第78話 大使の立場③
ヒロによる鉄拳を喰らったサクラは、一発逆転を狙い最終奥義を発動した。
雷と共に放たれた砲弾は、真昼の町を青白く包み込むほどの光を放ちながら飛翔する。
当然、進行方向にいるレティシアも消し炭となる。
誰もが、そう思っていた。
「――はぁう!?」
畦道を突き破り、蒼き彗星が天へと飛びたった。
鉄屑や砂鉄で組み上げられた巨大な砲身に叛旗を翻し、粉々に砕きながら閃を描いて新たな星となったのだ。
「れ、レティシアさん。いま、何したの?」
これにはヒロやサリエラも二度見するしかなかった。
突然盾役の前に躍り出たと思えば、殺さない方法で最終奥義を完封してみせたのだから。
「そこは私の領域内。砲弾は、上空に射出させていただきました」
「これ、前に俺を閉じ込めた能力……?」
「はい。『絶対の領域』、立方体状の領域に閉じ込める能力です」
レティシアは両手の親指と人差し指で四角形のレンズを形作り、そこから右目でサクラを覗き込んでいた。
「その指の中に入ったものが閉じ込められるってこと?」
「はい。領域から出ようとしたら、私の好きな方向から戻すことができます。よって、領域に触れた砲弾を地面から射出し、一瞬だけ天井を解除して空に打ち上げました」
おかげで、サクラは小便を漏らし、顎を鳴らし、涙を浮かべながら充血するまで目を見開いて腰を抜かしていた。
敵に抵抗する力が残っていないと判断したレティシアが、手を下ろし能力を解き、女へと近寄る。
「最終奥義を放った貴方に、もう魔力は残されていないはず。大人しく首を差し出しなさい」
「ちょいちょい、最初から殺す気なんてなかっただろ」
「それ言ったら交渉の意味ないじゃないですか」
「もう実力の差は十二分に示せたろ」
目の前で下らない言い合いを繰り広げている様を見て、サクラが拍子抜けしたように呟く。
「なんで、アンタらは強えのに……そんな、下に優しくできんだよ」
「そのために強くなれたからな」
「弱ければ誰も守れませんもの。自分も、他人も」
ヒロもレティシアも、即答だった。
その曇りなき眼に照らされ、サクラは表情に陰を落とす。
「勝て、ねぇ……この手を汚してまで登りに登ったアタイじゃ、勝てねぇよ……」
「ヒロと白いの〜。あっちの皇子、戻ってきたから回収しといたぞ!」
「白いのではありません。レティシアです」
猫のように首根っこを摘みながら、サリエラが嬉々として第三皇子をブラブラと見せつける。
「……無理……帰る……」
「で、これで勝利なのか?」
「いえ、降参の場合は皇子、大名、転生者、そして藩民の半数以上の合意が必要となります。故に現実的ではないのです」
「マジかよ……まあ、藩民からすりゃ上に勝手に決められたら、たまったものじゃないだろうしな」
「おら達ぁ、降参してもいいべ」
そう口を挟んできたのは、サリエラを運んできた男衆の一人だった。
天女の衣装を着た女性たちも、同調するように首を縦に振る。
「お大名様の政治にゃ、飽き飽きしてたんだ。毎年毎年増税増税、食う米だって無くなっちまう」
「……ボクも、駄目だと思ってた……大名様、口聞いてくれなかった……ごめん……」
「んでもって皇子はヒョロガリで、転生者様は猫被り」
「やるかコラ」
女遊びも知らなそうな村人を、花魁もどきが威圧する。
「なら皇子はアレだが大名は痛快で人気のあるアマノガのほうがいいってもんよ」
「消去法かぁ……」
「それに、大名が納得すると思えないぞ」
シンエイ藩の抱える問題に、ヒロとサリエラも揃って頭を抱え始めた。
「……なら、シンエイに来て……説得、してほしい……」
「いいのか?」
「……ボクのほうが、政治を上手くやれる自信ある……けど、ボクの立場は低いから……」
「何でも使う。わっちの教えた通りやねぇ」
「その身なりで花魁モードは無理ありますよ」
「アタイが『サクラ』で居るためにゃ、こうするしかないんよ」
猫を被れないもどかしさで、サクラが頬に青筋を立てる。
「なら、サリエラに任せたいかな。政治とか俺めちゃくちゃ疎いし、だいたい争うなー、で済まそうとしてややこしくしちゃいそうだし」
「そうは言っても、ワタシはヒノワの文化について疎いぞ」
「新しいものを勉強するのは好きだろ?」
「うむ、大好きだ! だがな」
無邪気に返事をした後、すぐに真剣な面持ちへと変える。
「それでもヒロが行くべきだろう。ワタシ達は大使として来ているのだ、立場がある」
「なら尚更サリエラの方がいいだろ」
「これが宰相を相手にするだけならそうだが、国民も含むとなると話は別だ。諸問題を広く見て心を痛め、全力で解決しようとするヒロのほうが適している」
「な、なるほど……?」
納得したような、しないようなといった返事を返す。
「なに、ワタシ達はプロキア大使の立場なのだ。基本戦争は反対、無益な殺生はやめようと言って、その原因を解決すればいい」
「……わかった。やってみるよ」
「うむ!」
なんか上手く丸め込まれたような、と言いたげな様子でヒロは了承する。
「私もご一緒いたします。アマノガ藩の課題を解決するのも務めですので」
「レティシアさんも大変だね……」
忠実な従者に苦笑いを返した後、サクラとバケバケに準備完了と目線を送った。
すると花魁は妖艶な笑みを、第三皇子は不気味な笑みを浮かべたが。
「ほな行きましょか。今世の地獄へ」
「……君たちは、まだマシな生活してるよ……」
「やっぱ帰っていいかな!?」
「ダメだ行けーっ!!」
二人の目の奥に暗黒が広がっていたため、ヒロは踵を返そうとした。
が、レティシアに襟を引っ張られる形で、シンエイ藩へと突入することになった。




