第61話 大国の秘宝①
バサナ共和国との終戦を宣言してから、二週間が経った。
城下町自体の被害は殆ど無かったため元の活気を取り戻しつつあった。
しかし、町の外では別の問題が発生していた。
「嗚呼、なんと嘆かわしい。悪魔よ、私が穢れを浄化して進ぜ」
「お前が穢れだろうが!」
「グボァ!?」
ヒロは現在、転生者『ゲントク・レンゲイン』の言葉を盲信する犯罪集団の検挙に出向いていた。
大侵攻によって住民の居なくなった村に根城を築いていた坊主が、腹部を殴りかかってきた赤髪の転生者に、涙目で叫ぶ。
「貴様ぁ! 何をしでかしたかわかっているのかぁ!!」
「ゲントク・レンゲイン。獣人大侵攻で難民と化した村人たちを集めて好き放題する、カルト教団の教祖だな」
「カルトだと!? 貴様、神に対して何たる無礼を!」
「だったらどうして金品を奪わせる?」
「うっ!」
「なんで他の人たちに無礼を働く?」
「ぐっ!」
「そして何故、村の少女が王国兵に泣きついてきた?」
「うぐっ!!」
廃村の集会所にて罪状を突きつけられた成金坊主が、図星と言わんばかりに口ごもる。
信者も全て、ヒロに同行していた白い狼のモンスターにより、生命力となるマナを吸い取られて動けなくされていた。
白い服の代行者には真実しか通じない。観念したように、ゲントクが震える唇を開けて呟きはじめる。
「わ……私は、悪を断じていたに過ぎない」
「悪?」
「私は神の使徒だぞ! その私が悪と断じたものは悪、善と認めた者が善なのだ!」
「それ宗教じゃなくて独裁国家じゃん」
「黙れ異教徒め、浄化されよ!!」
「癒師装備」
ゲントクの能力は『霊魂の浄化』といい、あらゆる物を消し去る光を放つことができる。
これで難民たちの平常心を消滅させ、言いなりの木偶に仕立て上げていたようだ。
しかし、魔術や能力の類をマナに変換する最強装備を纏ったヒロは、まさに天敵と言うべき存在だった。
「浄化、できない……!?」
一瞬で間合いを詰めたヒロは坊主の喉元を杖先で突き、倒れ伏したところで武器を大きく振り上げる。
「お前は地獄行きだ」
「ま、待って」
そのまま力一杯に世界樹を模した杖を振り下ろし、ゲントクの輝く脳天をかち割った。
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教祖を討伐したおかげで解放された元信者たちは、ヒロの呼んだ王国兵に保護され、社会復帰支援を受けることになった。
それを見届けた足で、所属しているギルド『白猫の爪団』に帰還し、クエストの報告を行なっていた。
「ヒロさん、お疲れ様です! クトンゲ教の壊滅を確認したため、報酬の十万ギルになります!」
「すみません、九万ギルは預けておいてもいいですか?」
「はい、承りました! では金貨一枚をお渡ししますね!」
報告書と交換した金貨を握りながら、ひと息つきながらヒロが呟く。
「これで四件目かぁ……」
バサナ共和国の大侵攻から防衛するため、プロキアの国王は民の反対を押し切り、追加で異世界召換術式を緊急作動させた。
その結果、敵味方共に甚大な被害が発生し、さらに終戦後もモンスターや転生者絡みの怪事件が多発していた。
これを重く見た王国は、緊急クエストという形で各地の代行者ギルドへ解決を依頼していたのだった。
「普段だと、このような緊急クエストは一ヶ月に一度あるかどうか、なんですけどね」
「でしょうね……絵画の音楽隊、外壁人柱事件、永眠病、そしてクトンゲ教。もうやりたくありませんよ本当に」
「これも、国王が追加召換をしでかしたせいだね。僕たちの休日を返して欲しいよ」
「勇者ジーク! 月鯨はどうなりましたか?」
「ああ、しっかり仕留めてきたよ。最終奥義も使ったから、今日は店仕舞いにさせてもらうけどね」
爽やかな金髪と銀縁のメガネ、そして白金の鎧を見に纏うプロキアの勇者が、受付嬢に大量の遺物を納品してみせる。
それと引き換えに金貨が一杯に詰まった袋を受け取り、うんうんと頷いていた。
「すっげえ……ジーク、これで緊急クエスト何件目?」
「七件目。ヒロが起きてからだと五件目だね」
「うわ負けた! やっぱ凄えや!!」
「ふふっ、まだまだのようだね」
勝手に対決をしている二人を見て、受付嬢は乾いた笑顔を浮かべていた。
「そういや、クルトがヒロのこと呼んでたよ。なんか聞きたいことがあるんだってさ」
「マジか。さんきゅ、行ってくる!」
「転ばないようにね」
いつもに増してよく働くようになったヒロは、寝泊まりしているギルドの従業員スペースへ、ドタドタと上がり込んでいった。
