第85話 学校の異形⑤
シゲシゲが加勢したことで、学校型モンスターは虫の息となっていた。
身体を構成する肉腫の殆どをヒロに削られ、さらに加勢してきた第一皇子により脚を完全に断たれていた。
そのため悪あがきと言わんばかりに、無数に生やした闇色の手を、ヒロとシゲシゲに向けて全力で伸ばす。
「シッ」
だが、シゲシゲは最少の足捌きで避けつつ、地に伏している学校へと間合いを詰めた。
「嬉。瓦礫の山なら好都合!!」
第一皇子が抜いた宝刀の銘を、ヒロ達はモリモリから聞いていた。
それは大地を割るために打たれた、ヒノワの誇る大業物。
名を、ソノトチヲタチ。
【これは訓練ではありません! 皆さん地下へお逃げく】
シゲシゲが斬撃の乱舞を放つと同時に、学校の形を作っていた瓦礫の殆どが、砂へ、そして塵へと散っていった。
奇怪な放送もブツリと途切れ、校長室に座する深淵のような本体が丸裸となった。
【皆様、ご卒業おめでとうございます。数年間、短いようで長いような】
「……顔が渦になっているフクロウ、か」
「否、朕はタカのように見えるが」
戯言を続ける深淵色の鳥が、魔力や砂を集めて再び学校を建て直そうと試みる。
辺り一面に散らばった先生や生徒のような肉片も、一斉に校長と合体しようと飛び込もうとする。
「させるか!」
【学長を、狙う輩は】
「遅いッ!!」
肉片の一部が特有のリズムを唱えようとするが、絆ノ装備を纏うヒロには関係なかった。
【死に給】
「爛漫の」
肉片が言い終わる前に、一閃して口を破砕する。
「桜にも散る、定め在り」
風情を忘れた肉片に見せつけるよう、フクロウに二閃。
「ゆえ現世は、盛者必衰!」
続けて桜の花弁を完成させるよう、さらに二閃叩き込む。
「桜花、斬鉄ッッ!!」
そして全ての詠唱が終わったヒロは、全身全霊の牙突をお見舞いした。
学校を廃校寸前にまで追い込んだ勇者の最終奥義を喰らった闇の鳥は、桜色のマナへと散華し、消え去った。
「……見事」
同時に肉片や闇の魔力も、校長と同調して淡紅色のマナへと姿を変えていった。
尊大なシゲシゲも、勝利を告げる桜吹雪を目にしたためか、思わず賞賛を呟かずにはいられなかった。
「……勝っ、た……」
最終奥義を放ち魔力切れ寸前となったヒロは、装備を解除して力なく膝をついてしまった。
「謝。皇国を脅かすモンスターの討伐に協力してくれたこと、心から感謝する」
「こっちの台詞だよ。来てくれなかったら、今頃学校のエサだった」
「本当にヒヤヒヤさせないでほしい」
「呆。貴様は戦えるにも関わらず見学を貫き、挙句に英雄へ罵倒とは」
「本当だよ。戻ってきたならサリエラ達のチームに加勢してほしかったよ」
「むっ」
せっかくシゲシゲを呼んだのに、と抗議するようにミライが頬を膨らませた。
そのまま和やかな雰囲気が流れるのかと察し、サリエラ達も壁を降りて合流しようと駆けつけるが。
「え、ちょっ!?」
「邪。貴様ら異邦の民がヒノワの地へ踏み入った事は別。万死に値する」
シゲシゲは太刀を抜き、ヒロ達に切っ先を向けて威圧した。
「万死、って……そっちだって、せっかく干してた鮭の切り身を吹っ飛ばしてダメにしたろうが!!」
「面白いことを言う。魚が食べられると?」
「食えるわ! なんなら獲った魚を捌いて寿司でも握ってやろうか!?」
「ヒロ、それならワタシはムニエルなるものが食べたいぞ!」
「なら私は白身魚の甘辛餡かけがいい」
「では私はオイルサーディンをお願いします」
「黙。この腹ペコ三人衆が」
『むっ!』
シゲシゲに一蹴された三人は、空色の髪をした翻訳少女のように頬を膨らませて黙り込んだ。
「……話を戻す。然、此度の化け物退治の功績を讃え、機会をくれてやる」
「機会?」
「三日後だ。三日後の正午に、オウガイ藩の城門へと参るがよい。ナカジマと朕の決闘を以て、アマノガ藩対オウガイ藩の最終決戦としようではないか」
「ちょっ!?」
ヒロは目を丸くした。だが反射的にツッコミを入れる直前、レティシアが口を挟んでくる。
「お待ちください、アマノガ藩の転生者は私です。レティシアです!」
「黙。貴様では役不足だ」
「それに、殿と大名はどうなさるおつもりで!?」
「オウガイ藩の大名もまた、朕である。又、ムネニク大名はバサナ文化に傾倒し常に裸を見せるなどという、ヒノワの倫理をも忘れた恥部だ、参加は認めぬ」
「殿の話が終わってません!」
「モリモリは青すぎる、国を背負う器が出来上がっていない。それに、争い事にも不参加ではないか」
「う、ぐぬぅ……しかし、私は」
「くどい」
レティシアが反論しようとした瞬間。
目にも止まらぬ速さでシゲシゲが剣を走らせた。
するとレティシアの纏う和装が、鮮やかな端切れとなり散っていった。
「ヒッ……!」
「罰。一糸も纏えぬ哀れな無一物となるがいい」
「テメ、レティシアさんがお嫁に行けなくなったらどうすんだよ!」
「むっ……綺麗な身体」
「ワタシ、実は女もいけるタイプなんだ! しかし本当に良い体だな!」
「グルァウ!!」
「痛っ、テメェら少しは仲間を労わろうとしろ!」
泣きそうな顔で恥部を隠してうずくまるレティシアを、ミライとサリエラが興味津々といった様子で見つめていた。
また、ヒロはすぐ目を逸らしたにも関わらず、マオに「あの女を見るな」と言わんばかりに噛まれてしまった。
そんな悲しき勇者が、常識知らずな仲間へ背を向けながら叱りつける。
一方のシゲシゲは野蛮人たちを背にし、去り際にヒロへ念押しした。
「改。必ず来い、ヒロ・ナカジマ。ウォルター・ヴォルフガングの身柄も預かっている、来なければ全てを失うと思え」
「……わかった。必ず行く」
最後の仲間の安否もわかったヒロは、第一皇子へと強い決意を宿した視線を返した。
(今度こそ。必ず勝ってみせる)
後ろで繰り広げられる地獄絵図から目を逸らすように、見習い勇者は鼓舞するように誓いを立てた。




