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第95話 竜宮城の秘宝⑤

 マオの料理によって全損させてしまった宿を修理した翌日。

 役目を果たしたヒロ達は、プロキアへと帰ることになった。


「本当に世話になったな。礼を言う」


「当然でおじゃる、感謝するでおじゃる!」


 アマノガ藩の浜辺まで見送りに来たモリモリが、謝意を述べるウォルターに向かって胸を張る。

 そんな主に肩をすくめながら、レティシアはヒロ達に問う。


「それはそうと。ヒノワからの出国方法はわかりますか」


「帰り方はクルトが知っているみたいだしな」


「へへっ、頼られるって凄え良い気分……!」


「えっと、それなのですが……」


 自信気な笑みを浮かべるクルトには申し訳なさそうに、レティシアが俯くと。


「ワシらも行くでおじゃる! 各国への挨拶もあるし、護衛にはレティシアと、シゲシゲの転生者も来てくれることになったでおじゃる!」


「と言っても、ミライの能力を応用した拡声器を発注しに行くついで、ですけれどもね」


「……」


「翻訳が無ければ会話が出来ぬのも不便である故、だってさ」


 ピョンピョンと飛び跳ねる第六皇子を横目に、ミライの翻訳越しにシロウが頭を下げる。

 そうとは知りもしなかったプロキアの一行、とくにクルトは衝撃を受け、うずくまってしまった。


「なんだよぉ……オレ、せっかく活躍できると思ったのによぉ……」


「いや、ポーション届けてくれたの滅茶苦茶助かったからな。十分活躍してたぞ」


 クルトにフォローを入れながら、ヒロ達はレティシア達の後を追い始めた。

 彼女が向かったのは、海岸にポツンと建てられた木造の小屋だった。

 人が五人ほど入れるかという古小屋の鍵を開け、扉を開くと、そこには地下へ続く道だけが広がっていた。


「なんか地下鉄みたいだ……」


「テツ?」


 思わずヒロの口から漏れた声に、何それといった様子でサリエラが聞き返していた。


「通常、海を渡ってヒノワ皇国へ侵入しようとすると、それを阻もうとして大嵐が発生いたします」


「だからシゲシゲ公は止めようとしていたのか」


「はい。そのため、海底に連絡用の通路を敷いております」


 階段を降りると、陽魔術で淡く中が光るガラス張りのトンネルが姿を見せた。


「何という……!」


「魚が泳いでる!!」


「凄いぞ、ワタシ達も魚になっているみたいだ!!」


 外側からは見えず、そして魚避けの加工された通路は、まるで自然の水族館といった幻想的な空間を作り出していた。

 ただでさえ海に来た経験の乏しかったウォルターやサリエラ、そしてエリーゼ達は、ファンタジックなものを前にしたヒロのように興奮を抑えられなくなっていた。


「そういや、ウラカワ家の皇子には秘剣が配られるんでしたよね。シゲシゲ公のは何だったのですか?」


「いま、捌けないかと思ったでおじゃろうな」


「まあ、お察しの通りで」


「生憎、殿の秘剣はそういったものを斬れる代物ではないのです。その銘を『イキハジヲタチ』と」


「え、なんて?」


「イキハジヲタチ。斬った傷は再生まで時間を要するという小刀です。ぶっちゃけ自が……護身用です」


「いま聞き捨てならない事が聞こえたぞ!?」


 ヒロは今まで戦ってきた皇子のような武器が無いかと興味本位で聞いたのだが、それがモリモリのコンプレックスを傷つける結果となってしまった。


「うるさいでおじゃる! モヤシマノメしか倒せん皇子には小刀で十分って言われたのでおじゃる!!」


「しかも私たちが護衛につくからと、新皇帝に没収されてしまいましたしね」


「まあ、いくらでも暗殺とかに使えそうだしな……」


「発想がシゲシゲと同じでおじゃる……」


 使えないとまで言われた秘剣に価値を見出す貪欲さに、モリモリは少し引き気味になっていた。

 その後もプロキア並びにヒノワの一行は、遊泳する鮮やかな魚を見ながら和気藹々と王国へ向かうのだった。


〜〜〜〜〜〜


 一方、シンエイ藩ではバケバケ達が引っ越しの準備を行なっていた。

 皇帝は皇居に住まい、政を行なう。

 城はバケバケが新たに指名した大名へと引き継がれ、そこにあった物資などを皇居へと運び込もうとしていたのだ。


「……ヒロへの恩も返せた……もう悔いはない……」


「わっちも問題ないわぁ。これで心置きなく皇帝お付きの転生者として振る舞えるわぁ」


「……頑張っていたからね……」


 彼女が転生したての頃を知っているバケバケは、少し頬を緩ませていた。


「にしても凄すぎやわぁ。いつの間にそんな男を上げたん?」


「……気になる……?」


「当たり前やわぁ! 転生してばっかの頃から支えてくれはったし」


「……なら少し、目を瞑っていて……取り出すから……」


「何やの、もしかして秘密のことなん? 見られたくないもんとかあるの?」


 男にはそういうものもあるわなぁ、といった様子でクスクスと微笑みつつ、サクラは目を閉じた。

 高く積まれた荷物から、ゴソゴソといった音が聞こえる。


「もーいーかい?」


 顔を両手で覆ったサクラが、戯けたように皇帝へ聞く。

 そして、その遊戯に返ってきたのは。


「……もういいよ……」


「――ッ?」


 腹に突き立てられた、花魁の生き血を吸った小刀だった。


「はっ……?」


