6 ありがとう。そして、さようなら。(1)
スピーカーから「卒業」を彷彿とさせる曲が聴こえる。
それと同時に、先生の後ろ姿が遠くなった。
私はそれに続くように、何と言えばいいかわからない複雑な思いで体育館に入る。
三月になっていた。
既に卒業式が始まっていた。
ゆっくりと歩き始め目的地に着くと、しばらくして一週間ほど前は少し汚れていたパイプ椅子に腰を掛ける。
ずっと前だけを見ているのに、トコトコという音で入場はまだ続いているということがわかる。
その音が完全に止む。
その少し後に曲も止まった。
静かな沈黙が続く。
「国歌斉唱」
その沈黙は、司会者の声によって破かれた。
校歌斉唱、祝電披露。
プログラムは次々と終わっていく。
「卒業証書、授与」
それは、私が一番恐れていたものだった。
司会者がいた演台に、楪先生が立つ。
「六年一組――赤井美鈴」
「――はい」
静寂に包まれた体育館に私の返事が大きく響いた。
「6年1組は初めに紹介するクラスです。ラストを飾る3組も大切です。ですが、1組もそれぐらいに重要性があります。一生懸命行いましょう」
大半の人が返事をする中には「だったら2組は別にいいのか」、とか。「逆に荒らしておこう」とか。心を刺すような言葉も混ざっていた。
(……。)
いつもだったら、殴りたくなるのをぐっとこらえていただろう。
だけど、その日だけは違った。
それよりもずっと、緊張が勝っていた。
(卒業証書をもらう順番は、入場で並ぶのと変わらない……)
つまり、1組1番の私が間違えたら、この式は台無しになる――――。
私はステージの前に行って会釈をした後、校長先生がいるステージに立つ。
「――――」
私の順番が終わり、パイプ椅子に座る。
(終わった……!)
私は小さく息を吐いた。
そのまま、2番。3番と続いていく。
いつか思い始めたあのときからつい先ほどまであった考えは、成功と共に一瞬にして過ぎ去った。
(一生懸命やったら認めてもらえた……)
消えたプレッシャーは、安心感となって埋め尽くされた。