5 祝祭(1)
「いのりちゃん、本当にお願いだから~!」
「宿題があったり親の実家に帰らなきゃいかなかったりするんだよ……」
「早く寝たふりとかしてこっちに来てよー」
「だから、それはちょっと……」
「お願いだから~!!!」
(……どうしよう)
メイに抱き着かれ、私は苦笑いを浮かべる。
あれからしばらく経ち、現世ではクリスマスを迎えている頃。
私たちは異世界で大晦日についての会議をしていた。
どうやら、メイの所属している「世界三大魔」が集まるイベントらしいのだが、それに私がメイの付き添い役になりかけているのだ。
「付き添える人なんて、ほとんどいないんだよ~」
「いや、それでも……」
ただし、我が故郷の日本では、大晦日や元日は親の実家――私から言えば祖父母の家に行くのが主流だから忙しいのだ。
申し訳ないが、それを理由に異世界のイベントの参加を断ろうとしている。
「え~! どうし――」
――「て」とメイが言った瞬間、女王室の壁に黒く淀んだナニカが現れた。
(何、これ……⁉)
それは、メイの部屋の壁がぽっかりとそこだけ抜け落ちてしまったかのような、ブラックホールに飲み込まれたかのような不気味さを放っていた。
そして、それの対の意味であろう、2人の少女がメイの部屋に足を踏み入れる。
きっと魔人なのだろう。
「メイ・キラルク様」
金髪の髪をおろした、背の高い女性が言った。
(メイってちょっとわがままなところがあるけど、本当はめちゃくちゃ強い女王様なんだよなー)
友達として接しているからあまり実感が沸かないけれど、他の魔人の様子を見ると違和感を感じてしまう。
「元日に行われる祝祭の付き添いの方のご登録をよろしくお願いいたします」
次に話したのは、ハーフツインテールをした女の子だった。
(うわぁ……)
2人ともメイド服を着ているのだが、彼女の方はよく言えば昔の可愛らしい人形のようで、悪く言うと地雷系女子のような雰囲気を漂わせていた。
たぶん、苦手なタイプだった。
メイはメイド服を着た2人に近づいて、サインをするように文字を書いているのがわかった。
(この世界でも、紙って使われてるんだなぁ)
こういう共通点に、少し現世との親しみを感じてしまう。
でも、こういう往来魔が他にもいるんだから、当たり前か。
「かしこまりました。では6日後、再びお逢いしましょう」
メイがペンを置いたのと同時に、2人は会釈をして闇の中に消えた。
「……今のって、誰?」
「祝祭の見守り屋。司会と進行を務めてくれているんだ」
どうやら、メイが誘っていたあのイベントは祝祭というらしい。
新年を祝う祭りだからなのだろうか? どうでもいいので、聞くのはやめておこう。
〈さっきの2人は「ノア・アシュリー」と「ノラ・アシュリー」。ノアが姉の姉妹だよ。いのりよりもダントツで強い魔人だね。トップ10には入るんじゃないかな?〉
(……またケンカ売ってる?)
〈売ってないって。毎回そう勘違いするのはやめてほしいな〉
(――)
途中から面倒なことになったと思い、私は教師の話を無視してメイの方に集中した。
「登録ってどうなった?」
「ふぇ? そんなの決まってんじゃん」
――何か嫌な予感がした。
「ライといのりちゃんを申し込んだよ。いのりちゃんがこなかったらわたしが本気の魔法を受けて殺されそうになるから、ちゃんと来てね‼」
「……最初に『実家帰省がある』って言ったよね?」
「けど、よろしく」
私は大きなため息をついた。
どうやら、本当に行かなくてはならなくなったらしい。
そう思うと気分が落ち込んだので一度現実に戻り、今日のことを整理した。
(行くしかないんだよなー……)
再びメイたちに会いに行くと祝祭についての説明を受け、当日を待つことになったのだった。