第93話 竜宮城の秘宝③
老中から宣言された、次代皇帝の名前。
それは当然、皇子たちにも混乱を招いていた。
「疑。本当に集計したのであろうな?」
「そうでおじゃる! 影の薄いバケバケでおじゃるよ!?」
「どうか鎮まりたまえ。いくら騒ごうが、裸を晒したシゲシゲ殿、並びに人気の無いモリモリ殿は皇帝になれぬのですから」
「何。おい誰かこの不敬者の首を刎ねよ」
「今すぐ腹を切るでおじゃる!!」
あまりにも無礼な態度をとる家臣に、二人は殴りかかろうとしていた。
「……なってしまった……なれてしまった……」
一方、バケバケの方も困惑していた。
どうやら皇帝になれると思っていなかったのは、バケバケも同じだったようだ。
「確かに、領内でも影が薄そうだったけど……」
「……勝因ですが、三つほど心当たりがあります」
「拙者は一つですぞ、アマノガで損壊した建物の復旧支援をしていたことですな」
「それが一つ目です。おかげでアマノガ藩の票は獲得できたのでしょう。次に二つ目は、全皇民に向けた演説が上手く行ったこと」
レティシアが白く細長い指を二つ立てる。
各皇子は、選挙前に皇民へ向けて演説を行なった。
どのような国にするか、どのような政策を取るか。
描く未来図を言葉に乗せ、アピールし合っていたのだ。
「拙者には良さそうに見えませんでしたな。皇位継承戦でヒロ殿やレティシア殿の姿を見て、多少は前向きになったみたいですがな」
「俺も聞いてたけど、なんか現実味を感じなかったんだよね。暗い人が考えに考えた、自分は面白いってネタをやってる感じだった」
「あまりにも辛辣すぎないですか?」
ヒロの言い分に引き気味になりながら、レティシアは三本目の指を立てた。
「そして三つ目。これが一番考えられることなんですが……」
「すみまへんなぁ、遅れてまったわぁ」
混沌と化している大広間へ、花魁のように着飾った転生者がいそいそと入り込んできた。
そして真ん前に張り出された選挙結果を目にし、余裕のある笑みを固まらせ、声を漏らした。
「……うせやろ?」
「彼女の能力で票を集めたのでしょう」
レティシアが指を一本に直し、人差し指をサクラへと向けた。
第三皇子に味方している転生者は、様々なものを集める能力を持っている。
視線や砂鉄などを集めることを得意としていたが、収集の対象に際限が見えないため、その能力で選挙票を集めたのだろうと推察したのだ。
「……お前、やったな?」
「いやいやいや! 知らへんて、わっちもビックリ仰天やて!」
「待。本当に不正などしていないであろうな?」
「そうよ! バケバケはん、ほんまに何もしてへんよな?」
「……ボクが聞きたいくらい……」
とうとう不正の容疑者であるサクラ太夫も含めて、一斉にバケバケへ詰め寄る事態に発展してしまった。
「ええい、鎮まれ、鎮まれぇい!」
収拾がつかなくなりかけていたため、老中たちが間に入り込み、声を高らかにする。
「おかしいだろ、だって、バケバケだぞ!」
「そうなんだな! オラが一番になるはずだったんだな!?」
「たしかにデカデカ皇子のほうが藩民の数は多く、また周辺地域からの票も見受けられた」
「藩主様からもそう聞いているんだな! だのに」
「しかし! バケバケ皇子は周辺地域だけでなく、ヒノワの全藩から票を得ていたのだ!」
こうなることを見越して作っていた詳細の記載された紙を、老中がバンと結果の前に貼り付けた。
そこには、各藩から集められたデカデカの票の割合と、バケバケの票の割合。
そして、僅かにバケバケが勝っている合計数が記載されていた。
「アマノガ藩が多いな……やっぱりレティシアの見立ては合ってたってことか」
「それと、ゲソン藩とガンディル藩の割合が多いです。既に壊滅状態とはいえ、難民の受け入れや復興支援などを積極的に行なっていた……」
「そして関係のない藩から集められた票も、納得のいく範疇ですな……」
勝因は、日頃の行ないがよかったこと。
そう受け止める者も出始めたが、勝ち馬になれなかった者たちは、まだ不満の声を漏らしていた。
「……あのさ……!」
だが、意を決したのか。
蚊の鳴くような声だったバケバケが、精一杯に声を張り上げる。
「……確かに……ボクは怖い藩主に怯えていた卑怯者だった……そんなボクが皇帝になること……反対の人も多いと思う……」
「そうだそうだ!」
「降りてしまえ!」
「……それでも……この皇位継承戦で……ボクは、誰かを頼ること……そして力を合わせることの大切さを、知った……」
サクラに、ヒロに、レティシアに。
悪しき大名を打倒した仲間に、目線を移してゆく。
「……正直、ボクの力だけでは不安……ボクには、シゲシゲのようなカリスマも……モリモリのような勉強への熱心もない……」
瞬間。前髪で隠れていないほうの目から、今度こそはと言いたげな決意が溢れ出す。
「……だけど、誰かを助けたい……その気持ちだけは負けない….…!」
それを受けた皇子ならびに大名に、異を唱える者は居なくなった。
今にも羽化しようとしている、いまは危うい皇帝を支える。
美味しい蜜を啜れるかもしれない。
皇帝は決まったのだから次に備える。
思考の本質はそれぞれ異なっていたが、バケバケのために尽くすと決める者は多かった。
「……だからさ……皆の力を、ボクに貸してほしい……!」
「……ふっ」
シゲシゲをはじめに、笑顔が溢れ出す。
「承。いつでも頼るがよい」
「ワシ、頼られとる……!? もちろん幾らでも力を貸すでおじゃるよ!」
「ともかく、棚ぼたとはいえ僥倖やわぁ! 今夜は御赤飯やねぇ〜!!」
一転して和気藹々とした雰囲気となった宴会場に、サクラが老中から拝借した紙吹雪をパラパラと舞わせていた。
「一件落着、かな?」
「みたいですね。バケバケ皇子は開国にも前向きな姿勢を見せておられましたし」
「最良の結果、ですな!」
こうして宴も終わり、皇子や大名たちがぺガムポスの車に乗りそれぞれの藩に帰り始めたとき。
「……ヒロ……待って……」
「どうされましたか、バケバケ皇帝陛下」
「……皇帝陛下はやめて……バケバケでいい……」
「あ、わかった……それで、どうしたのさ」
一人呼び止められたヒロが聞き直すと、バケバケが少しもじもじと下を向いた後、小さく口を開いた。
「……皇国の大国宝……興味ない……?」
「――はぁああ!? うぇ、ゲホっ!?」
そして、思わずむせかえるほどの衝撃発言が、新皇帝の口から飛び出した。




