるため、私は彼の方に視線を向けた。
(……‼)
私は慌てて目をそらす。
向けられていたのは、まるで監視でもされているかのような氷だった。
「名前、なんて言うの~?」
一方の女の子には、そんな警戒するような様子は感じられない。むしろ好感を抱いているようで、瞳を閉じてフラットに笑っていた。
「い、いのりです……」
……終わった。
異世界でもコミュ障発動。どうやらこの欠点を直すことはどこであっても不可能らしい。
でも思ってしまう。
この子たち、なんだか私と違うような――。
「いのりちゃん? よろしく……って、往来魔なんだ~‼ 初めて見たよ~!」
2人――といっても女の子の方は馴れ馴れしく接してくる。
私たちって、まだ友達とかでもなんでもないのに。
〈……もしかしたら、友達になれるんじゃない? コミュ障なんでしょ、作っときなよ〉
再び現れる教師の助言。
これはやらないと色々言われるやるだろう。
だから、私は勇気を出して言ってみた。
「2人のことも、教えてほしいのですが……」
という前に、コミュ障とかいう障害によってひどく間があいたのは割愛しておこう。
でも、すごく勇気を出したのに、返って来たのは予想外な言葉だった。
「――知らないの?」
どうやら、私は恥をかくことになったらしい。
『知らないの?』と聞かれても、本当に知らないので、自己紹介をしてもらうことにした。
馴れ馴れしく接してきた女の子は「メイ・キラルク」。悪魔で、いつも弟と一緒に行動しているらしい。
そしてメイの弟が冷ややかな視線を出していたあの男の子。「ライ・キラルク」というそうだ。
「わたし、いのりちゃんとお友達になりたい!」
お友達。
私にとってはクラスで1人しかいない、称号みたいなもの。
それに立候補してくれる人が現れるとは――。
「メイさん、本当にいいんですか⁉ 何も分かっていないようですけど……」
分かっていないようとはひどいな、と思いながらも無知なのは事実なので反論するのはあきらめる。
「だってさ、大抵の子が姿を見るだけで逃げ出しちゃうんだよ⁉ 別に分かってなくても逃げ出さないだけ嬉しいじゃん!」
メイの感謝という名の大ダメージをくらったところで、私はようやく彼女たちの素性を――彼女たちがさも有名人のように振る舞っていた理由を知ることになる。
「わたしはね、世界三大魔のひとりなんだ~!」
(……すまない、教師。ヘルプ!)
異世界来てから3か月。未だに街に行けた回数はゼロ。
そんな奴がこの世界の情勢を知っているわけがなかろう。
ちゃんと無知なことに対して反省しているが、わからないのは本当に仕方がないことなので、脳内で教師に「世界三大魔」とかいうものを教えてもらうことにした。
〈『世界三大魔』はこの世界にいるすべての魔物の中で上位3体のことを表している。
世界三大魔は『大地之悪魔――メイ・キラルク』、『電光之魔女――アイネ・レイリア』、『炎之戦士――オルタ・ドアルゴ』の3体だ〉
さすが教師。(今さっき命名したが、)脳内国語辞典としては最高だ。
このまま現実世界にもいてくれたらテストでとても便利だろうなぁ……。
教えてくれたので感謝を送った。
随分と恥ずかしい思いをさせられ、精神的な救いとなったので本当に感謝してもしきれない。
(ありがと。メイはすごい人なんだ――)
――ね?
(…………?)
あれ、メイって同年代の子供だよね???
どうして彼女が世界の三本指に入っているんだ?
「――――」
いや、考えるだけ仕方がない。三本指であることには事実なのだ。
子供で世界トップ3ってバケモノかよ。それは全世界に認知されていて、見かけたら逃げ出されるのも当たり前だわ!
「――いのりちゃん!」
「はい!」
仕方ない。だってトップ3に現在話しかけられているのだから。
「……さっきの話。聞いてた?」
…………これはヤバい。
正直に言うと、聞いていなかった。メイのことをヤバい子供だと考えすぎて。
正直に言ったらどうなる? 答えは簡単、最悪の場合は首チョンパだろう。
つまり、嘘でごまかさなければいけない。
とにかく、何か言わないと。
焦りに焦りまくって出てきた言葉は、「うん」とか「聞いてたよ」といういかにもなものだけだった。
「そ~お~? だったらいいんだ~」
彼女が温厚で人のことをすぐに信じてくれた点に救われた私だった。
「すごいね、同じくらいの年齢なのに。どうやって上に行けたの? やっぱり才能?」
「才能も実力も、お姉ちゃんの方があるよ。私のこの地位なんて、もともとはお姉ちゃんが持っていたものを譲り受けただけだから……」
「え、」
さらなる上位互換登場。
絶対に会いたくはない。
「姉ちゃんって言っても双子の姉なんだけどね~。何でもできる完全無欠の大天才様って感じだった。……性格は除くけど」
大きく活躍する姉をとても誇らしげに妹は話す。
「120歳ぐらいになってから、姉ちゃんは別の世界で過ごすようになったんだ~。いのりちゃんみたいに往来魔として過ごしたってこと。
それでもずっと帰ってこないから、そこから生き別れなんだよね~。この地位はそのときに都合上貰った」
「姉ちゃんは……?」
「さあ? 生きてるんじゃない? 姉ちゃんを見つけたいなら、変わった指輪を持って行っちゃったからその指輪の持ち主を捜せば見つかると思うよ~」
いや、絶対に会いたくはない。
でもヒントは貰ったことだし、「ありがとう」とだけは言うことにした。
……あれ、何か問い詰めなければいけない箇所があったような…………?
「…………って、120歳!!?」
衝撃の事実にもきょとんとした態度でいるメイ。
これがカルチャーショックというやつか……! と思っていると、これまた教師の脳内国語辞典のように説明してくれた。
「主な生き方が違うと1年に対する体の変化って異なるんだ~。人間だったら80歳ぐらいで、魔物だったら平均1000歳かな? 種族によっても全然変わるから、あんまり参考にならないんだけどね~」
「そっか……」
みんなが黙り込む。
ネタがないのもそうだし、姉ちゃんがいないという悲しみに暮れているのもあるのだろう。
「……姉ちゃん、たまには異世界に来てもいいのにね」
何と返せばいいのか。知っている言葉に答えはなかった。
「来てほしいところがあるんです。ついてきてください……」
次に言葉を発したのは、何気に声を出すのが久々のライ。
すぐに空を飛んでどこかに行くので、追いかけるために急いで翼を広げて空を舞った。