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第67話 皇位の継承戦②

「……ぅう」


 ヒロが目を覚ますと、木造の天井が目に入ってきた。

 身体の感触から、どうやら何者かによって布団に寝かせられていたのだなと知覚する。

 そして布団の寝心地や畳や襖の質から、かなり身分の高い者に助けられたのだと判断した。


「気が付きましたか」


 そうヒロが目を動かして状況を整理していると、白い髪をポニーテールに結んだ、水晶のように綺麗な瞳を持つ少女が、正座をしながら顔を覗かせてきた。

 白く美しい肌に、西洋系の端正な顔立ち。細く長い手足と程よく膨らんだ胸と尻も合わさり、動きやすそうな丈の短い和装を着ているにも関わらず彫刻のような美しさを感じさせる。


「……真央……じゃないな」


「誰ですかそれ」


 寝ぼけた赤髪の転生者に、白い美女がジトっとした目でツッコミを入れる。


「ここは……あと俺だけ?」


「はい。沖に流されているのは貴方だけでした」


「マジかあ……助けてくれてありがとな。俺はヒロ、ヒロ・ナカジマだ」


「そうですか。あと助けたのは殿様の意向ですので」


「殿様?」


 ヒロが首を傾げていると、勢いよく襖がバンと開けられる。


「おーおー、ようやく目覚めたでおじゃるか!」


「ぅえ」


 そして妙に甲高く掠れる声と共に入ってきた男を一瞥したヒロは、思わず目を丸くし始める。


「貴方様が……殿、様ぁ?」


「む、そうじゃが。悪いか!?」


「いや悪くはないですけど……」


 そのままマジマジと、正月かと言わんばかりの金ピカ和装を身に纏った男を見つめる。

 背丈はヒロのヘソほどしかなく、ゴツゴツとした岩のような顔。

 そして黒目は小さく、チョンマゲはしてあるものの落武者のように後頭部がハゲており、何より唇は異様に大きく、そして黒紫色に澱んでいた。


(小っさいし、ブサイクだし、それに弱そぉー……)


 ヒロの感じた第一印象は最悪だった。

 頼むからコイツがウラカワ・モリモリではない、むしろウラカワ家じゃありませんように、という願望すら込めるほどだった。


「ぬぅっ! お主、ワシが第六皇子ウラカワ・モリモリだと知っての目かソレはぁ!!」


「うわマジでモリモリ公だったよ」


「うわとは何じゃ、うわとは!!」


「よくワタシのような美人が仕えているな、とお思いですね。わかりますよ」


「おいレティシア、お主減らず口を叩くでない!」


「本当すみません!! ほんっとうにごめんなさいでした!!」


 普段見た目で差別をしないくせに不快感を露わにしてしまったことを、ヒロは全力の土下座で詫びていた。


〜〜〜〜〜〜


「つまり、レティシアさんが浜辺に打ち上げられていた俺を回収した……と」


「はい。あと何故私の名を知っているのですか」


「モリモリ公が言ってただろうが!?」


 ミライのように、なぜこうも名乗りたがらない人に拾われるんだと頭が痛くなる。


「それで思い出したんだけど、他にも白い狼とか空色の髪をした子とか、他にも色々。打ち上げられてなかった?」


「いえ、貴方だけでした」


「……そっか」


 ヒロは俯いた。皇国を守るような大嵐に呑まれた仲間のことが心配だった。

 身体がバラバラになりそうな感覚と、鼓膜を爆破させんほどの轟音。

 そんな中でもヒノワ皇国に辿り着き、また五体満足で救助されたのは、もはや奇跡と言っても過言ではなかったのだ。


「ただ、打ち上げられたのは貴方だけでしたが、銀の髪とプラチナのローブを着た子供が、杖と金髪の少女を手にフワフワと浮いているのを見ましたよ」


「本当か!?」


「ええ。ヒノワでは見慣れない恰好だったため、恐らく貴方のお仲間かと」


「きっとサリエラとエリーゼだ。嵐の中で上手くキャッチしたんだな……何処に行ったかわかる!?」


「方向はわかりますが、近付くのはやめた方が良いかと。他の領土でしたので」


「え、関所とかあるの?」


「そうじゃ! プロキアやバサナとは違うのじゃ」


 モリモリがヒロの正座している膝を踏み付け、顔を指差しながら続ける。


「ヒノワ皇国は、基本的に他の領土への自由な往来は出来ん。ワシのような皇子と大名が土地を収めとるからのう!」


「縄張り争いとかも多そうですねそれ……」


「はい。お察しの通り、現在は継承戦間近のため取り締まりも厳しくなっています」


「マジかぁ……」


 ヒノワ皇国のシステムに頭を抱えかけるが、すぐに歴史の授業で聞いたような制度だと飲み込み、顔を上げた。


「でも、生きているだけでよかった」


「……そう思ってくれる者が居るだけで恵まれとるのう」


「大切な仲間で、友達ですから」


 ヒロの表情とは裏腹に、モリモリの顔には陰りがあった。


「はい切り替えますよ。ところで貴方は転生者でしょう、能力を教えていただいても?」


「え、ここもそういった手続きが必要なの?」


「はい」


「うえぇ。そういった書類は、ウォルターが持ってたからな……」


 ヒロがプロキアへ転生してきたばかりの頃を思い出し、頭を抱える。


「そうであれば、せめて能力だけでも。後は私のほうから上に言っておくので」


「まあ、それなら。俺の能力は『最強の装備』ってモノらしくて、文字通り最強の装備を出せる能力なんだ」


「最強の?」


「ああ、例えば……戦士装備レッドフォーム


 ヒロがポーズを取ると同時に身体が赤く輝き、真紅の鎧兜を顕現させた。


「続いて、狩人装備イエローフォーム。超絶速い弓矢を何本も射てる」


 その流れで、今度は黄色い狩人風の装備へと切り替えた。

 レティシアのほうは感心したように拍手を送っていたが、モリモリは違った。


「お主、本当に最強装備を……」


 まるで、目の前に存在するはずもないようなものを目にしているかのように、震える手を伸ばしながら呟く。


「伝承にある、原初の転生者。その能力と同じ……」


 最強装備の秘密が、少しずつ解き明かされようとしていた。

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