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第89話 侍の宿願④

 構えた杖を、竹刀の要領で振り下ろす。

 だが乱入してきた侍は、全く表情を変えずにかわしてみせた。


「ッ!?」


 反射的に杖を首に掲げたため、侍の刀を受け止めることができた。

 だが、手応えが最初に受けたときよりも軽い。


「か、はっ?」


 そう考えたときには、既に鳩尾へ拳が飛んできていた。

 膝をつくことも許されず、そのままヒロは顔面を蹴られ、路傍の石のように転がされてしまう。


まて……御主、何のつもりだ」


 転生者の主であるはずのシゲシゲが、暴走する配下へ問いを投げる。


「……」


 しかし侍は何も言わず、一瞥だけを返してヒロに視線を向けた。

 ヒロは癒師装備グリーンフォームこそ壊れていたものの、何とか受け身を取っていたため、再び立ち上がろうとしていた。


「ヒロ、手を貸すぞ!」


「ダメだ!」


 サリエラ達も乱入しようとしたが、ヒロによって止められてしまう。


「何故だ!」


「俺は奴の動きを何故か知っている、だから防げた。でも、お前らは今の斬撃が見えたか!?」


「……正直見えなかった」


 サリエラをはじめ、その場にいる誰もが下を向いた。


「グルゥ、ワゥ!!」


 マオを、除いて。


「ならせめて、真央に魔力を分けてほしい。そうすれば、恐らく何とかなる!!」


「わかった。マオ、頼む!」


「ワォン!!」


 仲間たちの総意に、マオが大きく頷いた。

 そして雄叫びを上げると共に、サリエラ達の身体から少量の魔力が狼へと集まってゆく。


「……ん、ちょっと待て。レティシアは何処に行った!?」


「さっき厠へ行くと言ってたでおじゃる!」


 だがレティシアの魔力が足りなかった。

 その分をサリエラが補い充填が完了すると、マオは体勢を低くしてヒロの方へと疾駆した。


「……」


 侍も、乱入する狼を迎え撃とうと刀を走らせる。


「グワゥ!」


「……!」


 しかしマオは、まるでその動きがわかっているかのように背中で受け流してみせた。

 侍を突破したマオはボロボロのヒロへと近付き、白い魔力の塊を受け渡す。


「……最高のタイミングだよ、真央」


 これまでの間に、ヒロは殆どの装備を壊されていた。

 残していたのは、マオから魔力を確実に受け取るための狩人装備イエローフォームだけだった。

 そしてボロボロの身体を炎に包ませ、再び絆ノ装備(ブルームフォーム)を顕現させる。


「……ッ!」


 白き侍が再び白い狼へと襲いかかる。

 彼岸花のような黒き斬撃が、マオの命を刈り取らんと飛来する。


「ワォウ!!」


 その乱撃は、ヒロにも見えなかった。

 しかしマオは両前脚と身体を使って、全て受け流してみせたのだ。


「……ッ!」


 間合いに入られた侍は拳を構えて放つが、マオに合わせられてしまう。

 そして鋭利で堅牢な爪がある分、打ち合いはマオに軍配が上がった。


「思い出した……!」


 ようやく、ヒロは思い出した。

 しかし、極限まで集中力を使った後に体力を大きく削られたため、絆ノ装備(ブルームフォーム)を出したとはいえ体力は限界に近付いていた。


(クソッ、突破口が見えたのに。真央と共に戦えるのに……!!)


 白い狼の背がぼやけ、ふらりと前に倒れてしまう。

 それを見た侍が、好機と言わんばかりに標的を勇者へと変えた。


「ワォオッ!!」


 マオが庇おうと踏み出すも、黒刀が幼馴染の首を断ち切る寸前だった。

 そして刃が首を断つ寸前。


「あっぶねぇええ!」


「ギリギリセーフ、でしたね」


 離脱したはずのレティシアが、新たな仲間を連れてヒロを救出した。

 侍はレティシアの最高速度を知っていた。彼女一人では決して出せないほどの速さで、領域を用いた瞬間移動をしてみせたのだ。


「……クルト、どうして」


「話は後だ。やっとオレも役に立てたしさ!」


 金の髪を短く揃えた少年が誇らしそうにヒロを抱え、無理やりヤックポーションを飲ませていた。

 レティシアはというと、プロキアでもトップクラスの脚の速さを誇るクルトにおぶられながら、領域を用いた加速装置となっていたようだった。


「しかし、そのようなポーションひとつで復活するとは信じ難いです」


「オレらはコレで育ってきたんだ。どんな傷も治す、最強のポーションでな!」


「ですが」


「ぷはぁ、生き返ったぁ!!」


「……マジですか」


 瓶が空になった瞬間、ヒロはクルトの腕から元気そうに飛び降りた。

 全身に刻まれていたはずの傷が全て塞がっているのを見て、レティシアは驚愕のあまりアゴが外れそうになっていた。


「さんきゅ、二人とも。離れてな」


「ここまでやったんだ、絶対負けんなよ!!」


「大丈夫」


 控えと合流して応援する二人を背に、一転して自信に満ちた笑みを浮かべてヒロが宣言した。


「お前の体術は、俺がずっと間近で見てきたものだ。もう絶対に、当たらない!!」


「……ッ!!」


 侍が忌々しげに歯噛みし、全身全霊で餓鬼の命を断たんと構え、踏み出した。

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