「……まだ、僕が勝ってる」
それを見送ったジークは、自分の手を見ながら、安心したような笑みを浮かべていた。
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白猫の爪団は二階までを一般向けに解放しており、三階からは従業員の住居スペースとなっている。
ベッドとクローゼット、備え付けのトイレがあるくらいの部屋で風呂やキッチンは共用だが、ヒロは寮暮らしに慣れていたため非常に気に入っていた。
そして故郷を失ったエリーゼとクルトは、ギルドで働く代わりに、ヒロの近くの部屋を借りていた。
「おっ、やっと帰ってきた!」
「ヒロも、いま戻ったとこ?」
一仕事を終えたクルトとミライが、慌ただしく帰ってきたヒロを玄関前で出迎える。
クルトは足の速さを活かして、ギルドの配達員の仕事を請け負っていた。
対するミライはサリエラの下で、戦後処理や緊急クエストをこなしていたらしい。
「なんとか一仕事してきたからな。遺物をウォルターに返さなきゃいけないし」
「そういうとこ律儀だよな」
クルトが頭の後ろで手を組み、口を尖らせる。
「で、俺に用があるって聞いたけど」
「ああ。なんかバサナからライオンの王様宛に何か運ばれてきたんだよ。んで、アリ獣人が『あのヒロって悪魔には絶対渡すなリ!』なんて言ってて」
「それで一旦俺に渡そうと思った、と」
「村滅ぼした敗戦国の言うことなんて聞きたくないしな」
「やってることは酷いけど、背景が背景だから、うん」
ミライが言い聞かせるように呟いているうちに、金髪の少年が自室から荷物を運び出す。
包帯で厳重に巻かれた細長い物体を見たヒロが、気味の悪そうなものを見たように顔をしかめる。
「うわ、なんだよこれ。ミイラ?」
「ミイラってなんだよ。ミライの親戚?」
「むっ」
勝手に死体の親戚にされたミライが、不機嫌そうに頬を膨らませながら否定する。
「違う。死んだ生き物の身体を乾燥させたもの。私は化け物じゃない」
「ゲェー、オレそんなもの運んでたってことか!? マナ化しねえのかよ!?」
「まあまあ、開けてみようよ」
後ずさるクルトを嗜めながら、さっそくヒロが包帯を外してみた。
すると中に封じられていた、金色とも銅色とも取れないような籠手が姿を表した。
博物館に展示されているような非常に長い年季の入ったもので、人差し指のみ長い鉤爪が付けられていた。
「これは……爪?」
「いったいどうして、これをヒロに渡すなって言ったんだろな」
クルトの疑問に共鳴するように、ヒロが籠手に指先を当てる。
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『神様、いるなら助けてよ神様!!』
『君たち十人は選ばれた』
『ワタシが、あんなこと願ったから……?』
『この記憶を五つに分けよう。邪なる者に渡らないように』
『モンスターを人に戻す方法を、ここに記す――』
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「――ッ!?」
瞬間、ヒロが目を全開にして飛び退いた。
そのため籠手が宙を舞い、木の床にバウンドして転がった。
「ヒロ!」
「どうしたの!?」
「いま、知らない景色が流れ込んできた……アルテンシアでも見たことない感じの」
「え、どういう――」
恐る恐るミライも拾い上げようと手で触れた瞬間、ヒロと同じように身体を硬らせて尻餅をついた。
「ひゅっ!?」
「ミライまで!? いったい何が起きたんだよ!」
「し、知らない。なにこれ、わからない」
「俺は触れても全然なにも起こらねえぞ? とりあえずこれ巻き直しとくからな!」
そう首を傾げながら、クルトは包帯を巻き直す。
その間に転生者たちが、見えた光景について共有し合う。
「……なんか、彫刻っぽいっていうか、それでいて機械的な感じの……そんな風景だったよな」
「うん。だいたい同じだと思う。神話みたいな感じの」
「それにクルトが触れても意味がないってことは……」
「恐らくだけど、転生者が触れた瞬間に、誰かの記憶が流れ込んできたんじゃないかなって」
「誰かの?」
「だって……モンスターを人に戻す方法って言ってたし」
ハッとした。幼馴染を見つけ、勇者となり、次にできた目標。
その手がかりが、この年季の入った籠手に隠されている。
「真央を人間に戻す方法が、あるかもしれない……」
そう呟きながら、バサナから運ばれてきた秘宝をマジマジと見つめていた。




