第57話 二人の絆③
ヒロが大鎌を力一杯に振り、夜色の衝撃波を飛ばす。
対するキョウヤは拳で打ち砕くが、体勢を極限まで低くして急接近したヒロが、鎌を力一杯振り上げる。
『止まれ』
捕食者が絶対の命令を放つ。
だが、状態異常の効かない死神の大鎌は止まらない。
「チィッ!!」
キョウヤは咄嗟に左腕を差し出し、致命傷を避ける。
だがヒロの力は想像以上に強く、少しだけだが身体が浮いた。
「セァアアアアッッ!!」
好機と言わんばかりに全力で身体を回し、遠心力で刃先に刺さった敵を投げ飛ばした。
『オレを支えろォオオ!!』
ジェット機のような速さで飛ばされた先の木々に向けて思い切り叫ぶ。
すると葉の生い茂る枝がキョウヤの背中を支えるように垂れ下がり、ダメージを最小限に抑えてみせた。
「俺のターンは終わらない」
「ッ!」
思わず一安心しようとしたキョウヤの完全に、赤い鎧兜へと姿を変えたヒロが躍り出る。
そして拳を振り上げ、ダメ押しと言わんばかりに撃ち抜いた。
「ぐうッ!!」
「まだまだァ!!」
「チッ。『崩れろ』」
「死神装備!!」
キョウヤの命令に合わせ、すぐさまヒロも装備を変える。
振るおうとした剣が大鎌に変わり、敵の喉元めがけて刃が飛ぼうとしていた。
「同じ手が二度も通じるわけ無ェだろ!!」
「な、足場が……!?」
しかし、キョウヤが命令したのは大地に対してだった。
落ち葉や腐葉土に溢れた森の豊かな土が崩壊し、岩肌の露出した不毛な地へと変わる。
「地獄までブッ飛べ!!」
足場を無くして体勢を崩したところを、キョウヤの凄まじい飛び込みと共に、大砲の如き拳が放たれる。
「ゔあああっ!!」
そのままヒロは、弾丸のように岩肌へと突き刺さる。
今まで身体の奥底から蓄積されていったダメージが爆発し、脳と骨を強く揺らされ意識が朦朧としてしまう。
そして、キョウヤの能力を無力化する闇色の装備も、破れて使い物にならなくなった。
「これであと一つだ」
キョウヤが勝ちを確信したかのように言い放つ。
「……戦士、装備……」
ヒロの執念に呼応するように、赤い光が身体を包み込み、戦士の鎧兜へと姿を変える。
しかし。
「いや、終わりだ。『死ね』」
死神装備と癒師装備を失った時点で、ヒロは既に詰んでいた。
「あ――」
「ガルゥオ!!」
「っと?」
気を失いかけているヒロの間に、白い狼が入り込む。
そしてキョウヤの能力をマナに変換し、自らの糧としてみせた。
「コイツを守ろうってか? 生憎、今のオレは弱い生き物に興味ねェんだ」
「キャウ!?」
だが、キョウヤの動き出しは速かった。
死の能力が万能では無いことを何度も実感させられたため、能力をマナに変換したマオの首元を掴み、握り潰そうとする。
「テメェ城山なんだってな。なんでモンスターなんかになっちまったんだ、これじゃまるで弱い者いじめだ」
「グ、ゥウ……!」
「まあ確かに弱い者いじめは好きだ。だがな、強い者いじめのほうが、何千倍も好きなんだよ!!」
「ガッ……」
そしてマオの首から、ゴキュ、という音が鳴り響いた。
身体をピンと硬直させた直後にグッタリとした狼を、オモチャを捨てるように投げ飛ばす。
「もうテメェに価値なんてない」
「……」
マオはバウンドした後、力なくゴロゴロと地面を転がる。
「……ぅ、う」
ヒロの意識が戻り、割れた頭と身体を起こそうとする。
「そうだ……真央に、守られ」
そして、目に入ってしまった。
必ず守ると誓った幼馴染が、動かなくなっている姿が。
「情け無ェよな。男なのに彼女守れなくて」
「……まれ」
言葉にならない声が、嗚咽混じりの拒絶に変わる。
「せっかくだから教えてやる。なぜクソ雑魚ゲーム脳だったテメェが、高校で虐められなかったか」
「黙れ……」
「それはな。城山真央が裏で、ずっと、中嶋尋を守っていたからだよ」
「黙れ!」
「今も昔もテメェは変わらねェ! 彼女に守られてばっかの、ノミカス野郎だァ!!」
「黙れェエエエエエエッッ!!」
ずっと尋は、わかっていた。
真央が手を汚してまで、自分を守ってくれていることに気付いていた。
そんな事実にも目を背けるほど、弱くて、守られてばかりで、何者にもなれない自分のことが嫌いだった。
『折れろ』
「ッ……!」
怒りのこもった緋色の剣が、キョウヤの拳に折られゆく。
『砕けろ』
「がはっ……!」
勇気の装飾が入った真紅の鎧が、邪悪な拳に砕かれる。
『割れろ』
「ぅああああっっ!!」
アッパーカットでアゴごと兜を割られ、後方へと一気に吹き飛ばされた。
「これで完全試合だ。『死ね』」
全ての最強装備を砕かれたヒロは、なす術もなく死の勅令を受けてしまう。
そのまま身体が硬直し、体温が一気に冷え切ってしまう。
(……俺、どうしようもなかったんだ……真央も守れず、全ての、装備を――)
人生という舞台の閉幕を告げるカーテンがゆっくりと落ちてゆく。
音もなく身体がマナへと還り始め、意識が空気へ溶け込んでゆく。
(――あれは)
しかし、確かに見えたのだった。
(そうだ――)
ヒロの原点、勇者を目指すきっかけとなった、一枚の絵。
(俺たちの装備は、もう一つある)
希望は、まだ死んではいない。
瞼の奥に映る走馬灯と照らし合わせ、二人の絆を、何でもできると思っていた幼き頃の記憶を呼び覚ました。




