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第56話 二人の絆②

 ヒロが放った混沌の渦は、前方にある全てを消し飛ばしながら進撃する。

 当然そこには、ヒロの最終奥義カラミティスキルをかわしきれなかった仇敵の姿もあった。


「やったか!?」


「ワゥッ!」


 やがて、渦が収まってゆく。

 そして通り過ぎた跡には、抉り取られたように表露した土や岩肌しか残されていなかった。


「か、勝った……ゲホッ、ゲッ、ヴォエ!!」


「ワォ!?」


 最終奥義の反動で咳き込みうずくまるヒロに、マオが敵から吸収した魔力を受け渡す。

 魔力切れ寸前にまで陥った身体に生命エネルギーが注入されるにつれて、ヒロの表情も段々と和らいでゆく。


「ぷはぁ! た、助かった。ありがと!」


「ワゥ!」


「……本当は俺の必殺技を撃ちたかったけど」


「ヴワゥ!」


「いでぇ!?」


 ボソっと漏らした言葉に反応したマオが、ヒロの腕に噛み付く。


「やめろ、痛えっ……え?」


 狼を振り解こうと腕を振り回していたときだった。

 岩肌がボコボコと音を立てながら盛り上がり、地中から傷だらけのキョウヤが姿を現したのだ。


「野郎! この死に損ないが」


「きょーやに! 近づくなぁ!!」


 ボロボロのキョウヤにトドメを刺すべく戦士装備レッドフォームを顕現して突撃しようとするが、その間に割り込む影があった。

 全身を黒いゴスロリで固めた小柄な少女、ミエコだ。まるでワガママな子供のように、プルプルと震え唇を噛みながら、体を大の字にしてキョウヤを庇おうてしていた。


「どけ」


「ど、どかない。き、きき、きょーやは、みぃが、守るから」


「どけよ」


「どかない!」


 ヒロも冷徹に言い放つが、それでもミエコは引こうとしない。

 一切の表情を変えずにキョウヤへ向かおうとするも、なおも通せん坊の姿勢を崩そうとしない。


「や……やぁ! 手と足、くっ付けるぞぉ!」


 ミエコが脅すも、足を止めようとしない。

 全く意に介そうとしないヒロに腹を立てた少女は、宣言通りに両手で彼の手と足を触り、能力を発動しようとした。


「ぁ……効いてな、ぅえぇっ?!」


 しかし力量差があり過ぎたため、ヒロに能力が全然効いていなかった。

 まるで虫を払い除けるように、ヒロがミエコを押し退ける。


「お前に構ってる暇なんてない」


「やだぁ!」


 倒された後も、ミエコは必死に敵の足にしがみついていた。

 ズルズルと引き摺られながらも、ミエコが必死に叫ぶ。


「もっと、みぃに構えよぉ! きょーやのとこには行かないでよぉ!!」


「……なあ。弱い人の気持ちを考えたこと、あるか?」


「当たり前だろぉ! みぃがそうなんだからぁ!!」


「そうだな。そしてお前は、ただ強い人にくっ付くだけのコバンザメだ」


 そのままゴスロリの少女を蹴り飛ばし、強く地面を蹴りキョウヤへと剣を向ける。


「や、やぁあ!!」


 ミエコの無力な悲鳴を背に、緋色の剣が振り下ろされた。


『止まれ』


「ぁえ?」


「――な?」


 刃がキョウヤの頭を断つ寸前。

 キョウヤの声に呼応するように、ヒロの身体が動かなくなった。


「……ハハッ」


 確信したような笑みが、最凶の転生者から溢れる。


「最高だ、最高の気分だァ! 脳にドーパミンが満ち満ちてやがるぜェエ!!」


「きょーや、生きてたぁ! でも壊れたぁ!?」


 額に手を当て、キョウヤは悪魔のような高笑いを上げていた。

 ひとしきり笑った後、動けなくなったヒロの眼前で下卑た笑みを浮かべる。


「なぜテメェを剣闘士にしたかわかるか。それはテメェがオレを親の仇みてェに思っていたからだ!」


「――!」


「やれ正義だ大義だと言い訳せず、オレへの純粋な敵意を糧に強くなる。最高じゃねェか」


 狂喜の笑みを浮かべながら、キョウヤは自身の傷に手を当てて『治れ』と命令する。

 すると、たちまち傷が塞がってゆき、まるで何事も無かったかのように全回復してしまった。


「一人は奪われたが、テメェのおかげで進化できたぜ……殺ししかできなかった能力、『王様の命令』がなァ!!」


 死ねと告げれば死ぬ。

 治れと告げれば治る。

 あらゆる法に縛られぬ強者による、絶対の命令。

 これこそが、キョウヤの能力だった。


(ミライの翻訳と同じようなものなのか? いやアレは魔術を翻訳しているだけだ、アイツのはもっとタチが悪い!)


