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第68話 皇位の継承戦③

「原初の転生者と、同じ?」


 モリモリの漏らした言葉に、ヒロは息を呑んでいた。

 自分の能力と、原初の転生者の能力が同じ。

 頭の整理が追いつかず、思わず開いた両手を見つめていた。


「そうじゃ! ちょっと待っておれ」


 そのままモリモリは駆け出し、そのまま慌ただしく紅色の葛篭つづらを運んできた。

 そして、中に入ったアルテンシアの歴史が記された書物を広げ、ヒロの疑問に答え始める。


「はるか二千年前、何の前触れもなく異世界から男が現れた。名を『ハルマ・キサラギ』といい、目が覚めたらアルテンス教皇国の祭壇に居たそうじゃ」


「前触れも? そのとき召換術式は無かったのですか?」


「うむ、術式が確立されたのはずっと未来の話でおじゃる。わかっておるのは、()()()()なる荷車に轢かれて来た、そうでおじゃるな」


「こりゃまた……」


 なんてベターな転生だとツッコみたくなる気持ちを抑え、モリモリの言葉に耳を傾けなおす。


「とにかく、強かった。眉唾物じゃが……通っただけで全てを倒した、あらゆる魔術を一瞬で唱えられた、数十もの女に囲まれ余生を過ごした、などなど。そんな無茶苦茶な伝説が各地で伝わっておる」


「あっ、確かにプロキアの劇場でも、二千年前の英雄譚を再現した演劇をやってました!」


 ヒロは白猫の爪団(キャトナイラ)に住み込んでから、休日に演劇を見に行くことがあった。

 ハンマという英雄が、超常的な力でモンスターで溢れた世界を救う英雄譚。

 最後は多くの女仲間を従えながら世界に平和をもたらした、という内容だ。


「ふむふむ! プロキアでは別の形で伝わっているのじゃな!」


「……正直共感できなかったので、モリモリ公のお話を聞くまで記憶から消えていました」


「そうか? 全能になった気分がして最高じゃ、それに歴史的価値もある!」


「感性は人それぞれでしょう。ここで論じるのも野暮というものですよ」


 ヒロと主人が言い争いになりかけたため、レティシアが二人を冷静に仲裁した。


「……あれ。俺の能力と関係あります?」


「そこで、この風化しかけた手記じゃ」


 モリモリがニタァと口角を上げ、葛篭の二段底を外す。

 すると中から、保存状態が悪かったためか表紙が朽ちかけている手帳が姿を表した。

 それを第六皇子が、大事そうにめくり、ヒロとレティシアに見せる。


「ええと……これは何の記録です?」


「なんと千年以上も前の皇帝が秘密裏に記した、ハルマの最強装備の捜索記録じゃ!」


「最強装備を!?」


「正確には、ハルマの遺物ドロップアイテムを探していた……ということでしょうか」


「さすがワシのレティシアじゃ! 遺物は上手く加工すれば、生前の能力をある程度再現できる。そして、それを知った方法が」


「転生者が大国宝に触れ、その内容を当時の皇帝に伝えた……」


「そうじゃ! だからこそ、お主たちに話したのじゃ。この手記も、教皇国にバレれば焚書一直線じゃからな」


 大国宝は、五大国が如何なる手段を取ってでも守り抜きたい、そして他国の物を手にしたいと願い続ける代物だ。

 保有するだけで、その大国の全権限を得ることができる。

 そんな滅茶苦茶な戒律を定めたアルテンス教皇国にとって都合の悪い情報が、この秘宝には詰まっているのだ。


「……話が見えてきました」


 ここまでの話を聞き終えたヒロは察した。

 モリモリは、歴史学に強い浪漫を感じる男だ。

 そして、余所者の転生者を助け、かつ大国宝の話をも出した。


「つまり、この皇位継承戦に、俺もモリモリ公側で参加してほしい。そして」


「うむ。ワシはこの城で引きこもる故、守り抜いてほしいのじゃ!」


「そういうことですね……えぇえ??」


 半分は想定内だったが、もう半分がぶっ飛んでいたためヒロが上擦った声で二度見する。


「え、攻めるとかじゃなく? 引きこもる?」


「当たり前じゃ! ワシは戦争なんて嫌じゃ、戦いとうない、じゃが皇帝の座も大国宝も欲しいでおじゃる!!」


「ガキみたいなこと言ってんじゃねえですよ!?」


「ガキとは何じゃ! ワシは二十五でおじゃる!」


「これでウォルターより五歳も上かよ!!」


 駄々を捏ねて屁理屈を述べる餓鬼大将に、とうとう大声でツッコミを入れてしまった。


「補足します。皇位継承戦は、三ヶ月前からの異世界召換術式にて召喚された転生者を従えた皇子が自動的にエントリーされる、というものになっております」


「なるほど……それで、参加するためにレティシアさんを臣下に」


「いえ、このアマノガ藩に落ちてきた私を見て『世界の終わりじゃああああ!!』と叫んで泡吹いてました。モリモリ公は野心家の癖にクソ雑魚チキンですので」


「流石に言い過ぎじゃない?」


 だが、顔の穴という穴から液体を垂れ流しながら駄々を捏ね続けている皇子様を一瞥し、言い過ぎでもないのかもと考えを改めかける。


「ともかく、貴方には是非この戦争に参加していただきたい。どうか、お願い致します」


 レティシアはチビ将軍を背に、深々と頭を下げる。

 だが、ヒロの答えは決まっていた。


「いちど、仲間と会わせてほしい」


「言ったはずです。他の領土に入らない限り」


「わかってる。けど、俺はヒノワ皇国の鎖国を辞めさせる目的で来ているんだ。だから、少なくともウォルターには会って話して、それから決めたい」


「……」


「まだこの国のこと全然知らないしさ。会えなかったときにも答えが出せるよう、この目で色々と見てから判断したいんだ」


 レティシアは、ずっと目を伏せていた。だが、ヒロなりの考えがあることを理解し、こくりと小さく頷いた。


「嫌じゃああ! 誰が助けてやったでおじゃるか!?」


「ええ。なので町で良い食材を買って、美味しい料理を作りに戻ってきます」


 そのままヒロは正座を崩して立ち上がり、一礼してから寝室を後にした。


〜〜〜〜〜〜


 廊下へ出ると、モリモリの家臣と思しき着物を着た女性がヒロを待っていた。


「お出かけされるのですか」


「はい。ちょっとヒノワの町を見てこようかなと。そういえば、俺の荷物って」


「お荷物はこちらで預かっております」


 そのまま、階段を一つ下がった先の部屋に案内される。

 女性が襖を開けると、そこにはヒロが腰に着けていたバッグと選択された白い普段着、そして能力を使用できない状況のための剣が壁越しに飾られていた。


「おっ、ここまで大切に用意してくださったのですか……ありがと」


 そう、お礼を言おうと振り向いた瞬間。

 先ほどまで穏やかだった女中の笑みが氷のように冷え、そのまま襖をピシャリと強く閉め切ってしまった。


「え、ちょっと?」


 異変を感じたヒロが、すぐさま閉められた襖をバンと開けた。


「……やられた」


 その先に広がっていたのは歩いてきた廊下ではなく。

 内装こそ違えど、今ヒロがいる部屋と同じ形をした部屋だった。

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