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俺のチャネリングドア  作者: 一汁一菜
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2.緑の光

「おい、ユキ。昨日見たか?」


 老齢の英語教師が呪文のような授業をする中、右横の祐司が俺に話しかける。


 補習中だぞ。


 俺は一応、どんな耐え難い授業でも一応まじめに聞くふりはするんだ。一方、祐司ゆうじは生きる屍的な教師の授業は、欠席しないまでもとことん無視して、遊んでやがるんだ。


 将来、人生詰んでも知らねーぞ、と思うんだが、コイツは小学校から柔道やってて、現一年の今は新・柔道部主将、今年はこいつの活躍もあってインターハイまで言って、惜しくも準優勝。


 当然、運動神経もよくて、勉強は中くらい、将来は体育教師とか言ってるから、案外フツーに行けそうなんだよな。そして、稀代のお嬢様学校、聖薔薇女学院セントローズに通う彼女持ちな上でに男も惚れ込むナイスガイと来たもんだ。


 あ、ちなみに、ユキってのが祐司が俺を呼ぶときの呼び名だ。名前は、幸雄ゆきおなんだが。苗字とつなげるとちょっとアレーな人物と同じ読み名になるので、今は避けておきたい。


 で、ユキって、女みたいだからヤメロと言ってるんだが、知らない奴が聞くと、俺の容姿も相まって、おもろい反応するから、てな理由で、コイツからの呼び名はこれが定番なんだ。

 それと同じ感覚で、フルネームで呼ぶ奴もいる。それも俺的にはNGなんだよな。


 そんなことはいいか。齢50歳ながら既にボケ老人のような風体の英語教師、津田の授業は退屈なので、ここは祐司の与太話を聞いてやろう。


「昨日の夕方7時頃に、榴弾のような流星があってよ、俺も見たんだよ。その光を。緑色に光ってたよ」


 と、日本で撮影されたその流星のYoutubeの映像をスマホで見せてくれた。そういえば、昨日は帰るなり、ぐったり寝てて、朝はバタバタしていて、そんなのもチェックしている暇はなかったな。


「これ、もしかして、UFOじゃねーか?」


 UFO? まだ、そんな与太を妄想する奴がいたんだな。


「おお、俺も見た見た、その緑色の光」


 今度は左隣の剣道部の後藤が、いつもは朝練で死んだように居眠りこいてるのに、いや、教室に入ったとき、コイツは既にその状態だったんだがな。


 緑色の光という言葉に、コイツのスイッチが入ったようだ。


「流星の後にすげー光の円環が出てよう、てっきり独裁国家からの核攻撃かと思って、俺は、知ってる女友達にメール送りまくったさ。

 それで、人生これで終わるなと思ってよう、2組の諸星さんに告白しようと家に行って2階の彼女の部屋に行こうとしたら、防犯装置にひかかって警報が鳴って、急いで逃げたんだよ」


 と、自らの犯罪行為を、左横の直哉なおやはカミングアウトした。


 防犯カメラにおまえと分かるような映像が映ってなきゃいいけどな。


 たく、俺のダチは、こんなんばっかだよ。


 だが、祐司が言った、緑の光という言葉は、クラスをざわつかせた。皆が抑えていた何かが解き放たれたように、どっと、俺たちの周りに集まって来て、口々に、自分たちが見た『緑の光』のことを語り出したんだ。


 クラスを納める筈の学級委員長の戸村まで、この群衆の中に居た。


「ねえ、聞いてよユキ。あたしも見たんだよあの緑の光」


 そう、俺はクラスの女子からも”ユキ”と呼ばれている。理由は、周りの反応がウケるのと、俺の容姿から違和感が無いからとか言ってたっけ。


 俺と気安い関係の男女は、だいたい、俺を”ユキ”と呼ぶんだよ。


 皆の人垣の隙間から見える津田は、牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡で、教科書を見入り、呪文のような講釈をたれながら、もくもくと黒板に、ミミズのような文字を書いている。


 この人、昭和生まれではあろうが、戦前生まれのもうろく教師を馬鹿にしてた世代じゃないんだっけか? 

 まさか自分がそうなるとは思ってもいなかったんだろうな。これも因果応報ってやつか。


 しかし、この『緑の光』話題について来ない人物が津田意外にもう一人居た。


 そいつは、津田の呪文授業を聞くでもなく、俺たち周囲の騒ぎっぷりを気に掛けるでもなく、頬杖をついて、ぼーっと、窓側の席から中庭を眺めていた。


 そいつは、柏木かしわぎ ゆう。ある時期まで、俺のライバルだったオ・ン・ナだ。


 彼女は、素行不良で問題児ではあったが、親が町の名士でうまくとりなしたんだろうな。成績は、俺よりもかなり良かった筈なのに、私立にも行かず、偏差値60程度のうちの学校に入っていた。


 しかも、よりにもよって同じクラスだ。


 知らない間柄ではないから、挨拶くらいは、かわすかな。

 

 そんで、そいつの呼称は、”ユウ”だ。


 ユウは、スマートでクールなイケメンで、女子や男子から好意を抱かれているが、本人はそういうことに興味はないようで、波風を立てないくらいに、そつのないコミュニケーションをとっている。


 中学時代とは大違いだ。


 ユウは、俺の視線に気づいたか、ちらっと俺の方を見た。


 なんか、目が怖い。

 俺は、にこやかに作り笑いをして、手をふると、ユウはむすっとして、そっぽを向いた。


 別に俺はコイツの彼氏じゃないんだぞ。尻に敷かれているつもりもないんだが、なぜかおどおどした態度をとってしまう。生物的な習性なのかな。


 しかし、こんなにもクラスで話題なのに、うちの家族と来たら、そういう様子、全然なかったな。

 まず、親は寝ている俺を起こさなかったし、朝は普通に出勤してたし、伝言もなかった。


 妹も、いつもと変わりなかった。


 人間、死ぬときゃ死ぬ。 


 俺の両親はそんな感覚の人なので、本当に死ぬような状況にならなきゃ、自然現象か、気のせい、と、とらえて気にも止めないんだよな。

 

 そうこうしているうちに補習時間の50分はあっという間に過ぎ、チャイムがなっていた。


 津田は、黒板をそのままにして、ペコっと一礼して、教室を出て行った。みんなは黒板をスマホ撮って、日直は黒板を消した。


 朝のホームルームまで5分ある。俺はトイレに行こうと席を立つと、


「おい、御島みしま!」と、イケメンボイスに呼びつけられた。


 振り向けば、腕組をした柏木 悠が立っていた。

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