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第83話 学校の異形③

 サリエラから連絡を受けたヒロとレティシアは、すぐさまアマノガ藩の城へと帰還した。


「真央、ミライッ!!」


「ワォン!」


「ヒロ、よかった……本当に生きてた」


 そして、アマノガ城に保護されていたミライとマオと再会し、心から安堵したような表情を浮かべて胸を撫で下ろす。


「にしても、よく関所を越えられたな」


 畳に正座した直後、膝の上に飛び込んできた白い狼の頭を撫でながらヒロが問う。

 その後ろでは、共に戻ってきたレティシアとサリエラが、全く同じ問いを抱いていたかのように頷いていた。


「隣のゲソン藩の皇子が、応援を要請できるよう書状を書いてくれたから。だから、すぐシゲシゲのところにも行かないと」


「……失礼。それほどまで、あのモンスターは強いのですか」


「強いなんてものじゃない。転生者を二人も軽々と喰らうアレは……厄災、そのもの」


「ミライに、そう言わせるなんて……」


 自身の肩を抱きカタカタと震える仲間を見て、意を決したようにヒロが立ち上がった。


「そのモンスターは俺が食い止める。ヒノワ皇国を脅かす存在なら、倒さないわけにはいかないからな」


「ヒロでも無謀、だと思う。普通の魔術は有効打にならないし、剣で斬ろうとしても一時凌ぎにしかならない」


「いいや、凌げるなら大丈夫だ」


 ミライが俯いていた顔を上げると、サリエラが自信に満ちた表情で解決策を示そうとしていた。


「いくら強力なモンスターや転生者だろうと、核となる遺物ドロップアイテムを砕けばいい。ヒロの攻撃が何処まで通るか、だがな」


「そっか。なら、無理やり心臓部を破壊すれば」


「待つでおじゃる!」


 突破口が見えて表情を晴らしたミライに、城の主である第六皇子モリモリが制止をかけた。


「待つって何を」


「心臓部を破壊すれば良いと、如何にして証明するでおじゃるか!!」


「そうですぞ! そんな方法で良いのなら、武神と呼ばれたキラキラ公が負けるはずがございませぬ!!」


「私も腑に落ちません。遺物ドロップアイテムとは、死してはじめて生成されるものではないのですか」


 レティシアも、そしてモリモリと共に入ってきた大名ムネニクも、同様の疑問を抱いていたようだった。

 だが、ヒロとサリエラは口を固く閉ざそうとしていた。


「……話してもいいのかな、これ」


「むぅ。しかし、納得してもらわなければ更なる被害が出るかもしれない」


 その根拠となる情報は、アルテンシアの常識を根幹から揺るがしかねないものだったためだ。


「私は……話すべきだと思う」


「ミライ、お前なに言って」


「だって、知る権利がある……ううん」


 ヒロの言葉を遮るように、ミライが自ら発した言葉に重ねる。


「知る『義務』があると思う。アルテンシアのシステムが、どうやって支えられているのか」


「……それでも」


「ワシは知るでおじゃる」


 一番に名乗り出たのはモリモリだった。


「知識を蓄えるでおじゃる。ワシに出来るのは歴史を学ぶことだけ、ならば知識だけでも蓄えておきたいでおじゃる」


「……」


 ヒロは何も言わなかった。

 他力本願かつ弱気、さらに料理を台無しにした我儘皇子に対する印象は、お世辞にも良いとは言えなかった。

 しかし、彼の歴史に対する探究心は本物だ。

 嫌いだからこそ、それをよくわかっていたのだ。


「ならば、条件がある」


「なんじゃ、何でも申してみよ!」


 嬉々として飛び跳ねる皇子に、サリエラが眼光を鋭くして、杖の先を突き付ける。


「決して口外しないこと。一切記録しないこと。不要と感じたら、モンスター討伐後すぐに忘れること」


「ひ、ひぃぃ!!」


「破った瞬間。ワタシが手を下すまでもなく、ヒノワは亡国になると思え」


 声を低くして強烈な圧をかけたせいか、モリモリは腰を抜かして首を上下に強く振っていた。

 そんな情けない君主を見兼ねてか、ムネニクとレティシアも名乗りをあげる。


「そんな重大な情報だと、知る義務とは言えませんな。しかし、民の上に立つ者として、扱いを知っておくことも大切かと」


「私にも教えてください。情報は多い方がいい」


「……後悔するなよ」


