第94話 竜宮城の秘宝④
レティシアとムネニクが帰りの車に乗った頃。
ヒロは新たに皇帝となったバケバケによって、竜宮城の最奥へと連れられていた。
「何で知ってたんだよ、大国宝のこと」
「……まあ色々と……」
「色々って……大国宝に触れられるってのが何を意味しているか、わかっているのかよ!?」
「……でも、ヒロは触れたかった……幼馴染のために……」
「っ!?」
なぜ、そこまで知っているのか。
深く昏い海の底を歩きながら、ヒロは不気味な皇帝を睨みつける。
「…‥何となくわかった。サクラの能力か」
「……あたり……情報を収集した……」
「本当に便利すぎないそれ?」
「……ヒロが言えたことじゃない……」
最強の装備などという御大層な能力を持つ少年に、皇帝はボソボソとツッコミを入れた。
やがて歩いていると、重厚な朽ちた鉄扉が現れた。
すかさずバケバケが手を当てると、ウラカワ家の紋章が輝き、扉が重い音を立てながらゆっくりと開いた。
「……『神の小指』……巻かれた縄が大国宝……」
「縄……完全に予想外だ」
そこは深海に相応しい、蒼く昏い神殿だった。
とても長い年月を経てヒビを入れた石の祭壇の上に、立てられた金属棒と巻かれた縄。
「……いいんだな」
「……もちろん……」
バケバケの肯定を受け、ヒロが縄に触れる。
〜〜〜〜〜〜
『生き返ったんじゃないの!? なんで、化け物に……!』
『十の魂を一に捧げる。これこそが』
『ニグアス……もしかして、記憶が……?』
『君が背負い込むことはないよ、エリサ』
『地球より顕現せしハルマ・キサラギと類似した存在は転生者と呼称し、共存に成功すれば我々に益をもたらす――』
〜〜〜〜〜〜
瞬間、バサナのときと同じく、断片的な記憶がヒロの頭に流れ込んだ。
「……終わりかぁ」
しかし一度経験していて慣れていたのか、その大国宝に刻まれた記憶すべてを閲覧しても身体に異変は無かった。
それどころか、幼馴染を人間に戻す方法が無かったため、少し肩を落としていた。
「……どうだった……?」
「正直、欲しい情報は得られなかった」
「……いや……見えたものを教えてほしい……」
「ああ、ごめん。端的にいうと、エリサって銀髪の少女が、ニグアスっていう黄色い髪の少年を憂んでいる……って感じだった」
「……他には……それこそ、風景とか……」
「風景って言われてもなあ……なんか鉄色で、曲線の多い……殺風景でいて神秘的な、そんな感じ」
「……わかり辛い……」
「仕方ないだろ、俺もよくわかってないんだからさ!!」
ヒロが元いた世界にも無いような文化を説明できないもどかしさを抱えながら皇帝へ抗議する。
「あ、あとエリサって子なんだけどさ。バサナの大国宝に触れたときにも出てきた」
「……そうなの……?」
「それと、何処となくサリエラに雰囲気似ているような感じだったな……いやでも、あんなクソガキじゃないな、もっとあっちは儚げだったな」
「……ということは……エリサって少女が、アルテンシアの鍵となってくる……」
「……鍵?」
「……いや……こっちの話……」
「うーん、そっかぁ」
はぐらかすバケバケに首を傾げつつも、ヒロは詮索を止めた。
「……ともかくありがとう……」
「いや、こっちの台詞だよ。開国もしてくれるみたいだし」
「……いや……」
そしてバケバケは、何かを含んだ笑みを浮かべ。
「……ボクの目的は果たした……」
その言葉の真意を、ヒロは理解できずにいた。
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ヒロはすぐに皇帝専用のペガムポス車に乗せられ、最速でアマノガ藩へと送り届けられた。
おかげで途中でレティシア達とも合流し、そのままウォルター達の泊まる宿へと帰投しようとした。
「ただいま戻りました」
「開国は問題なさそう……っ、モンスター!?」
しかし、宿は滅茶苦茶に破壊されていた。
そしてヒロ達の目を開かせたのは、サリエラやミライをはじめとしたプロキアの実力者たちが、炭色のモンスターになす術もなく蹂躙され、地に伏していたことだった。
「封印します!」
鉄の器から出でし多頭の蛇を、レティシアは領域へと閉じ込める。
すると行き場を失い首を伸ばし続ける異形を観察していたヒロが、まるで何かに気がついたように、顔をひきつらせながら大蛇を召喚し続ける鍋へと近寄った。
「待って……これ、真央の料理だ。しかもうどん」
「えっ、どう見ても禍々しい神話生物でしょう」
「言ったろ、真央は日常生活が致命的だって……科学では証明できない神話的現象が起こるんだよ、だから俺は家事上手くなったのさ」
「何ですかそれ。どういうことですかそれ」
木造の家屋が焼け焦げた臭いが立ち込める中、レティシアは思考を放棄しかけていた。
「つーかお前ら頭イカれてるのか!? なんで真央に家事させたんだよ!!」
「そもそも狼に料理させるって……」
結局プロキアの一行は、胃に流し込んだ異形を全て吐き出してからヒロの作った回復食を食べるまで生死の狭間を彷徨うことになった。




