5話 使徒様
何が起こったの?そう問うように神父様を見る。
すると神父様は文字通り“あんぐりと“口を開けていた。
「…信じられない。こんなにもたくさんの使徒様が御出でになるとは」
使徒様?この光が?なんの使徒?
問いたいことはたくさんあったが、ます何から言えばいいかわからない。
そうしていると、混乱している私に“使徒様“が話しかけてきた。
「コンニチワ!我らの愛し子!」
「えっ!?喋った!?」
「えっ!?声が聞こえるのですか!?」
使徒様はなんと喋れた。しかも私の事を愛し子と呼んでいる。
そしてなぜか神父様が驚いている。
え、儀式始めたの神父様だよね?なぜ貴方が驚く?
「いや神父様、話しているじゃないですか。コンニチワ〜って」
「わ…私には何も…聞こえませんでしたぞ…」
“信じられない“とでも言いたげな表情で神父様は私を見て言った。
そんな顔されても正直困る。聞こえるもんは聞こえる。
というか儀式を進めて早く私の力を判定してくれ、
こちとら早く母を安心させたいんじゃ。
「そうだネ〜。愛し子に会えたのは嬉しいけどぉ〜、早く力を授けなきゃ〜!」
まるで私の心を読んだかの様に使徒様がのんびり言った。
あらやだこの子達人の心が読めるんだわ。
そうそう、早く力授けてちょうだい、できれば魔力の方で。
そう心の中で呟けば、使徒様はどこかしゅんとした様子で言う。
「ごめんネ愛し子、君の希望通りにはいかないんだぁ〜」
「えっ、それって、私がスキル持ちになるってこと?」
そう会話すると神父様は弾かれた様に私に顔を向けた。
…やはり、私がスキル持ちになるということはあまりよろしいことではない様だ。
また緊張が戻ってきて心臓がバクバク言い出した私に、
使徒様はフルフルと左右に動き言う。
「そうなんだけどぉ〜!愛し子は愛し子だからぁ〜、魔力もスキルも有するの!」
「…ん?」
魔力もスキルも有するの?
つまり、魔力もスキルも持つことになるってこと?
「そうだよぉ〜!だって愛し子だもん!世界の理の根幹!我らの愛し子!」
ダメだ、何を言ってるのかわからん。
そう心で呟くと「今はそれでいいよぉ〜」と言い、光達は神父様の前に集まっていく。
「“人間よ“」
使徒様が神父様に話しかけた。
その声は先ほどまでの明るく優しいものではなく、
威厳のある神々しい声だった。
「“我ら神の使徒が告げる。リリス・マックワイヤーは我らの愛し子。
故に愛し子は奇跡を起こす力、人を助ける力を有する者也。
愛し子よ。
汝、記憶を司りし力で人を助けよ。
人間よ。
汝愛し子を傷付けるべからず。汝愛し子を愛せよ。汝愛し子を守りぬけ。
それが我が神のお告げ。心して生きよ“」
「は…ははぁ!」
神父様がひれ伏す。
ちょっと待って、色々と聞きたいことが多すぎる。
使徒様の声が聞こえないのでは?神のお告げ中々に重くない?
記憶を司りし力って何?ってかそんなひれ伏すほどのことなのか?
色んな思いがぐるぐる頭を駆け巡り、そのまま儀式は終わった。
使徒様が消えた後の神父様はそれはもう興奮しっぱなしで、
私の後に儀式をした子達は爆速で終わったという。
なんかごめん。
儀式を終え、私たちは近くの公園のベンチに座り、串焼きを食べていた。
弟だけが「おいしいね!」と嬉しそうで、
父と母はシーンと静まり返ったまま串焼きを食べている。
そりゃそうだろう。儀式が終わり教会から出てきた娘が
「ごめん、ちょっと時間が欲しいの」なんて言い出したんだから。
きっとスキルを授かったのだろう、なんて勘違いもしてるかもしれない。
スキルを授かることが不都合なのは分かったが、
魔力とスキル両方授かった場合の反応が怖いのだ。
その場合、どのような扱いになるのかを聞かされていない。
けど、言わなければ。いつまでも黙ってるわけにはいかない。
「あのさ」
私は口を開いた。
父と母がびくりと体を震わせる。
「な、なあに?リリス」
「なんでも、なんでも話していいんだぞ!」
あたふた、いつも通りです!感を必死に取り繕いながら、
父と母は笑顔で答えてくれる。
なんかすごく申し訳なくなってきた。
不安な気持ちで押しつぶされそうになり、
思わず地面に目線が行きながらも口を開いた。
「魔力とスキルどちらも授かった場合って…どうなるの?」
言えた。やっと言えた。偉いぞ私。
父と母の返答を待つ。
…たっぷり約1分の時間が経った。
まだ返答はない。
何かがおかしい。そう思い、目線を地面から両親に向けると。
父と母は口と目をかっ開いたまま、石の様に固まっていた。
そんなに!?そんなにマズいことなの!?
そう不安になった私は2人を揺さぶりながら声をかける。
「お、お母さん?お父さん?」
「…………………ハッ」
2人はようやく現実に引き戻された。
それでも目は開いたまま、目線は私に注がれた。
「リリス、あなた、魔力とスキルどちらも授かった、そう言ったの?」
「う、うん。そうだよ」
2人は顔を見合わせた。
なんなんだろう、スキル単体持ちよりもマズいことなのだろうか。
なんだか両親の反応がひどく恐ろしいものに見えてしまい、
私は反射的に謝ってしまう。
「あ、あの!ごめんなさい!スキル持ちはなんとなく都合が悪いのは分かってたけど、どっちの力も持つことがそんなに悪いことだって知らなかったの!本当よ!私も使徒様にできれば魔力持ちが良いって伝えたの!でも使徒様が」
「ま、待って待って!ごめんなさい、違うの!」
今にも泣き出しそうに謝り出す私を見て、慌てて母がそれを制した。
違うとは、何が?
そう思って涙目のまま母を見上げると、母も少し戸惑った様子だった。
そしてまた両親は顔を見合わせ、2人して頷くと私と向き合う。
その顔は真剣そのもので、思わずゴクリと唾を飲み込む。
「リリス。これは真剣に聞いて欲しいんだけど」
「う、うん」
「…魔力とスキルを持つ人間は、この世界でただ1人。あなただけよ」
「…………………は?」
母の発言に、ぽとり。
私の手から串焼きが落ちた。
星評価・ブックマークありがとうございます!
使徒様も神父様もかわいいので、
今後も出番を出してあげたいなぁ…と思っています笑