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第92話 竜宮城の秘宝②

 ヒロはレティシア、ムネニクと共に目隠しをされた状態で荷車に乗せられていた。


「ヒノワ藩……緊張します」


「レティシアも初めてなの?」


「ええ、拙者ですら初めてですぞ。本来、皇帝の認めた者でなければ脚を踏み入れることですら一族郎党死罪となる神域。我々はおろか、ヒロ殿は特例中の特例ですぞ!」


「こ、こっわぁー……」


 皇子たちは演説などを行ない自分に投票するよう働きかけると、投票開始から開票が終わるまでの間、皇帝が代々住まうヒノワ藩にて待つのだという。

 またヒノワ藩の場所は伏せられており、皇帝となれなかった皇子ですら知ることは許されない。

 基本的には知っているのは皇帝と、生涯をかけて皇帝に仕える仕事を数十年続けた家老だけだった。


「だから目隠しなんだ……」


「なんか馬の声が聞こえるのですが」


「あれはペガムポスですな。この車を引く皇帝の遣いで、水陸空と走れる馬ですぞ!」


「サラッと伝説の生き物出てきてない?」


 銀の羽とヒレを持つ賢き引き手が、皇帝や家老に仕込まれた通り、入り組んだ複雑な道をスイスイと駆け抜けてゆく。

 こうして情報を交換しあうこと、一時間半。

 ペガムポスが脚を止めて嘶いたため、目隠しを外して車の封を外した。


「これはたまげましたな……!」


「まるで竜宮城だ……」


 そこは深い海の底にも関わらず、日光が届きアクアマリンのように輝く華やかな城だった。

 サンゴが舞い、ワカメが踊る。その周りを色鮮やかな魚たちが走り回っている。

 後ろは海中から繋がる洞窟で、中は昏くて先が見えない。

 まさしく秘境。異世界の為せる神秘と言わざるを得なかった。


「ヒロ、カメラないですか!? プロキアにはあるでしょう!?」


「興奮する気持ちはわかるけど、カメラの類は俺も見たことないな……それに、撮ったら死罪待ったなしじゃない?」


「うぅー……」


 あまりにも神々しい空間を残しておきたかったレティシアが、残念そうに唸り声を上げる。

 やがて、到着した客人を迎え入れるように、皇居で働いているのであろう気品ある美女が中から現れた。


「ようこそいらっしゃりました。アマノガ藩の御一行でございますね」


「ええ、そうでございますぞ」


「では、こちらに」


 入口から通され、海中ですら美に変えてしまうような廊下を征く。

 そして流れ着いた地は、御伽話に出てくるような、豪勢な食事の並んだ宴会場のような大広間だった。


「これって刺身でしょう? あったんですね、ヒノワにも動物の調理法」


「拙者は初めて見ますぞ……しかも、マノメポーションまでありますぞ」


「刺身につけろ、ということでしょう」


 既に他藩の大名はチラホラと見受けられ、目の前に出された見慣れぬ食べ物をまじまじと見つめていた。

 だがレティシアは刺身の食べ方に精通していたのか、小皿に醤油のようなポーションを注ぎ、つけて口に運び、頬に手を当て目を細めていた。


「にしても他の皇子の人気とか、全然よくわからないんですけど」


「継承戦には不要と思い、言っておりませんでしたな。今のところ、こうなっておりますぞ」


 第一皇子。裸体を晒すという禁忌を犯し求心力が低下、脱落。

 第二皇子。学校型モンスターにより、ガンディル藩と運命を共にする。

 第三皇子。影が薄く、脱落一歩手前。

 第四皇子。継承戦前、海難事故により死亡。

 第五皇子。慎重ながらも政治に対する堅実な姿勢が評価され、票を集める。

 第六皇子。不細工な身なりと稚拙な態度が皇民に受け入れられず、脱落。

 第七皇子。学校型モンスターにより、死亡。

 第八皇子。着々と票を集めるも、上位に一歩届かず。

 第九皇子。そもそも皇位に興味が無いため、棄権。

 第十皇子。他藩の者へ票を入れるよう脅迫していることが発覚し、失格。

 第十一皇子。学校型モンスターにより、死亡。

 第十二皇子。継承戦前に第十一皇子と戦争となり、首を取られる。

 第十三皇子。齢十二にも達しておらず幼すぎるため、今回は棄権。


「ヒノワ事情、複雑すぎません?」


「順当に行けばシゲシゲ殿かスゴスゴ殿、そしてキラキラ殿でしたな。次点でデカデカ殿でしたぞ」


「スゴスゴ、あとデカデカとは?」


「スゴスゴ殿は第二皇子、デカデカ殿は第五皇子のことですな」


「次点しか残ってないじゃないですか」


「その原因の一端は貴方ですよ、ヒロ」


 レティシアに目を細められ、流石にやりすぎたかなと少し後悔する。

 次第に全ての大名、そして皇子が広間へと集まる。


「あれがデカデカ皇子か、身体でっかいなぁ」


「二メートル以上で太い図体、そして花を愛する心が人気だそうですな」


 有力候補が殆ど脱落したせいか、各藩の注目は、色黒で力持ちといった印象を与える第五皇子へと寄せられていた。


「デカデカ皇子は、開国とか……考えられているのでしょうか」


「無いでしょうな。穏健派ですし、前皇帝の政策を、より保守的に運んでゆくでしょう」


 開票の終わった老中が、結果の記された張り紙を指で摘み、広間へ入ってくる。

 中が見えないように裏返しで運んでいたが、少しだけ結果が透けて見えていた。


「いえ、これは……!?」


 その意味を理解したムネニクを皮切りに、ヒノワの大名たちにどよめきが走った。

 隣り合った皇子が一位、二位争いをしており他と大差をつけていたのだ。

 考えられるのは第五皇子。かつ、第四皇子は亡くなっており除外されている。

 つまり第三皇子バケバケか、第六皇子モリモリに、想像を超える票が入っている、ということを意味していた。


「これワンチャンあるじゃないですか!?」


「そうですよ、だって……マジですか!?」


 ヒロもレティシアも立ち上がり、語彙力を引き換えに興奮していた。

 そして、張り紙が一番前の壇上にて貼り出される。


「これは誠か!?」


「あの地味な皇子が、次の皇帝だと……!?」


 肝心のモリモリは、全く票を集められていなかった。

 代わりにバケバケに、有力株となったデカデカを僅差で凌ぐほどの票が集められていたのだ。


「よって、次期皇帝は第三皇子ウラカワ・バケバケといたす!!」


 更に広がる混乱を遮るように、家臣たちの宣言が大広間に響き渡っていた。

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