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小説家になろうラジオ大賞4

天才の条件

作者: 尾手メシ

 最初は少しの違和感だった。同種の鳥形の魔物でも、狩りやすい個体と狩りにくい個体がいる。極めて静かに飛び立つものがいるのだ。クリスには何が違いを齎すのかが不思議で仕方がなかった。

 クリスは全てを記録した。どこで狩ったか、いつ狩ったか、静音性はどうか、狩った獲物のスケッチ。記録は実に十年分に及び、持ち込まれたギルドのテーブルの上には膨大な量の紙束が山を作った。

 この貴重なデータはギルド倉庫の奥で大切に保管され、要するに忘れ去られて時が過ぎる。



 魔術研究者の間で、一番話題の研究課題といば浮遊具だ。浮遊具と言っても、空を飛べるような代物ではない。物体を地面から拳二つ分くらい浮かせるだけのものである。それだけなのだが、物流に革命を起こすのは確実だと見られていた。

 基礎理論が発表されたのは十八年前。どうにか実現しようと世界中の研究者が挑んでいたが、牛の歩みで研究は進んでいく。その状況に風穴を空けたのは、新進気鋭の研究者カザフトだった。それまでとは全く異なる方向からのアプローチは、見事に浮遊具を開発せしめたのである。

 しかし、この時に開発された浮遊具は致命的な欠陥を抱えていた。物凄くうるさかったのだ。ある研究室が追実験を行ったところ、攻撃と勘違いした軍が出動した程である。どうにか音を抑えられないか研究が続けられたが、やがてはカザフト自身も匙を投げてしまった。夢は夢のまま、浮遊具は暴徒鎮圧用兵器となった。



 状況の変化はそれから四五年後、倉庫の奥から一六一年振りにクリスレポートが発見されてからのことである。膨大な資料を奇特なギルド員がまとめ、一本の論文に仕立て上げた。その論文を取っ掛かりに進められた研究から、虚音魔術が発見された。

 研究者界隈は、俄に色めき立つ。浮遊具の、あの馬鹿みたいな騒音を消し去れるかもしれない。もし実現できれば、栄誉は思いのままである。当時の地獄を知らない若手研究者達が果敢に挑み、そして悉く討ち死にしていった。どんなに媒液を変えても、魔術が定着しない。

 ヴィゴもそんな討ち死に寸前の研究者の一人だった。ある夜、研究室で酔っ払ったヴィゴは媒液に酒をぶちまけた。そのまま寝てしまい、翌朝、二日酔いの頭痛と共に目にしたのは、何故か完成している浮遊具である。



 アルコールを媒液とする魔術群が発見されたのは、それから九年後。これが難病、魔漏症の特効薬の開発に繋がっていくのだが、それはまた別の話。

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