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第63話 大国の秘宝③

 翌朝。

 ウォルターに指示された通りプロキア城門前に集合したヒロ達は、衛兵のもと玉座へと通された。

 

「……ひょっとして、玉座に来たことないの私だけ?」


「そういやミライだけか。まあ職員室や歯医者みたいなものだから大丈夫だよ」


「え悪いことした前提?」


 ヒロは以前、転生者を相手にした兵士を労わない国王や貴族に対し、ウォルターが怒りを露わにした現場に居合わせていた。

 ジークも勇者として、サリエラも宮廷魔術師として国王と謁見する機会は多々あった。


「扉の前に着いたよ。そろそろ、気を引き締めないとな」


「ひゅっ」


 扉の先には、近衛部隊と王侯貴族が立ち並んでいた。

 視線は扉の向こうにいる勇者たちへと向けられており、ミライは身を震わせてウォルターの陰に隠れようとしていた。

 一歩、また一歩と、社会的なステイタスを有する者たちの作った道を征く。

 そして玉座へと続く赤い階段を直前にしたところで、ヒロとウォルターは同時に跪いた。


「頭を垂れ、跪け」


 白いカーテンで仕切られた玉座の先から、あらゆる贅を知り尽くしたかのような威圧的な声が響き渡る。

 だがしかし。ミライ、サリエラ、ウォルターの三人は、澄まし顔のまま平然としていた。


(アイツら何してんだぁああ!?)


