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第77話 大使の立場②

 敵に降伏を促され、ヒロは狂気を孕んだ笑みを浮かべる。

 視線を移せないが狂気を感じ取ったサリエラが、心配そうに隣の仲間へ声をかける。


「ど、どうしたヒロ。そんな笑み浮かべて」


「ずっと殺さなければいけない、そう思っていた。でも降伏させればいいなら、それが最善だ」


「それはいいが……どうするよ」


「どうもこうもない。俺の装備で一番有効なのは、恐らく魔導装備ブルーフォームだろう」


「……まずいはソレは」


 ヒロは六つある装備の中でも、魔術適性を上げる魔導装備ブルーフォームの扱いが一番苦手である。

 汎用性は高いが、大抵の魔術で実現したいことは他の装備で魔術以上のパフォーマンスを出せるため、普段からあまり使用していなかった。

 つまり、状況は劣勢。

 サリエラもヒロも、冷や汗が首筋をなぞっていた。


「エリーゼはレティシアさんが守ってくれているから問題ないけど……」


「あのコンビネーションだな。恐らくバケバケは問題ないが、あの砂鉄の攻撃はワタシの礼装にもダメージを与えてくる」


「かといって俺が前に出れば、あの幽霊剣士に斬られ続ける」


 分断したくても、ヘイトがサクラ太夫に向けられる以上、バケバケに攻撃を向け辛くなる。

 強力なコンビネーションに頭を悩ませている隙に、サクラ太夫は親指を上に向けながら、人差し指をヒロ達に向けていた。


「随分楽しいお喋りをしとるねぇ」


 そして指先に集めた砂鉄を固めて作った弾丸を、ヒロ達へ発射する。


「あっぶねぇ! てか腕にめちゃくちゃ響く!」


「ありがと、あれバケバケは何処だ!?」


 ヒロが盾で弾丸を防いでいる隙に、花魁の隣にいたはずのバケバケが姿を消していた。

 再びの不意打ちがいつ来るのかと警戒を強めようとする。


(この気配断ちは、オオマノメを倒したときに俺がやったのと同じだ。なら!)


 だが、ヒロは冷静に状況を分析し、経験を応用した最善策を導き出す。


「意識を大気に溶け込ませるようイメージしろ! 揺らぎを感じれば、何処から来るかわかるはずだ!!」


「ぬ、やってみる!」


 ヒロの指示を受けたサリエラが、杖を地面に立てて目を閉じ、集中する。


(世界と同化、世界と同化、世界と同化!)


 すかさず自尊心に溢れたイメージを展開すると、まるで潜水艦のソナーのように、マナに対する感覚が研ぎ澄まされてゆく。

 そして微弱ながらも、サリエラへと這い寄る二刀の魔力を感知した。


「そこだッ、第五位水魔術ソロネ・ヴァッサ!!」


 花魁の方を見ながら、サリエラは近寄る刺客へと杖先を向ける。

 そして放たれた、激流の渦。


「……っ!?」


 バケバケはたちまち飲み込まれ、彼方へと吹き飛ばされていった。


「バケバケ皇子! くッ、小癪な」


 仲間がやられたことに態度を一変させたサクラ太夫が、大量の砂鉄を手に引き寄せようとする。


「今だ! 魔導装備ブルーフォーム、そして第二位土魔術グランデ!!」


「ッな!?」


 それを見たヒロが魔術師の装備を発現し、手を鉄の塊へと変える。

 そして、サクラ太夫の磁力を借りつつ跳躍し、瞬きすら間に合わないほどの速度で間合いを詰めた。


「そんなカス魔術で、このアタイが取れると思」


「遅い!」


 被った猫を脱ぎ捨て砂鉄を鞭のように振るおうとするが、ヒロのスピードとパワーには追いつかない。


「鉄拳制裁だッ!!」


 振り抜かれた拳は、花魁が反射的に構えた左手を砕きつつ、足場にしていた屋根ごと家屋を吹き飛ばした。

 先ほどまで家々だった瓦や木片と共に、サクラ太夫の吐いた血が宙を舞った。


「おいふざけんなよぉ! オラの家がぁ!!」


「すみません、後で修理手伝いますので!!」


 視線を集める能力が解除されたおかげで、野次馬たちが滅茶苦茶になった町並みを見て頭を抱え始めていた。

 レティシアとエリーゼも二人に駆け寄り、満身創痍となった敵のほうを見る。


「やったの?」


「まだだ。この程度でやられるほど、転生者は甘くない」


 裂かれた腹を抑えながら、ヒロはエリーゼ達を守るようにしてサクラを注視する。


「……畜生、なんで。頑張ったのに、なんで」


「頑張っても無駄なことは沢山ある」


 ボロ雑巾のようになったサクラを真っ直ぐと見つめながら、ヒロは言い放った。


「大人しく降参しろ。そして、俺と一緒に家屋直すの手伝え」


「……ざけんなや」


「ふざけてなんて」


 言葉を遮るように、口と手から流れる血を撒き散らし、叫ぶ。


「アタイは花魁や! 頑張って上り詰めたんや!! そんな村仕事、頑張ってもないカスみたいな奴のこと誰が!!」


「そのカスみたいだと思っている奴を相手に、仕事をして食ってきたんじゃないのか?」


「だ……黙れェッ!!」


 正論を突きつけられて顔を赤鬼のように強張らせたサクラが、無理やり立ち上がり両腕を広げた。

 すると砂鉄や鉄屑が血塗れの女の前に集合し、何かを組み上げるかのように合体してゆく。


「これだ、ワタシが撃たれた大砲!」


「マジかよ!? なんで江戸か明治の時代から来たろうに、こんな近未来武器を!」


 建造された黒光りする大砲を指差し、サリエラが焦りを見せる。

 それはまさに、ヒロが図鑑でのみ目にしたことのある『レールガン』のような形状をしていた。


「千里に轟きし真言の仏よ。我が成就を成す為、一切の邪悪を打ち払いたまへッ!!」


 詠唱と共に砂鉄で出来た砲身が回転を始め、摩擦で電気を発生させ、大砲に青白い閃を描き始める。


「……いいぜ。お前の最終奥義カラミティスキル、真正面から受け止めてやる」


 ヒロも戦士装備レッドフォームに換装し、盾に意識を集中させて仲間を守るよう立ち塞がった。

 そして限界まで雷の魔力が充填されたと同時に。


「申し訳ございません、ヒロ様」


「えっ?」


 突然、レティシアがヒロの前に躍り出た。


「真言天鼓雷音《ノウマク・サマンダ・ボダナン・カン・カク・ソワカ》ッッ!!」


「レティシアさん、逃げろーーッ!!」


 動揺している隙に、周囲の瓦礫を粉々にし、阻む物を消滅させるほどの砲撃が放たれた。

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