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第72話 第三皇子の侵攻②

 一方、ヒロは緑色の豆型モンスター『マノメ』と、十数分に渡る死闘を繰り広げた。


「疲れたぁぁ……」


 マノメは何十もの茎を鞭のように振るい、ヒロの身体を抉り取ろうとしてきた。

 最初は何度も攻撃を受けていたが、防御力の高い戦士装備レッドフォームで防いでみせていた。

 だがそれも長くは続かず、戦士装備が限界を迎えて破壊された頃。

 ようやく目が慣れたため鞭打ちを避けながら近付き、死神装備パープルフォームで茎を伐採し続け、最後はマノメを根本から伐採したのだった。


「強すぎる……本当に家畜化できてるのかよ、これ」


「祠の外には出られないようにしているため問題ございません」


「いや、倒しちゃったんだけど」


「実質無限に増やせるので問題ございません」


「え」


 てっきりモンスターが一体だけかと思っていたヒロは、ヒノワ皇国の転生者レティシアの返答に対し、素っ頓狂な声を上げた。


「かつてヒノワの地に転生してきたモンスターの遺物ドロップアイテムの能力が、自身のクローンの生成でした。それを応用し、マノメの家畜化に成功したのです」


「随分と凶悪で強力な家畜な気がするんだけど?」


「祠の外には出られないようになっているため問題ありません。それと」


 説明を聞きながらマノメの実をすり潰していたヒロに、レティシアが呆れながら問いかける。


「先ほどから何を作られているのですか」


「ずんだ餡だよ。マノメが枝豆みたいだったから、この後麦餅にでも付けてみようかなって」


「それ、マナ化しますよ」


「え。だって魚や肉じゃあるまいし」


 何を馬鹿なと言わんばかりに塩や砂糖を混ぜようとしてすり鉢の中を覗き込む。

 だが、ずんだはすっかり光粒子と化していたのだった。


「あーー!?」


「エダマノメは茹でて食べなければダメです。そもそもマノメは植物とはいえモンスター、目のような実以外は肉や魚と同じですぐにマナ化します」


「肉や魚もミンチはダメだしな。それに種……じゃなくて実以外だと、もやしくらいしか思いつかないや」


「モヤシマノメも居ますよ。殿様がギリギリ倒せるかくらいのレベルですが」


「ってことは……」


「お察しの通りかと」


 青ざめるヒロに、容赦なくレティシアが続ける。


「いまヒロ様が倒されたものがエダマノメ、マノメの中でも上位の強さです。成長度合いで言うなら、モヤシマノメ、ハナマノメがおり、その次ですね」


「ってことは、それ以上になる……大豆みたいなのに」


「ええ。ですがマノメの寿命は短いため、問題ございません。また栽培器を使えば良いだけの話です」


「命が粗末に扱われすぎてる……」


 ヒノワ皇国上流の道徳に嫌悪感を示していた、そのとき。


「っ、危ない!!」


「そのようですね!」


 同胞を討たれた恨みか、おどろおどろしい姿をした豆型モンスターが、枝のような茎を二人に刺そうとしてきた。

 咄嗟にかわすが、それが大地に刺さると同時に、栄養素を吸収し始め、フワフワとしていた足元の土をサラサラの砂へと変えた。


「……さっきとは全然違うじゃんか」


 目も身体も茶色、そして巨大。堅牢かつ鋭利な数百もの茎を翼のように広げ、飛翔していた。

 肌でわかるほどに、エダマノメとは危険度が段違いだと痛感できていた。


「マノメの進化の果て、オオマノメ。これを軽々と倒して、初めてシゲシゲ様と互角に戦えるようになるかと」


「そこまで強いのか……!」


「ちなみに私はエダマノメまでしか倒せたことありません」


「じゃあ死ぬかもしれないってこと!?」


「頑張ってください」


「無責任!?」


 ヒロがレティシアに目を向けた瞬間、オオマノメが剣のような茎を何十本も向けてきた。

 剣のように振るい、また槍のように突き刺し、そして槌のように叩きつけてきた茎の軌道を、ヒロはギリギリでかわし続ける。


「っあ!?」


 だが、茎の数が多すぎた。

