第96話 惨劇の開幕①
ヒノワ皇国での役目を完遂したウォルター達は、サリエラとミライの転移魔術によって、プロキア領の海岸から城下町へと十数分程で帰還した。
「久しぶりに帰ってきたな!」
「うん。凄く懐かしい気分」
サリエラとミライが身体を伸ばし、ウォルターとエリーゼ、そしてクルトは荷物を置きに自室へと脚を運んでゆく。
「ここがプロキア……」
「……っ」
「ヒノワとは全然違うでおじゃる……! 建築様式も全然違って、もうわけわからんでおじゃる……」
始めて脚を運んだ異国の地の首都に、ヒノワから来た者たちは息を呑んでいた。
第六皇子であるウラカワ・モリモリは、ヒノワ皇国が開国したこと、そして新皇帝の挨拶のためプロキア国王へ謁見しに来ていた。
予定調整や文化交流などもあるため、実際に謁見が行なわれるのは暫く先となる。
だが同行したシロヤマ・シロウの拡声器を作製する時間も必要のため、長くプロキアへ留まることに関してモリモリは問題と感じてはいなかった。
「私の住んでた国みたい……」
「本当でおじゃるか!? ワシはもうわけわからんでおじゃる、色々任せるでおじゃる!!」
しかしカルチャーショックが大きすぎたのか、ワガママ皇子は侍女のレティシアに世話を任せっきりにしようとしていた。
溜息を吐くレティシアの姿に、ミライとサリエラは思わず苦笑いを浮かべていた。
「宿のほうは、たしかウォルター様が用意してくださるのでしたよね」
「ああ。今は荷物を置いて諸々の手続きをしているだろうな」
「本当に何から何まで……」
レティシアが皇子に代わって頭を下げ、何かを閃いたかのように顔を上げた。
「そうだ、ただで滞在させていただくのも忍びないですので、何か手伝えることがあればお手伝いさせていただきたいです」
「ほう? ならば代行者ギルドに登録するといい。即日の仕事がたっぷりあるはずだぞ!」
「その中にある道具屋で、拡声器も作ってもらう予定だしね」
戦国時代から転生したシロウはギルドの概念があまり理解できず、口を小さくパクパクとさせて少し戸惑っている様子だった。
そして、点は異なれど理解が追いつかなかったのはモリモリやレティシアも同じだった。
「ギルド……ということは、冒険者では無いのですか? そこでクエストを受けて、日銭を稼ぐといった……」
「ぷっ、あははは!! どっかのゲーム脳と同じこと言ってる、はははは!!」
何気ないレティシアの質問を受けたサリエラが、おかしくてたまらないと言った様子で腹を抱えて笑い出す。
「この世界は冒険し尽くされてる。だから冒険者っていうのは自分探しばかりしている無職と変わらない」
「え、そんな酷いスラングなんですか!?」
「そうだぞ、あははは! ゲーム脳二号だ、ヒー腹痛い」
「さっきからげぇむとは何でおじゃるか! レティシアに酷いことを言うなら斬首でおじゃるぞ!」
「……」
「ここはヒノワでもアマノガ領でもあらぬ、戯れと思って聞き流しておけ、だって」
「ぬ、ぬぅぅ……!」
ただ家臣を庇っただけにも関わらず酷い言われようをしたモリモリが歯噛みする。
するとその間に、狼に乗った赤髪の狩人が、まるで隕石のように高速で墜落して大の字になった。
「ぜぇぇ……もう今日は店仕舞いにして演劇見て浴場行こ……」
「クゥン……」
「お、欲に溺れたゲーム脳一号が帰ってきたぞ」
「魔術が効かないのも考えものだね」
マオには転移魔術が効かなかったため、ヒロは幼馴染に乗って帰らざるを得なかったのだ。
高速移動を可能にする狩人装備を解除したヒロが、レンガの地面に五体を投げて眠り始めた。
そしてマオがズルズルと引っ張りながら、ギルドの宿舎の方向へと退場していった。
「夕食までには帰ってきてくださいねー」
「それ、客人が言う台詞では無いでおじゃる」
とうとうモリモリにツッコまれるほどに堕ちたか、とミライは心の隅で思うのだった。
〜〜〜〜〜〜
その頃、シゲシゲは祖国を脱出していた。
新皇帝の座についたバケバケの裏切りにより、ヒノワ皇国はパディス帝国の手に落ちようとしていた。
「奴らは何処に行った!」
「まだ近くにいるはずだ、探せ!」
牙を向いた帝国兵が、逃げた第一皇子を探そうと海岸から散開する。
だが既にシゲシゲは近くの草木に姿を隠しており、身体に流れるマナを鎮めて気配を断ちながら這い始めた。
「何とか脱出できました……」
「礼。感謝せねばなるまいな」
「なに、拙者も命を狙われた身ゆえ。乗り掛かった船ですな」
シゲシゲがヒノワから脱出する際、アマノガ藩主のムネニクが海底トンネルへの手引きをしていた。
この頃には、既に帝国兵によって脱出口は全て占拠されていた。
しかしムネニクを先陣にアマノガ兵が大挙して何とか道をこじ開け、そこに運良くシゲシゲが合流して数名ほどが脱出できたのだった。
「ただ拙者の代わりに、アマノガの皆が……」
「静。皆まで言うでない、救えた命もある」
僅かに生き残った兵たちが、ムネニク達に頷き、グッとポーズを作った。
だが、それがいけなかった。
「何か隠れているぞ!」
「撃て、撃てぇ!!」
マスケット銃を構えた帝国兵が、ガサッと揺れた海岸外れの茂みに照準を合わせ、奥の森まで突き刺すように銃弾を放った。
すぐさま退散するも、残った兵たちも要人の盾となり、一人、また一人と倒れてゆく。
「問、何なのだあの武器は。どんな弓よりも勝る筒、無茶苦茶であろう!」
「わかりませぬ、正面からは無理とだけしかわかりませぬ!!」
彼らは銃の概念を知らない。シゲシゲの計画が狂ったのも、そのせいだ。
パニックになりながらも逃げ続け、やがて開けた道に出てしまい追手に姿を見せてしまった。
「惨めなものだな。あれだけの使い手と呼び声の高い第一皇子サマが、このザマだ」
「黙……その武器さえ攻略できれば、貴様らなど」
「ま、その前に死ぬんだろうけどなぁ!!」
嘲り、弾を込め、ロックを解除して銃口を向けた。
万事休す。ムネニクが諦めかけたとき。
「……こっち」
「何ですと?」
不思議そうな少女の声が、分かれ道の看板裏から響き渡った。
藁にもすがる思いで裏の茂みに飛び込み、そのまま這って逃げようとした。
「悪あがきが!!」
当然、帝国兵は銃弾を撃ち込んでゆく。
だが茂みの葉はまるで鉄で出来ているかのように固く、しなやかに、そして強かに銃弾を受け流していった。
「クソ、追え!!」
そして痺れを切らして茂みに入り込み、踏み潰そうと足を進めた瞬間。
「あの死に損ないは絶対逃が」
カチリという足音と共に、帝国軍は大爆発に巻き込まれた。
「これは……!?」
「問。貴様、何をした」
追手からは何とかなったが爆風に吹き飛ばされたシゲシゲが、助けてくれたゴスロリの少女に問うた。
「……にへぇ」
すると、少女は独特な笑みを浮かべ、笑った。
「ドーンってなる実と兵士のブローチを合成……専用地雷原の完成だよぉ!」
プロキアとバサナの戦争から逃げおおせた転生者……ミエコ・ミナイが、帝国兵へ邪悪な拍手を送っていた。