「……もう用済み……お疲れ様……」


 腹を突き刺す刃を投げ捨て、能力で魔力を収集して回復を図る。

 しかし、傷が全く魔力を受け付けない。まるで、呪いにかかったかのように。


「……イキハジヲタチ……自然治癒じゃなきゃ回復しないよ……」


「アンタ……いや、テメェ……!!」


 訳がわからないといった様子で、口調を荒げながら皇帝を睨む。

 そこには頼りなさそうな表情を浮かべていた第三皇子の姿はなく、考えの見えない不気味な皇帝の顔があった。


「バケバケェッッ!!」


「……遅かったじゃん……」


 すかさず般若のような形相を浮かべたシゲシゲが、決闘後に治療してもらった腕で刀を抜きながら割り込んできた。

 その後ろに、様々な模様の仮面を身につけた異国の兵士を連れながら。


「問。貴様、何故だ……何故、ヒノワを売った!!」


「……売った……そんな自覚はない、取れる最善手を取っただけ……」


「黙! 貴様の最善手は、皇帝になったにも関わらず……他の皇子たちの命を奪うことか!!」


 シゲシゲが吼えた瞬間、仮面の兵士たちが手にした武器により、シゲシゲの身体から鮮血が舞った。

 それは弓矢よりも早く、魔術よりも重い球を撃ち出すもの。

 このアルテンシアには似合わないオーバースペックな武器、銃だった。


「……ボク程度に負ける皇子なんて要らないでしょ……」


「何……だから、帝国の兵士にヒノワの地を踏ませた、と……」


 選挙終了後、シゲシゲはシロウからバケバケの取った不正について調査結果を伺っていた。

 そして警戒されないよう、自分の転生者をプロキアへと派遣して腹違いの兄弟たちを助けるため尽力した。

 しかし、殆どが救えなかった。救えたのは、まだ幼い第十三皇子だけだった。

 既にヒノワ皇民に成り代わっていた帝国兵により、各地の皇子並びに大名は暗殺されていたのだ。


つまり、皇帝の家臣たちも……」


「……そう……三人だけだったけど、ボクに……パディス帝国に、力を貸してくれている……」


 パディス帝国。ヒノワ皇国からはプロキア王国を挟んだ先にある、鉱山で有名な大国だ。

 そんな国が、なぜ遠く離れた島国へ侵略してきたのか。

 シゲシゲの疑問に返ってきたのは、あまりにも酷な選択肢だった。


「……選べよ……」


「何をだ」


「……祖国を裏切るか……ここで死ぬか……」


「……呆。知れたこと」


 眼前で勝ち誇ったように選択肢を叩きつけた弟に、第一皇子は嘲るように笑い、そして腹の底から叫んだ。


「朕はヒノワ皇国第一皇子、ウラカワ・シゲシゲなり!! 我が運命はヒノワと共にあり……この首、取れるものなら取るがよい!!」


「……あっそ……」


 舌打ちするかのように顔を歪ませ、バケバケが二振りの刀を振り上げる。

 そして容赦なく降ろされる瞬間。

 パァンという手の鳴る音と共に、全ての視線が血に濡れた花魁へと集まった。


「何、貴様……!」


「アタイはいい! ヒノワのために逃げろ!!」


 しかしと反論しようとするも、すぐさま花魁の身体から血が飛び散ってしまった。

 何とか転生者の体力で踏ん張れてはいるものの、長くは持たないことは明白だった。

 シゲシゲは心の底から陳謝し、懐に隠していたマノメポーションを飲み干す。

 薄めているとはいえ強烈な塩気が口内を襲うが、それでいいと言わんばかりの視線を送る彼女の姿を目に焼き付けながら、シゲシゲは海岸へと脚を急がせた。


「……死に損ないが……逃しちゃったじゃん……」


「ハッ、少しでもアンタに仕返し出来たなら十分かね……」


 第一皇子の姿が見えなくなった途端、サクラは膝から崩れ落ちてしまう。

 そんな元従者の髪を引っ張り上げながら、皇帝は忌々し気に毒を吐く。


「……サクラ……いや、『イネ』だったっけ……花魁ごっこは楽しかった……?」


「その忌名を知ってるってこたぁ……よっぽど新しいお仲間サマが頼れるんだね……」


「……前世で親に売られて、地の底の花売りとして斬られたくせに……よくボクと釣り合えると思ったよね……」


「そっちこそ、アタイが積み上げてきたもの、一瞬で、壊していきやがって……!!」


 彼女は転生してから直向きに努力した。

 藩の皆に認められれよう華やかに着飾り、舞を踊り、注目を、人気を集めてきた。

 それを何より喜んでいたのは、バケバケだったはずなのに。

 前世で叶えられなかった夢を壊されたイネが、眼から、そして口から血を流しながら、最期に吐いた。


「呪ってやる……いつか必ず、この裏切りの報いを受ける日が来るよう、呪ってやる……!!」


 そして今日まで信じてきた皇帝へ呪詛を残して、イネはマナへと散っていった。


「……これで邪魔者は消えた……これよりヒノワ皇国は、パディス帝国と共に歩む……!!」


 今まで使ってきた転生者の遺物ドロップアイテムを握りしめながら、全ての障害を越えた皇帝は狂気に満ちた笑みを浮かべていた。


〜〜〜〜〜〜


 ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます!

 これにて、ヒノワ皇国編は完結となります。

 次週はお休みして、二週間後に登場人物の整理を行なう予定です。

 次編『パディス帝国編』もお楽しみに!

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