 下を向いていた二人の顔は、あまり人に見せられないほどに歪んでいた。


「二度も言わせるな。頭を垂れ、跪け」


「敬えない人間に敬語は使いなくない」


「あんなことをしておいて忠誠心が残っていると?」


「僕は堅苦しいのが苦手だって、前にも言ったはずだよね?」


 それぞれ異なる思惑を持っていたが、三人は国王をゴミ同然に考えていたようだ。


「おい三馬鹿ども、せめて態度は示せ!? 上辺だけでもよいから!!」


「やだ」


「貴様らなあ!?」


 声の揃った否定に、ウォルターが思わず立ち上がり説教を始めた。

 仲間が一人脱落したため、ヒロは彼らを庇おうと汗を流し始める。


「誠に申し訳ございません! この三馬鹿には後でよく言い聞かせておきますから!!」


「まあよい。共和国の大国宝が手中に入り、我の気分が良いからな」


「は、大国宝を!?」


「元より、不遜にも王を名乗る蛮族とは、そのような契りを交わしておった。キョウヤ・シノハラの討伐と終戦の条件として、貴国の大国宝を寄越せ、とな」


「な、なんという……」


 どうせ後で奪い返すとか言いそうだな、とライオンの王に呆れていた。


「して、二つの条件を満たした貴様には褒美をせねばならぬ。何でも申してみよ」


「……本当に、何でもよろしいのですね?」


「叶うものであらば」


 ならば、とヒロが口を開ける。


「一度でよろしいのです。プロキア王国の大秘宝に、触らせてはくださりませんか」


「――ほう?」


 国王の声色が低くなり、より威圧的になる。


「何のつもりか申してみよ」


「モンスターを人間に戻す方法を知り、幼馴染を元に戻したい。それだけです」


「――貴様、共和国の大国宝に触れたな?」


 国王の影が指を動かすと、近衛兵が即座にヒロを引っ捕えた。

 当然パーティの仲間も捕らえられようとするが、ウォルター以外は、近衛兵たちの殺害も辞さないという姿勢を見せていた。


「貴様の行ないは、王国への叛逆行為にも等しい。本来は死罪であるが、恩赦を以て褒美としてやろう」


「お待ちください! 真央を人間に戻したいだけなんです!!」


「謁見の時間は終わりだ。出てゆけ」


 そのままヒロ達は、近衛兵によって締め出されてしまった。


〜〜〜〜〜〜


「うーん、やっぱしキツかったか」


「もしや、と思ったのだがな」


「畜生あのクソ君主! 最初からヒロに褒美を渡す気なかったぞアレ!!」


「見事に権威を見せつけるための咬ませ犬にされちゃったね」


「あの王が親族以外から名前を呼ばれない理由、分かった気がする」


「……なんで貴様らシレっと居るんですの?」


 国王から締め出されたパーティは、その足でヴォルフガング邸で反省会を開いていた。

 するとウォルターの妹であるメリアが苛立ち混じりに首を突っ込んでくる。


「そりゃあ、我が招待した客人だからな」


「コイツらいつも居るじゃねえですの!? ここは下民たちの実家じゃねえですのよ!?」


「いや実家みたいなものでしょ。よく金が尽きたときに泊めてもらってるし」


「全くだな」


「もっと恥を覚えろ、このクズ共が」


 装備の新調や無駄遣いの多いジークとサリエラに、家主が怒りを抑えながら吐き捨てる。


「それと! お兄様は、いつペットを飼うとおっしゃいましたの!? あと転生者のメイドも!!」


「誰がペットだと? 私は仮にもバサナの元王、誰かに飼われる気は」


「バサナとか蛮族の集落じゃねえですの。名前だけの王に興味などありませんわ」


「何だとこの女郎!!」


「だあぁ、よせってライオンのおっちゃん! いまアタシ達は、帰るに帰れなくて雇われてる身なんだからさ!!」


「転生者とかモンスターと同族じゃないですの。近寄らないでくださる?」


「ヘイトスピーチか上等だこの女郎!!」


 ヴォルフガング家の新たな防衛隊長とメイドに命じられたシンヴァとサラが、家主の妹に殴りかかろうとしてジーク達に止められる。

 彼らは戦争後、プロキア側に付いた売国奴としてバサナ共和国に帰れなくなってしまった。

 そのためウォルターが職と寝床を用意し、その流れでヒロ達とも和解したのだった。

 全面的に攻め込んだバサナ側が悪いが、敵国によって歴戦の戦士の殆どが命を断たれたため、バサナの総意としてプロキアを親の仇のように憎んでいた。

 特に半数以上の命を奪ったヒロは『プロキアの魔王』と呼ばれ、畏怖の対象となっているらしい。


「本当に優しいよな、ウォルターは」


「財はあるが見捨てるのは目覚めが悪いだけだ」


「そういうとこだよ。見習うところばかりだ」


「……そろそろ本題に行くぞ。ジークの妹と弟も来たことだしな」


「また客人増やす気ですの!?」


 エリーゼとクルトがメイドに通されたのを見たメリアが、金切り気味な声で叫んでいた。


「さて、ヒロ達には既に伝えたが、我は国王よりヒノワ皇国開国の命を受けている」


「昨日側近にも確認してきたが、プロキアとの国交回復でも良いらしいぞ!」


「ん、プロキアは何かやらかしたの?」


「二割ほどは正解だな。ヒロも、あのクソ君主の傍若無人振りを見たろう」


「……他の国も原因?」


「アルテンスは我々を等しく下民と見下すため一方的に断交、そしてバサナは蛮族国家であるからな」


「貴様が私を匿っていなかったら今ごろ肉塊にしておったぞ」


 共和国の元王が、タテガミを逆立たせるほどの怒りを向ける。


「そして、もう一つの大国『パディス帝国』だ。ここは一番厄介だろう」


「え、厄介?」


「転生者の人権を決して認めず、生きたまま道具に作り替えていると聞くからな」


「げぇ、プロキアに転生してよかった……」


 ヒロは改めて出自が良かったのだなと自覚した。


「そこで、共にヒノワ皇国へ出立してくれるパーティを二名ほど募集したい。ヒロとミライ、そして自動的にマオは確定であるからな」


「はいはいはい! アタシアタシ!!」


「当然ワタシも行くぞ!!」


「よし決まった……ぬ?」


 元気よく手を振って立候補した金髪の少女に対し、ウォルターは眉をひそめていた。

 サリエラは新しいもの好きな性格のため理解できたが、何の能力も持たない村娘のエリーゼが立候補するとは思いもしなかったのだ。


「貴様、これは遊びではないのだぞ」


「わかってます。バサナで色々なことが学べて、凄く成長できました。だから、ヒノワに行って更に色々なことを学びたいんです!!」


「皇国の人間は余所者に厳しいと聞く。自分で身を守れるジークやシンヴァ、サラの方が良いと思うが」


「僕はパス。悪い転生者やモンスターから皆を守らなきゃね」


「私はバサナの王だ。護衛としてヒノワへ足を踏み入れるわけにはいかぬ」


「アタシも長旅とかダルそうだからパスで」


 ウォルターの挙げた候補は、全員乗り気ではなさそうだった。

 そのためかエリーゼの視線も、自然と強くなってゆく。


「大丈夫だよ、むしろバサナではエリーゼに助けてもらってばっかだったし」


「……ぐぬぅ」


 ヒロのフォローを聞いてウォルターが唸る。

 そして観念したかのように、重くなった口を開く。


「帰ったら日記を提出すること。あとヒロから離れないこと。よいな」


「あ、ありがとうございます!」


 エリーゼが顔を輝かせて一礼し、直後に笑顔でヒロの手を取った。


「ありが」


「卑しい女……むんっ!」


「ワタシも混ぜろー!!」


「とぉおぉおおお!?」


 それを察知したミライとエリーゼが急に入り込んだせいで、エリーゼはヒロごと押し倒されてしまった。


「ほんっと、お前らマジで仲良くしろよな!?」


 掴み合いの喧嘩を始めてしまったエリーゼとミライ、そして無邪気に参戦したサリエラを見たヒロは、頭を抱えて呆れ果てていた。

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