 先回りするかのように飛ばされた茎が、死神装備パープルフォーム越しにヒロの左腕を抉る。

 対するヒロも負けじと大釜を振るい、茎を切除しようと試みた。


「っ、硬ぁ!?」


 まずは細い茎を断とうとしたが、まるで鍛え抜かれた金棒を断とうとしているかのようだった。

 そして少しヒビが入った茎をブンと横薙ぎにし、ヒロの身体を後方へと吹き飛ばした。

 なんとか体勢を立て直そうとするが、再び数十もの針のような茎がヒロを襲おうとする。


(こういう時こそよく観察しろ。敵はどうやって俺の動きを察知している。どうやって攻撃を繋げている?)


 師匠から教わった、格上との戦いにおける戦法。

 あらゆるものを観察し、弱点を見出し、周囲の地形を最大限に利用して戦う。


(あの目はフェイクだ、茎を向ける方向を全く見ていない)


 目のようなマノメの実の視線は、常に獲物へと向いている。


(そしてレティシアさんの気配も消えている)


 近くに居るはずのレティシアに向けては、オオマノメが全く攻撃しようとしなかった。


(つまり、察知しているのは……)


 獲物の身体を構成するマナ。

 そしてマノメの実は、マナを感知するためのセンサー。

 だが、これが分かったところで、ヒロは自身のマナをどうにかする方法を持っていなかった。


「カラクリは解けたけどおお!」


「ヒロ様!」


 無数の茎をかわすだけで一杯一杯になっているヒロに、レティシアが叫ぶ。


「全身を大気と一体化するように意識してみてください!!」


「空気になれってこと!?」


 驚愕の声を返すが、ヒロは攻撃をかわし続けるのも限界に近づいてきた。

 そのため藁にもすがる思いで、レティシアのアドバイスを実践する。


(イメージしろ。教室で絡まれたくないため、机で寝たフリをして空気になろうとする姿を!)


 ヒロは中学時代を思い出していた。

 尋に悪絡みしてきた生徒は、裏で真央にシメられていた。

 そのため、昔から友達が真央だけだった尋は、どうにか被害を減らそうと寝たフリや空気化が上手くなったのだ。


(……攻撃してこない?)


 黒歴史の発掘を哀れんだのか、嵐のように降り注いでいた茎による攻撃が、ピタリと止んだ。


「なんという見事な気配断ち……」


「何も嬉しくねえよ!!」


 素直に感服するレティシアに涙目で返しながら、一気にマノメへと距離を詰める。

 そして死神装備パープルフォームの鎌を、一振り。

 常闇色に閃が走り、太く堅牢なマノメの身体は、根本から折れて吹き飛ばされた。


「……一撃で伐採できちゃったよ」


「私のほうが驚きですよ。オオマノメをワンパンなんて、もう修練の意味無いじゃないですか」


 レティシアは引き気味に、マナ化するオオマノメに視線を向けていた。


「てか、なんで急に切れ味が増したんだろ」


「マナと意識を一体化したためです。マナは想いを実現する万能元素、大気という隔たりを薄めれば薄めるほど、想いを強く伝え、高いパフォーマンスを発揮できるのです」


「いまいちピンとこない……」


「私たち転生者が強い理由は、基本的に身体を構成しているマナの濃度が高いから。だから少ない力で高いパフォーマンスが発揮できる。ということです」


「なんとなく、ピンときたような来ないような……あ、俺の最強装備も似たような理論ってことか!?」


「それです。その装備のマナ濃度が非常に高いため、装着するだけで強くなれるのです。ともかく今の感覚を忘れないでください」


「……へえ〜」


 全てを理解したヒロは、調子に乗ったような悪い笑みを浮かべる。


「なら、まだ能力縛りが残ってるなぁ」


「えっ」


 そして装備を解除し、他のマノメにズカズカと歩みを進める。


「攻略法はわかった。行けるならドンドン上を目指さなきゃなぁ!!」


 そう慢心して挑んだ結果、最強装備の無いヒロは気配断ちに失敗し、一瞬で腹の中心を貫かれて気絶した。

 すぐにレティシアに回収され、大嵐の後に目覚めた部屋へとリスポーンすることになった。

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