17話 聞こえる声
商業ギルドに行ったあの日から、
私は魔法薬の製作に力を入れていた。
フェイン様に手取り足取り教えてもらってるおかげで、
私の技術と知識はぐんぐんと伸びていく。
もちろん作った魔法薬は商業ギルドに納品している。
今では商業ギルドの常連だ。
途中、魔法薬だけでなく、材料となる薬草の世話や
庭園に住む動物たちの世話も習い、
私は徐々にその子達の世話を任せられるようにもなった。
それだけじゃない。
ついに魔力を可視化する眼鏡を着けずに
魔力の流れがわかるようになった。
フェイン様にそれを告げると彼は嬉しそうにしてくれた。
なんでも、魔力の流れが見えるようにするには
魔力可視化の魔法を使うことがほとんどで、
なにもしないでも見える人は中々いないらしい。
そしてある日のこと。
私が植物園で薬草の世話をしていた時だった。
──おなかすいたよぉ…。
びくりと体が震えた。
どこからか、子供のような声が聞こえたからだ。
私はキョロキョロと辺りを見渡してみる。
…誰もいない、私1人だ。
──だれか、ごはん、ほしいよぉ…。
また声が聞こえた。
その声はなんだかとても弱々しく、
今にも泣き出しそうだ。
私は立ち上がり、声がした方へ足を向けた。
放っておいてはいけない気がしたのだ。
足を進めている間も、泣きすするような声が聞こえて、
私は徐々に足を早めた。
そして、ある薬草の前で足を止める。
その薬草は、濃い緑と濃い紫の葉を持つ薬草だ。
確か、名前はライビスバーム。上級魔法薬で使う薬草だ。
そのライビスバームの葉はなんだか少しカサついていて、
弱々しい印象を受ける。
──だれか、だれかぁ。
「…お腹が空いてるの?」
そうライビスバームに問いかけると、
風もないのにかさりと少し動く。
──にんげんさんだ!ぼく、おなかすいてるんだ。
おねがい、ごはんちょうだい…いいざいりょうになるから…。
「ご飯って言われても…。待ってて、詳しい人に聞いてくるから」
そう言って私は屋敷の方に駆け出した。
そして屋敷のとある部屋の前で止まり、呼吸を整えながらノックをする。
「はーい。…リリス、息を切らしてどうしたの?」
扉を開けたフェイン様が不思議そうに私を見つめる。
そんなフェイン様にさっき起きた出来事を話す。
薬草の世話をしていたらどこからか声が聞こえたこと。
その声の方に向かうとそれはライビスバームからで、
ずっとお腹がすいたと訴えかけていること。
葉がカサついていて弱々しい様子であること。
そこまで話すとフェイン様は「なるほどね」と微笑み、
私に説明を始める。
「ライビスバームっていうのはね、
魔力を与えて育てないと枯れてしまう薬草でね。
与えるタイミングは彼らの声を聞かないとわからないから
育てるのが少し難しい薬草なんだよ。
前に魔力を与えたばかりだけど、
お腹を空かせているってことは今は成長期なのかな?」
そう言って彼は「一緒に行こうか」と作業を中断して、
私と一緒に植物園へ足を早める。
そして例のライビスバームの前で足を止める。
「さあ、リリス。彼に魔力を与えてごらん」
「えっ私がですか?」
「そう。魔法薬を作る時、魔力を注ぐだろう?
それと同じ要領でやってごらん。
基本的に薬草に魔力を与える際は、
彼らの声を聞きながら少しずつ魔力を与えていく。
彼らがもういいと言ったら注ぐのを止めるタイミングだ」
「やってごらん」とフェイン様が私を促す。
私は一歩足を踏み出し、ライビスバームに近づく。
ライビスバームの上に手をかざす。
そして…魔力を放出した。
少しずつ、少しずつ。
雨が緑の葉を潤すように、優しく愛おしく。
そうイメージしながら魔力を注いでいく。
青白い魔力がまるで水のようにライビスバームを濡らし、
ぐんぐんと飲み込んでいくように土に吸い込まれていく。
──もういいよぉ、にんげんさん!
元気な声は聞こえて私はハッとなり、
魔力を注ぐのを止めた。
声が聞こえた方を見て私は驚いた。
さっきまでと違いライビスバームの葉は瑞々しく、
周りにキラキラとした光が見えた。
それはまるで生きている喜びを表現しているようだ。
──にんげんさん、ありがとぉ!
ぼく、こんなにげんきになったよぉ!
「うん、そうみたいだね。
よかったよ、君が元気になって」
──にんげんさんって“なまえ”があるんでしょお?
にんげんさんの“なまえ“はなぁに?
「私の名前はリリス。リリス・マックワイヤー。
これからも君達の世話をしていくと思う。よろしくね」
そう言って彼の元気になった葉を撫でた。
すると彼はくすぐったそうに声を上げる。
──ふふっ、これからはリリスがごしゅじんだね!
ぼく、“いいざいりょう“になれるよう、がんばるね!
「ありがとう」
彼の嬉しそうな声に、私は頬を緩ませた。
そんな私の様子を、
フェイン様が愛おしそうに見つめていたことには気付かずに。
ブクマ・星評価ありがとうございます!
植物の声が聞こえたら、お世話しやすそうでいいですよね。
うちの育ててる植物達もお話ししてくれないかなぁ…笑




