表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/173

第76話 大使の立場①

 シンエイ藩の転生者『サクラ』が、モリモリが統治するアマノガ藩へと侵攻してきた。

 だがそこに駆けつけたのは、サクラ太夫に撃ち落とされたはずのサリエラだった。


「やあやあやあ! 祭りだ祭りだ!!」


「おいやめろクソガキ、それ以上は色々まずい!」


 神輿の上で扇子を仰ぎながら高笑いする助っ人を、縁を結びそうな何かを感じ取ったヒロが全力で止める。


「こほん。待たせたな、ヒロ、エリーゼ!!」


「てか、その神輿はどうしたんだよ!?」


「落ちた後に匿ってくれた者たちが提供してくれたのだ! 祭りの季節だからとな!」


「なんじゃそりゃあ……」


 曰く、サクラ太夫に撃ち落とされた後、大名の政策を良く思わない村人が助け、匿っていたらしい。

 そして隣が、目的の第六皇子が治めるアマノガ藩だと聞き、サクラ太夫の登場に対抗してやるかという村人の提案を、サリエラは嬉々として呑んだ。

 よって、派手に着飾った村人と共に、サリエラは風魔術を用いてアマノガ藩へと不法侵入した、とのことらしい。


「……後でお話が」


「後でな! まずはアイツだ!!」


 規律を犯したサリエラに、レティシアがわなわなと怒りを向ける。

 だが、怒りを覚えているのはレティシアだけではなかった。

 レティシア以上の、否、この場にいる誰よりも強い怒りを覚えたサクラ太夫が、地獄の呻き声に近いような低い声で言い放った。


「アタイより目立つなや、クソガキ」


「その呼び方をしていいのはヒロ達だけだぞ!!」


 そう叫ぶと同時にサリエラが立ち上がり、杖を上に構えて敵へ飛び掛かった。

 振り下ろしは花魁が手にした傘によって防がれ、そのまま杖と傘による乱舞が巻き起こる。


特級忍法トッキュウニンポウ土遁術ドトンノジュツ


「想見・構築・発射。第四位風魔術プリンシ・ヴィント


 互いの武器の先が顔に向けられた瞬間、各国特有の魔術が放たれる。

 ヒノワ式魔術の特級は、プロキア式魔術の第四位と同等だ。土砂の波と荒れ狂う風が、真正面から激突する。

 だが、相性と魔力の質はサリエラに軍配が上がり、サクラは暴風に吹き飛ばされ、背中から家屋に衝突した。


「ぐぅ……こりゃ強いわぁ、転生者相手にようやるわぁ」


「天才に不可能などないからな!」


「ほな、わっちの能力も披露せんとなぁ」


 吐いた血を拭い、サクラは再び人を食ったような笑みを取り戻す。

 そして、パンと手を合わせると同時に。

 傍観者を含め、周囲全ての人間がサクラ太夫に注目した。


「全ての視線、集めさせてもろたわぁ」


「面白い。口ぶりからすると、収集の能力か!」


 だからどうした、とサリエラが杖を向ける。

 杖先の宝石が赤色に輝き始めた、そのとき。


「ッ!?」


「あら、わかってはったの。でも上手く防げないのはキツいやろなぁ」


 脇腹に強い衝撃を受けたサリエラが、飛び上がり顔を歪ませる。

 何が起きたのか確認したくても、顔が花魁の方に固定されているため叶わない。


(なぜヒロ達は……そうか、奴の能力!)


 ヒロもレティシアもエリーゼも、意識が花魁に集中させられている。

 そのため、サリエラに不意打ちを放とうとしていることすらわからなかった。


「思った以上に厄介だな、その能力!」


「そっちも、随分な胆力で。と、それは嫌やなぁ」


「アイツ、あんな身なりなのに素早い!」


「せめて彼女に起きた異変を確認したかったのですが!」


 ヒロが散開して宮廷魔術師を視界に収めようとするが、花魁が屋根に飛び移り、高下駄を鳴らしながら疾駆する。

 一方のレティシアはエリーゼを守りつつ、敵の能力の法則性を見出そうとしていた。


(観察しろ。何かあるはずだ、不意打ちのタイミングが!)


 ヒロはサリエラの異変を探ることを諦め、サクラ太夫を追い詰める作戦に切り替える。

 そして屋根に飛び上がるため、黄色い狩人の装備を顕現させる。


「シッ!」


 瞬間、弓の付けられた腕を構え、数十発の光の矢を発射する。


「エグいことしはるなぁ。けど」


 だがサクラはニヤリと笑みを浮かべながら、指を密着させた手のひらを差し出す。

 すると矢の向きが一点に集中し、そして刺さる前にで止まった。


「ほな、倍返し」


 花魁が腕を振るうと同時に、光の矢は踵を返してご主人へと牙を向く。


「想定内ッ!!」


 ヒロも負けじと同量の矢を放ち、撃ち落としつつ敵との距離を詰めた。

 飛び道具は効かない。ならば拳を叩き込む。

 そう振り上げたとき。


「ヒローッ! ()()だぁーーッ!!」


 不意打ちの正体を看破したサリエラが叫んだ。


「鉄!? れ、戦士装備レッドフォーム!!」


 警告を受けたヒロは、咄嗟に防御力の高い紅の鎧兜へと換装する。

 一拍おいて脇腹へと引き寄せられるように飛んできた砂鉄の塊は、最強の鎧に弾き飛ばされた。


「あら、バレてまったわぁ」


「手の内は見えた。この悲劇を、ここで」


「手の内ってのは、たくさん用意してこそやろ?」


 突然、ヒロの動きが止まった。

 どこからともなく現れた、緑髪で右目を隠した細い体躯の男が、二振りの刀を戦士の腹に突き刺したのだ。


「鎧の、上から……?」


「……くたばれ……」


 蚊の鳴くような細い声で呪詛を吐くと同時に、刀に力を込めて振り抜いた。

 咄嗟に後ろへ下がり致命傷を避けようとしたが、背後に注意を向けられないせいで足を踏み外し、屋根から転げ落ちてしまう。


「流石のお手前やわぁ。バケバケ皇子」


「……ボクの、サクラたんに……手を、出すな……」


「けどなぁ、その言い草ははキショいわぁ」


 猫背の皇子に花魁は軽口を返す。


「ヒロ、無事か!?」


「なんとか。だけど」


 互いにサクラ太夫を注視しながら声を掛け合うシュールな光景の中、ヒロが冷や汗を垂らしながら白い着物の男を指差す。


「気配断ちだけじゃない、あの刀だ。装備の硬さを完全に無視してきやがった」


「……皇子一人ひとりに配られる秘剣……ボクのは『ヨミノニクヲタチ』……」


 二振りの刀に浮かぶ霊魂を模した白磁の模様が、ゆらゆらと淡くゆらめいている。


「……モリモリでは、ボクたちに勝てない……」


「ほな、大人しく降伏しなさいな」


 余裕綽々な二人の言葉を受けたヒロは。


「――()()するのは、そっちの方だ」


 命を奪わない勝利条件を受け、解き放たれた獣のような笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