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第70話 皇位の継承戦⑤

 レティシアに案内されるがまま、ヒロはアマノガ領を歩いていた。

 そこは、まさに日本の原風景といったような場所だった。

 緑が豊かで、あぜ道があり、そこを和装を纏った飛脚が通る。

 まるでタイムスリップしたかのような光景に、ヒロは興奮を隠し切れずにいた。


「それでそれで、マノメってのは?」


「ここです」


「これ、禁足地とかじゃないよな?」


 そう、ワクワクしながらレティシアに返していた。

 目の前に立ち塞がるは、岩肌を背に建てられた木造の祠。

 そして魔術などに用いるのであろう、魔力の込められた御札が、所狭しと貼られていた。


「確かに本来は立ち入り禁止です」


「そっか……じゃあ」


「修練や祭事以外は、ですがね」


 祠を開けた先には洞窟があった。


「いいの? 行っちゃう!?」


 いかにも冒険や探検といったイベントに、ヒロの心はすっかり少年のようになっていた。

 洞窟を越えると、その先にあったのは腐葉土の広がる豊かな森だった。

 空気が湿っているためプロキア地方の豊穣の森ほど快適ではなかったが、独特の魔力で織りなされた空気が、一気にヒロの緊張感を高めていた。


「道中は薄暗い森以外なにもありませんし、皇位継承戦についてお話し致します。後ほど、お仲間との合流に役立つやもしれません」


「本当? 助かるよ!」


 ヒロは周囲を見渡しながら、レティシアの後を追う形で足を進め始める。


「先代皇帝ウラカワ・ノビノビ様が半年前、病にて崩御あらせられました。末期ガンのようなもので、治癒魔術での解毒や回復も望めなかったとのことです」


「……魔術で治らない病気もあるんだな」


「魔術は万能ですが、全能ではありませんから」


 なるほど、とヒロの打った相槌を聞き、レティシアが続ける。


「ヒノワ皇国では、皇帝の死後半年間で現れた転生者を配下にした皇子が継承権を得ることができます。皇子は各藩主の下で育ち、藩主と共に領土を収めながら皇帝に尽くすよう命じられるのです」


「え、そりゃまた何で」


「藩主の監視をしつつ、政治を覚え、皇民の内情を知り、解決策を講じられるよう努める……とされております」


「なるほどな。でも継承権を得るのは皇子なんだろ、藩主は何も言わないの?」


「支援した皇子が皇帝となれば、その藩や領民も手厚く保護されます。そして、藩主は皇帝直属の臣下として栄華を満喫できる、そのため不服を申し出る者は少ないそうです」


「転生者も同じく……ってわけか」


 レティシアが小さく頷き、続ける。


「皇位継承戦では、予め定められた皇子、藩主、転生者のいずれか二名の命が失われたら、その陣営は失格となります。これを最後の一陣営となるまで繰り返し、勝ち残った陣営が新たな皇帝となります」


「ちょっと待って。勝ち残っても皇子だけ死んだらどうなるんだよ」


「その場合、基本的には藩主と転生者が合意した上で皇子の中から指名した一名が次期皇帝となります。歴史上、藩主が皇帝になったことも数度ありましたが、その度に謀反を起こされ無惨な結果に終わったそうです」


「うげえ、そりゃまた……で、俺はどういう扱いになるんだよ」


「ターゲット外の兵として扱われます。継承戦では、人脈やカリスマ性も肝となりますので」


「あくまでもモリモリ公やレティシアさんが死ななければいい……ってことか」


 そう返しながら、ヒロは手を顎に当てて考え事をしていた。


「……命を奪わない方法を模索している様子ですね」


「まあな。風習とはいえ、命が必ず奪われるってのは嫌だからさ」


「そのためにも、貴方には更なる力を身に付けて貰わなければならないのです」


 目的地に着きレティシアが急に足を止めたせいで、ヒロは前のめりに転びかけてしまった。

 そして顔を見上げると、生暖かく昏い森の中から六つ、球体が深緑に光り輝いていた。

 ギョロリ、ギョロリと回転するそれは、まるでクモの眼を彷彿とさせる。


「これは……モンスター!?」


「半分正解です」


 レティシアと共に体長五メートルはあろうかという化物の瞳を凝視していると、雑木林の中から、その本体が姿を現す。


「植物……いや」


 六つ目に見えていたソレは、三つずつ連なった実のような目だった。

 細長い身体に何個も身につけたサヤのような眼と、何百と生える鞭や触手のような茎。


「家畜化したモンスター、『魔目(マノメ)』です」


「家畜化……ってこれ、豆ぇ!?」


 マノメが触手を震わせながら、住処に侵入してきた人間たちを威嚇した。


〜〜〜〜〜〜


 一方その頃、ミライは嫌というほどに乱立した竹の森で目を覚ました。

 ヒノワの竹は葉が広葉樹のように生い茂っており、おかげで晴天の中でも暖かな木漏れ日を浴び続けることができた。

 とはいえ幹のような部分、かんは玉鋼のような硬度を誇っていた。

 そのためぶつかった頭にタンコブが出来てしまい、眼をこすりながら、むっと頬を膨らませていた。


「……で、ここどこ」


 はぐれてしまった仲間を探すべく、竹林を征く。

 しかし目印といったものもなく、すぐに迷子となってしまった。


「むっ、流石にこれはまずいかも」


 食料はタケノコがあるとはいえ、仲間の安否はわからない。

 もしかすると、何処かで飢えているかもしれない。


「……一人って、こんなに寂しかったんだ」


 すっかり平気だったはずの孤独が、妙に心を萎ませるものとなっていた。

 こうして心を摩耗させながら竹林を歩くこと、数十分。


「あ、あれって」


 ついに、はぐれた白い塊を発見し、駆け寄った。


「マオ、起きて。無事なら返事」


 気を失っている狼の身体を揺らし、起こそうとする。

 やがてそうしているうちに、マオの瞼に力が入り、そしてゆっくりと眼を開けてミライの方を見る。


「……尋くん?」


「えっ?」


「ぅえ?」


 白い狼が言葉を発した。

 そして、共に転生した幼馴染の名を呼んだ。


「マオ……貴方、喋った?」


「あ〜……なるほど、魔力切れちゃったか。こりゃ暫く翻訳効いちゃうね」


 あまりにも流暢に喋りながら立ち上がる狼に、ミライは思わず後退りする。


「そういや、ミライちゃんに自己紹介してなかったね。わたしは城山……あ、いや、マオ・シロヤマ」


「うん、知ってる。ヒロから聞いてる、だから」


「そして。尋くんの、姫です」


 その爆弾発言を受けて脳がキャパオーバーしたミライは、その場で失神してしまった。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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