 相手を即死させる魔術も、動けなくする魔術も存在しない。

 もし存在するとしても膨大な魔力や詠唱を必要とし、また悪意に満ちているため世界的に使用が禁止されるのは目に見えているため、割に合わないのだ。

 だがキョウヤは違った。


『ぶっ飛べ』


 命令ひとつで、豆粒ほどに見えるプロキアの防壁めがけて、敵を吹き飛ばし、埋めることだって出来るのだ。


「か、ぁ……ぐ、癒師装備グリーンフォーム!」


 強力すぎる能力を無効化すべく、緑の神官の装備へと姿を変えて壁を蹴る。

 すぐさま戦線に復帰しようとしたが、キョウヤは音速とも言える速さでヒロの元へと飛んできていた。


「その装備にするだろうなァ!!」


 キョウヤの全身は筋肉が異様に盛り上がっていた。

 そして自身に筋肉を肥大させる命令を出し、人智を超えた跳躍をしたのだ。

 それに気が付くよりも早く、ヒロの顔面にミサイルのような拳が放たれた。


「ぶおおおおおおっ!?」


 咄嗟に杖を間に入れてガードしてみせる。

 だが衝撃をマナに変換できず、そして最強の杖も耐えきれず。


(まずい、この軌道だと城下町に被害が出る!)


 咄嗟に防壁直前の草原へと軌道を変えながら、墜落してしまった。


「……まじ、かよ……!」


 強い痺れと痛みにより手と背の感覚がなくなっていた。

 だがそれ以上に、ヒロを絶望させたのは。


「最強の装備が、壊れた……!」


 衝撃を変換できなかった癒師装備グリーンフォームの武器と手袋、そして背中が、ボロボロになり修復できなくなってしまったのだ。


「距離があるならば! 魔導装備ブルーフォーム!!」


 使い物にならなくなった緑の装備から、青の魔術師の装備へと姿を変える。

 すぐに陽魔術を唱えて敵の頭上に疑似的な太陽を作り出し、焼き尽くそうとする。


『反転しろ』


「なっ!?」


 だが、キョウヤは冷静だった。

 世界の重力を反転させ、ヒロの身体を宙に浮かせる。


「世界が、逆さに……」


「顔面にオーバーヘッドシュートされんのは初めてかァ!?」


「ぶぁああああっっ!?」


 そのまま浮かび上がるヒロの顔面に目掛けて強靭なハイキックを繰り出した。

 ゴールへとシュートされたヒロの身体は擬似太陽によって蒸発しかけてしまう。


『元に戻れ』


 キョウヤの号令で元に戻った重力により、ヒロの身体は垂直に落下し始める。

 既に魔導装備ブルーフォームも燃え尽きたため、悪あがきと言わんばかりに狩人装備イエローフォームを繰り出す。


「これ、でも喰らえ」


「何だそのオモチャ」


 共に落下する敵の身体めかけてヒロが光の矢を放つが、込められる魔力が既に殆どなかったため、光は細く、そして脆くなってしまっていた。

 そして地面に叩きつけられた途端、狩人装備イエローフォームも主人を落下の衝撃から守ったせいで使い物にならなくなってしまった。


「ぐぅっ!」


「ハッ。残すは紫と赤いやつ。それさえ壊せば、完全試合だな」


「その前に……お前を倒せば、いいだけだ」


 優雅に着地して余裕の表情を見せるキョウヤに、不時着してボロボロになったヒロが立ち上がりながら死神装備パープルフォームを呼び出し、大鎌を構え直す。


「最高だ! だからこそテメェの力を喰らって、オレは更なる最強になる!!」


「お前は必ず殺す。たとえこの命が、燃え尽きたとしても!!」


 もう二度と負けられないヒロと、土壇場で能力を進化させたキョウヤ。

 互いの全身全霊を懸けた両雄の激突も、佳境に入ろうとしていた。

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