 サリエラが吐き捨てると同時に阿吽の呼吸でヒロとマオが立ち上がり、部屋を閉め切って門番を買って出た。

 完全に外の気配が消えたところで、サリエラとミライは口を開いた。


「では……私も、モンスターも……同じ、存在?」


「……ならば、この皇位継承戦は一体何なのですか。モンスターという恐ろしき存在を用いて、拙者らは今まで」


 転生者とモンスターとマナの関係。

 そして、それらを転生させる異世界召換術式。

 真実を知ったレティシアとムネニクは、目を見開き、額を抑え、膝をついていた。


「……すまない、話したワタシが愚かだった。忘れてほしい」


「忘れられるわけないでしょう! 忘れたくても!!」


 レティシアが慟哭する。

 アルテンシアによって身勝手に殺され、強制的に転生させられた。

 そして近くに居た人々も、マナ、モンスター、転生者のいずれかにされた。

 彼女の怒りは至極当然のものだった。


「拙者も……知るべきではなかった、こんなもの、夢に出てきても」


「ワシは知れて嬉しかったでおじゃる」


 だが、しかし。

 モリモリだけは平静を保ち、短い両足を地につけていた。


「知れて……え?」


「知ろうが知るまいが、この世界の理は変わらぬ。ならば知って、それをどうするか考えるべきでおじゃる。それをしないのは、知識からの逃げでおじゃる」


 そう言いながら取り出したのは、ウォルターから定期的に届けられていた手紙だった。

 中には、各大国の情勢が書かれていた。まるで新聞の内容を更に要約したようなものだったが、鎖国中のヒノワでは金塊よりも価値のあるものだった。


「プロキアやバサナは良いでおじゃる。代行者制度や傭兵雇用で国民と密接な関係にあると聞く」


「ヒノワは違うの?」


「違うでおじゃる。皇帝が不在時には継承戦のための道具として、皇帝が在位時には各地平定のための手駒として。とにかく、平民とは程遠い存在でおじゃる」


「それがモンスターのようなものと知れれば……」


「求心力、そして皇位継承戦の権威は地に落ちます。さすらば、失われた命は」


 ミライは、ハッとしたように口を塞いだ。

 何が知る義務だと。知らない義務だって、あるじゃないかと。

 そう、落ちた言葉を拾い上げるように、口を両手で覆った。


「なるほど。言いたいことはわかった」


 そんな中で天才魔術師だけは、モリモリの意図を理解し、笑みを浮かべていた。


「レティシアとサクラは積極的に藩民たちと関わっていた。人気もある!」


「それでおじゃる!」


 手をパァンと合わせる。


「ワシは勝つ! 勝って皇帝となり、レティシアとサクラ太夫を配下とする!」


「ただの助平ではないですか!」


「脳筋ムネニク! 平民が抱く、転生者に対する偏見を解くためでおじゃる。遅かれ早かれ、先の情報が知られたときの下地作りでおじゃる!」


 その眼には、普段向けている色目は無く。

 優秀な配下に向ける、心からの信頼の念のみがこもっていた。


「転生者の情報が筒抜けなのは、レティシアとサクラ太夫だけじゃった。この二人を更にヒノワ国民が知れば、『転生者は皇帝の矛』なる偏見も解けるはずでおじゃる」


「私が、でしょうか?」


「ツラもスタイルも抜群だからな!」


 サリエラが無邪気に、レティシアの両頬をムニムニと軽く引っ張ってみせる。


「当然、これだけでは足りぬ。いずれ転生してくる者たちの保護、そして国民へ向けたアピールなども欠かさずに行かねばならぬ」


「しかし、まずはモンスター退治……ですな」


「そうじゃ! レティシア、シンエイの二人の到着はまだか」


「恐らく来れないでしょう。サクラ太夫は最終奥義カラミティスキルを使った影響で魔力切れギリギリ、バケバケ皇子も大名没後の処理に追われております故」


「ミライとやら。この後、シゲシゲの下へ赴くでおじゃろう?」


「当然」


「ならば、レティシア」


「ええ」


 レティシアはクソガキを降ろして澄まし顔を作り直す。

 モリモリが、まだ青いことは承知していた。

 しかし、いずれ真の皇帝へと熟す時が来る。


「ヒロとサリエラと肩を並べ。学校型モンスターを討ちます」


 そう確信した主へ向け、新たにした決意を告げた。

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