第62話 大国の秘宝②
「これ以上の記憶は見れなかったね」
「うーん……サリエラ達に聞いてみたいな」
転生者たちは改めて、非常に年季の入った籠手に触れてみた。
だが先ほども流れ込んだ断片的な記憶が見えるだけで、これ以上の情報は得られなかった。
「遊びに来たぞー!」
「全く、騒がしいな」
そんな中、元気いっぱいなサリエラと呆れた様子のウォルターが、ちょうどよくヒロ達の元へとやってきた。
フワフワの銀髪を有する少女と、たっぱりと脂肪を蓄えた貴族が並ぶ様は側からみれば異質とも取れる。
しかし、彼らの出で立ちが気品溢れるものだったため、上流階級の散歩か公務なのだという一定の説得力を持たせていた。
「ウォルター様、ちょうど良かった! ヒロとミライが、この籠手に触れてからおかしくなったんだ」
「籠手……待て、それはバサナに関するものか?」
「ああ、バサナから届いたもので、先にヒロ達へ見せようって思ってさ」
クルトの無邪気な自白を耳にしたウォルターの顔色が、髪の色と同じくらいに青くなってゆく。
「……返してこい」
「え?」
ボソボソとした呟きを聞き直した少年に、ウォルターが鬼気迫る形相で飛び込み、肩を掴んでガクガクと揺らした。
「今すぐこれシンヴァ王に返してこい! 王国にあっちゃマズすぎる、これ本当にダメなやつであるぞ!」
「む、そこまでダメなやつか? 『神の人差し指』だろう、持っているだけで、バサナ共和国の全権限を有せる大国宝」
「え何それぇ!?」
「待って、どういうこと!?」
ぞんざいに扱っていた籠手がトンデモない代物だと聞いた転生者たちも、ウォルターと同じくらいに顔を青くした。
そしてサリエラは、事の重大さを理解しているのかいないのかわからない様子で続ける。
「だから、これ持ってるだけで共和国のトップに君臨できるのだ。土地や国民も思うがままに出来る」
「はぁぁ!?」
「ど、どどどうして、そそんなルールが」
「すべての国の上に君臨する、アルテンス教皇国が決めた法だ。これを手にすることは、生殺与奪の権利を握るのと同じらしい」
アルテンシアには五つの大国があり、プロキア王国、バサナ共和国などの上に立つ国が、アルテンス教皇国だ。
アルテンシアの由来ともなった神の国で、天上から地上の国を管理している、とも言われている。
「……なんだそらぁ」
「えと、私たちがコレに触れたら、こんなことが起こって」
ミライが上司に事の顛末を報告する。
それを聞き終えたサリエラが、アゴに手を当て情報を整理し始める。
「なぜこのような法を定めたのか理由がわからなかったが、今わかった。絶対、転生者に触れさせないようにするため、か」
「なぜ太古の記憶を五つに分けたのかはわからぬが、教皇国に都合の悪い記憶だということは定か、ということか?」
「じゃなきゃ、国の存亡を賭けてまで厳重に守らせないだろう」
「……なるほどぉ」
無理やり納得させたような声を絞り出したヒロが、決心したように立ち上がる。
「でも、これからやることが決まった」
「すべての大国宝に触れる。でしょ」
「ああ。それで、真央を人間に戻す!」
「言うと思ったわ馬鹿どもが!!」
瞳を合わせて共鳴する転生者二人に向け、ウォルターが反射的に怒号を飛ばした。
「聞いていなかったのか!? 大国宝に触れられれば、国の存亡に関わるのだぞ。それゆえ全力で守るはずだ、貴様は全ての大国を敵に回す気か!?」
「わかっている。それでも、少しでも真央を人間に戻せる可能性があるなら、どんな手段を使ってでもそれに賭けたい」
「ふざけているのか! そんなことしたら」
「アハハ、つまりは五大国を回る長旅だな! ワタシも連れてけー!!」
「私も気になる。五つあるうちの一つを見ちゃったし、ほっぽり出すのもムズムズする」
「ああ、もうこの馬鹿どもが……!!」
額に手を当てて呆れたウォルターが、投げやりな様子で本来の用件を伝える。
「……国王が昨今の功労者たるヒロを労うため、明日に式典を開くと言ってきたのだ」
「え、突然すぎない?」
「あのヒゲは気分で生きてるからな」
「ヒゲて」
忠誠心がカケラも残っていないサリエラが、君主に対して酷い陰口を言い放つ。
それを意に介さずといった様子で、ウォルターがヤケクソ気味に続ける。
「その後、ヒノワ皇国へ出立するぞ。現皇帝が崩御あらせられて、再び開国させるよう命を受けたからな」
「ということは、上手くいけば二つも大国宝に触れられる……」
「おっ、ウォルターも乗り気じゃん」
「護衛も兼ねて、最高の翻訳と料理人を雇いたいだけだ!」
「またまた〜」
目を閉じて本心を否定するウォルターを見透かした転生者たちが、ニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべる。
「ともかく、明日は城門前に集合! いいな!!」
「待って! はいこれ、今日回収した遺物!」
「本当に助かる! ではな!!」
成金坊主のキメ顔を映したブロマイドのような遺物を受け取り、ウォルターは責務に戻っていった。
「あの遺物、呪物の類ではないのか?」
「ま、まあ、うん……」
対して単純に遊びに来ただけのサリエラが、半目を作りながらヒロに耳打ちしていた。




